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記事ソース/スピンの回転の数理†これはrst2hooktailの記事ソース保存・変換用です(詳細). コンバート公開・更新メニュー ▼▲記事ソースの内容============================================================ スピンの回転の数理 ============================================================ この記事は、スピノールの回転がなぜ <tex> \exp \left( - \dfrac{i \alpha}{2} (\bm{n} \cdot \bm{\sigma}) \right) \tag{##} </tex> で実現できるかを示します。 $\bm{n}=(n_x,n_y,n_z)$ であり、絶対値 $|\bm{n}|=1$ で $\bm{n}$ の方向が回転軸の方向です。(右ねじの関係です。)そして、 $\alpha$ が回転角の大きさです。私の 以前の記事_ では、『EMANの物理学』さんの スピノールの記事_ を引用しましたが、EMANさんはz軸方向の回転のみをお扱いになっておられたので、他の軸の回転も含めて理由を説明したいと思います。 無限小回転と有限回転 ============================= 何らかのパラメータ $\phi$ を持った関数 $f(\phi)$ の微小回転は、 <tex> f(\phi + d \phi) = \left( 1+d \phi \dfrac{\partial}{\partial \phi} \right) f(\phi) \tag{##} </tex> で表現できます。 パラメータ増分 $\phi_0$ の有限回転にするには、これを $\phi_0/d \phi$ 回行い、 $d \phi \to 0$ に近づけます。 <tex> f(\phi + \phi_0) &= \lim_{d \phi \to 0} \left( 1+d \phi \dfrac{\partial}{\partial \phi} \right)^{\phi_0/d \phi} f(\phi) \\ &= \exp \left( \phi_0 \dfrac{\partial}{\partial \phi} \right) f(\phi) \tag{##} </tex> これは後で使います。 任意方向のスピノール ============================ パウリ行列を <tex> \bm{\sigma} &= (\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z) \\ \sigma_x &= \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \\ \sigma_y &= \begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \end{pmatrix} \\ \sigma_z &= \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} \tag{##} </tex> とします。ここで、 $(\theta , \phi)$ 方向を向いたスピノール $| \chi \rangle $ を考えます。 それは、 <tex> | \chi \rangle = \begin{pmatrix} \cos \dfrac{\theta}{2} e^{-i\frac{\phi}{2}} \\ \sin \dfrac{\theta}{2} e^{i\frac{\phi}{2}} \end{pmatrix} \tag{##} </tex> となります。これは、スピノールの向く方向を表す単位ベクトル $\bm{n}$ を使った固有値問題、 <tex> (\bm{n} \cdot \bm{\sigma}) | \chi \rangle = \lambda | \chi \rangle \tag{##} </tex> の固有スピノールです。 接スピノールを集める(z軸周り) ================================ ここで、 $| \chi \rangle$ の偏微分を考えます。 $\dfrac{\partial}{\partial \phi}$ は解釈がしやすいです。 やってみましょう。 <tex> \dfrac{\partial | \chi \rangle }{\partial \phi} &= -\dfrac{i}{2} \begin{pmatrix} \cos \dfrac{\theta}{2} e^{-i\frac{\phi}{2}} \\ -\sin \dfrac{\theta}{2} e^{i\frac{\phi}{2}} \end{pmatrix} \\ &= -\dfrac{i}{2} \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \cos \dfrac{\theta}{2} e^{-i\frac{\phi}{2}} \\ \sin \dfrac{\theta}{2} e^{i\frac{\phi}{2}} \end{pmatrix} \\ &= -\dfrac{i}{2} \sigma_z | \chi \rangle \tag{##} </tex> よって、 $z$ 軸周りの角度 $\alpha_z$ 回転は、 <tex> | \chi(\theta, \phi + \alpha_z) \rangle &= \lim_{d \phi \to 0} \left( 1 + d \phi \dfrac{\partial}{\partial \phi} \right)^{\alpha_z/d \phi} | \chi(\theta, \phi) \rangle \\ &= \exp \left( \alpha_z \dfrac{\partial}{\partial \phi} \right) | \chi(\theta, \phi) \rangle \\ &= \exp \left( - \dfrac{i}{2} \alpha_z \sigma_z \right) | \chi(\theta, \phi) \rangle \tag{##} </tex> ですから、 <tex> Z(\alpha_z) &\equiv \exp \left( - \dfrac{i}{2} \alpha_z \sigma_z \right) \\ &= \begin{pmatrix} e^{- i \alpha_z /2} & 0 \\ 0 & e^{ i \alpha_z /2} \end{pmatrix} </tex> 接スピノールを集める(y軸周り) ================================ 次に、 $\dfrac{\partial | \chi \rangle }{\partial \theta}$ を求めます。 ここで、パラメータを設定しておきます。詳しくは図を見てください。 .. image :: chromel-spinRotation2-01.png ここで $x$ 系は空間の基本的な枠組みでそこでスピノールの向きが指定されます。 一方、 $x^\prime$ 系はスピノールの $\phi$ 方向を $x^\prime$ 軸に合わせたものです。 つまり、いつスピノールを見ても、 $x^\prime z^\prime$ 平面にスピノールがあります。 何を意図しているか言ってしまうと、 $x$ 系は演算 $\sigma_i$ と深い関係があり、 $x^\prime$ 系は $\dfrac{\partial}{\partial \theta},\dfrac{\partial}{\partial \phi},\dfrac{\partial}{\partial \psi}$ と関係が深いです。 ここで、 複雑な回転を単純な回転で表す方法_ を知っていると分かりやすいですが、 一応、こちらで必要な分だけ説明しようと思います。 今、 $\sigma_z$ は $z$ 軸周りの回転 $\phi$ での微分を表すのでした。 同様に、 $\sigma_y$ は $y$ 軸周りの回転方向の接スピノールを得る操作と考えられます。 しかし、今回は $\dfrac{\partial}{\partial \theta}$ は $y^\prime$ 軸周りの回転方向の接スピノールを得る操作を表します。 なぜならば、 $\theta$ はスピノールの向きを表していて、その向きから $d \theta$ だけ変化する方向を考えるからです。 ここで、以下の操作を考えます。 <tex> Z(\phi) \left( - \dfrac{i}{2} \sigma_y \right) Z(- \phi) | \chi(\theta,\phi) \rangle \tag{##} </tex> この操作は $\dfrac{\partial | \chi \rangle }{\partial \theta}$ を表しています。 1.まず、 $| \chi \rangle$ があります。 2.これを $z$ 軸周りに $-\phi$ だけ回転させて、$xz$ 平面内にスピノルを持ってきます。 3.ここで $\dfrac{\partial}{\partial \theta_0} = - \dfrac{i}{2} \sigma_y$ を施し、 $\theta_0$ 方向の接スピノールを求めます。 4.最後に $z$ 軸周りに $\phi$ だけ回転させて、 $\dfrac{\partial}{\partial \theta}$ を施した $\dfrac{\partial | \chi \rangle }{\partial \theta}$ を得ます。 つまり、この一連の操作は、 $y^\prime$ 周りの回転 $\theta$ 方向への接スピノールを求めたことになります。 <tex> \dfrac{\partial | \chi \rangle }{\partial \theta} &= Z(\phi) \left( - \dfrac{i}{2} \sigma_y \right) Z(- \phi) | \chi(\theta,\phi) \rangle \\ &= \begin{pmatrix} e^{-i \phi /2} & 0 \\ 0 & e^{i \phi /2} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & -1/2 \\ 1/2 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} e^{i \phi /2} & 0 \\ 0 & e^{-i \phi /2} \end{pmatrix} | \chi(\theta,\phi) \rangle \\ &= \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} 0 & -e^{-i \phi} \\ e^{i \phi} & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \cos \dfrac{\theta}{2} e^{-i\frac{\phi}{2}} \\ \sin \dfrac{\theta}{2} e^{i\frac{\phi}{2}} \end{pmatrix} \\ &= \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} - \sin \dfrac{\theta}{2} e^{-i\frac{\phi}{2}} \\ \cos \dfrac{\theta}{2} e^{i\frac{\phi}{2}} \end{pmatrix} \tag{##} </tex> の関係があります。これで、 $\theta$ 方向の接スピノールも得られました。 確認をしておくと、実際、スピノールを微分した結果と比べると、 <tex> \dfrac{\partial | \chi \rangle }{\partial \theta} &= \begin{pmatrix} \partial_\theta \cos \dfrac{\theta}{2} e^{-i\frac{\phi}{2}} \\ \partial_\theta \sin \dfrac{\theta}{2} e^{i\frac{\phi}{2}} \end{pmatrix} \\ &= \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} - \sin \dfrac{\theta}{2} e^{-i\frac{\phi}{2}} \\ \cos \dfrac{\theta}{2} e^{i\frac{\phi}{2}} \end{pmatrix} </tex> と一致します。 接スピノールを集める(x軸周り) ================================ 最後に $\psi$ の接スピノールです。これは、最初分かりませんでした。 でも、こう考えればよいです。 さっき、 $y^\prime$ 軸周りの回転を表すのに $-\phi$ 回転させ、 $y^\prime$ 軸を $y$ 軸にもってきました。 今度は、 $\dfrac{\pi}{2}-\phi$ 回転させて、 $\theta_0$ 軸周りに $ - \dfrac{i}{2} \sigma_y$ で接スピノールを求め、 最後に $-\dfrac{\pi}{2}+\phi$ 回転させたものが、 $\dfrac{\partial}{\partial \psi}$ となります。つまり、 $x^\prime$ 軸周りの回転方向の接スピノールが求まった訳です。 .. image :: chromel-spinRotation2-02.png よって、今度は、 <tex> \dfrac{\partial | \chi \rangle }{\partial \psi} &= Z(-\dfrac{\pi}{2}+\phi) \left( - \dfrac{i}{2} \sigma_y \right) Z(\dfrac{\pi}{2} - \phi) | \chi(\theta,\phi) \rangle \\ &= \begin{pmatrix} e^{-i(-\pi/4 + \phi /2)} & 0 \\ 0 & e^{i(-\pi/4 + \phi /2)} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & -1/2 \\ 1/2 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} e^{-i(\pi/4 - \phi /2)} & 0 \\ 0 & e^{i(\pi/4 - \phi /2)} \end{pmatrix}| \chi(\theta,\phi) \rangle \\ &= \begin{pmatrix} e^{-i \phi /2} & 0 \\ 0 & e^{i \phi /2} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & -i/2 \\ -i/2 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} e^{i\phi /2} & 0 \\ 0 & e^{-i\phi /2} \end{pmatrix} \\ &= Z(\phi)\left(- \dfrac{i}{2} \sigma_x \right)Z(-\phi) | \chi(\theta,\phi) \rangle \tag{##} </tex> が間接的にではありますが、示せました。 最初の $z$ 軸周りの接スピノールも形式を揃えて、リストにすると、 <tex> \dfrac{\partial}{\partial \psi} &= Z(\phi)\left(- \dfrac{i}{2} \sigma_x \right)Z(-\phi) \\ \dfrac{\partial}{\partial \theta} &= Z(\phi)\left(- \dfrac{i}{2} \sigma_y \right)Z(-\phi) \\ \dfrac{\partial}{\partial \phi} &= Z(\phi)\left(- \dfrac{i}{2} \sigma_z \right)Z(-\phi) \tag{##} </tex> となる訳です。(左辺は一応行列だと思います。スカラーとして $Z$ を左辺に移すとスカラーだった場合、 $Z(-\phi)Z(\phi)=E$ で打ち消されてしまうから、 $\dfrac{\partial}{\partial \psi} = - \dfrac{i}{2} \sigma_x$ という間違った数式になるからです。ここらへんは難しいです。。) 本題 ================== ここで、微小回転 $R(\bm{n},d\alpha)$ を、回転軸の方向を持つ単位ベクトル $d \alpha \bm{n} = d \alpha (n_x,n_y,n_z)$ ( $d \alpha$ は微小回転角)を用いて表せて、 <tex> R(\bm{n},d\alpha) &= d \alpha \left( n_x \dfrac{\partial}{\partial \psi_0} + n_y \dfrac{\partial}{\partial \theta_0} + n_z \dfrac{\partial}{\partial \phi_0} \right) \\ &= d \alpha Z(-\phi) \left( n_x \dfrac{\partial}{\partial \psi} + n_y \dfrac{\partial}{\partial \theta} + n_z \dfrac{\partial}{\partial \phi} \right)Z(\phi) \\ &= -\dfrac{i}{2} d \alpha (n_x \sigma_x +n_y \sigma_y +n_z \sigma_z) \\ &= -\dfrac{i}{2} (\bm{n} \cdot \bm{\sigma}) d \alpha \\ &\equiv R d \alpha \tag{##} </tex> となります。注意として微小回転ならば、有限回転と違って足し合わせるし、可換になります。 後は、 $\bm{n}$ 軸周りの微小回転が表現できたので、 <tex> R(\bm{n},\alpha) &= \lim_{d \alpha \to 0}(1+R d \alpha )^{\alpha/d \alpha} \\ &= \exp \left( - \dfrac{i \alpha}{2} (\bm{n} \cdot \bm{\sigma}) \right) \tag{##} </tex> これがスピノールを回転軸 $\bm{n}$ として、その方向を右ねじが進む方向に一致させた回転角 $\alpha$ だけ回転させる演算です。 それでは今日はここまで。お疲れ様でした。 .. _以前の記事: http://hooktail.sub.jp/quantum/spinRotation/ .. _複雑な回転を単純な回転で表す方法: http://hooktail.sub.jp/vectoranalysis/rotOfNewAxisAndOldAxis/ .. _スピノールの記事: http://eman-physics.net/quantum/spinor.html @@author:クロメル@@ @@accept:2020-06-14@@ @@category:量子力学@@ @@id:spinRotation2@@ |