物理のかぎしっぽ :book/マクスウェル方程式というもの

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マクスウェル方程式というもの
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電磁気学を学ぶと出てくる方程式、それがマクスウェル方程式です。
高校の物理では出てきませんが、力学におけるニュートンの方程式に当たるもので、とても重要です。

.. figure:: co-maxwell-01.jpg

      James Clerk Maxwell (1931-1879)

マクスウェル(James Clerk Maxwell, 1831-1879) はスコットランドのエディンバラに生まれ、数理物理学者として活躍しました。
1931年、マクスウェル生誕100周年の記念パーティーで、かのアインシュタインもマクスウェルの仕事について次のように記しています。

"... most profound and the most fruitful that physics has experienced since the time of Newton."
(物理学がニュートン以来に得た、もっとも深淵で有益なものだ。)

では、マクスウェル方程式について見ていくことにしましょう。
マクスウェル方程式は電磁気学の基礎方程式です。
古典力学でいうニュートンの運動方程式にあたるものです。
すべての電磁気現象はマクスウェル方程式に諸条件を課すことで説明できると信じられています。
マクスウェル方程式を示します。

<tex>
\nabla \cdot \bm{E} = \frac{\rho}{\epsilon_0} \label{Gauss}\\
\nabla \cdot \bm{B} = 0 \label{monopole}\\ 
\nabla \times \bm{E} = - \frac{\partial B}{\partial t} \label{Faraday}\\
\nabla \times \bm{B} = \mu_0 \left( \bm{j} + \epsilon_0 \frac{\partial{\bm{E}}}{\partial t} \right) \label{Ampere}
</tex>

ここで $\bm{E}$ は電場、 $\bm{B}$ は磁場(磁束密度)、 $\rho$ は電荷密度、 $\bm{J}$ は電流密度です。
$\epsilon_0$ 、 $\mu_0$ はそれぞれ真空の誘電率、真空の透磁率と呼ばれる定数です。
それぞれの文字の意味は、高校で物理を習ったことがある方ならば分かると思います。
補助的な場を導入して電束密度 $D$ や磁場 $H$ を使って著すこともあります。話を簡単にするために、ここでは (\ref{Gauss}) - (\ref{Ampere}) 式を使うことにします。

(\ref{Gauss})式は **ガウスの法則** と呼ばれています。
左辺は電場の発散と呼ばれる量です。
簡単に言えば、ある点からどれだけ電場がわき出しているかを表しています。
この値が負の場合は、わき出しの反対、ある点に電場が吸い込まれているということになります。
一方、右辺はある点における電荷量を表しています。
つまり、ある点における電場の発生量はその点の電荷量に比例するということになります。
電荷あるところに電場わき出す(吸い込まれる)、電場がわき出し(吸い込まれ)ていたらそこには電荷がある、これが(\ref{Gauss})式のガウスの法則が意味するところです。

(\ref{monopole})式は **磁化に関するガウスの法則** と呼ばれます。
左辺は(\ref{Gauss})式の時と同様に、ある点の磁場のわき出し、または吸い込みを表しています。
一方、右辺はゼロです。これは何を意味するのでしょうか。
これは **単一磁荷(モノポール)は存在しない** 、磁荷は正負が必ず同量ペアとなって存在すると考えます。
同量の磁荷がペアとなって存在すれば、その点からわき出す磁場と吸い込まれる磁場の量は等しくなります。
正味のわき出し量は常にゼロとなるわけです。 [*]_

.. [*] 同量が同じ場所に存在したら、磁場はゼロになるんじゃないか?と思うかもしれません。気になる場合には「(電気/磁気)双極子」という言葉を調べてみてください。

(\ref{Faraday})式は **ファラデーの法則** と呼ばれます。
左辺は電場の循環という量を表しています。
右辺は磁場の時間的変化量を表しています。
例えば図のような銅線を一周させた半径 $a$ のコイルがあるとします。

.. figure:: co-maxwell-02.png

      ファラデーの法則

このコイルを通り抜ける磁場があり、それが時間的に変化するとします。
このときコイルには磁場の変化を妨げる方向に電流が流れます。
コイルに電位差が発生したわけです。
高校の物理でも習う **ファラデーの法則** です。
さて、いまコイルがなかったとしたらどうでしょう?
その場合にでも、ある場所で磁場が時間的に変化するならば空間にはその磁場をとりまく向き(かつ変動磁場の変化を妨げる向き)に電場が生じるよ、というのが(\ref{Faraday})式が言っていることです。
空間に仮想的なコイルを想像すれば、そのコイルには電流が流れることになります。

少し脱線しますが、このファラデーの法則を応用した有名なものが身の回りにたくさんあります。
思い浮かびますか?
一つ例をあげれば東日本では Suica 、西日本では ICOCA と呼ばれる非接触式 IC カードです。
このカード、電池もないのにどうやって読み取り機と通信しているのでしょうか。
実はカードの中にはコイルが入っています。
読み取り機側で変動磁場を発生させ、カードはファラデーの法則を使って発電し読み取り機との通信に必要な電力を得ています。

.. figure:: suicaicoca.png

     Suica (左) と ICOCA (右)。中にはコイルと IC チップが入っている。

さて、最後の(\ref{Ampere})式です。
これは **アンペールの法則** と呼ばれます。
左辺は(\ref{Faraday})式と同様に磁場の循環という量です。
右辺は電流密度と電場の時間変化の和になっています。
(\ref{Ampere})式の第二項を取り去ると、 $\nabla \times \bm{B} = \mu_0 \bm{j}$ となり、高校の物理で習うアンペールの法則になります。
「導線に電流が流れると、導線をとりまくように磁場が生じる」というものでした。
では新たに加わった第二項は何を意味するのでしょうか。
第二項は **変位電流** と呼ばれる項で、マクスウェルが付け加えた項です。
素直に解釈すれば「電場の時間変化があると、それをとりまくように磁場が生じる」ということになります。
ちょうどファラデーの法則の電場と磁場を入れ替えた、対称的な法則になっています。
実はこの変位電流項を付け加えたことで真空中を伝わる波、電磁波の存在が予言されます。
これについてはまた別な節でお話しします。

アンペールの法則を応用したものに、非接触式の電流センサがあります。
導線のまわりの磁場を測定してやることで、電流を測定するものです。
通常、電流計は電流径路と直列に接続してやらなければならず面倒なことが多いものです。
非接触で電流を測れるというのはとても便利ですね。

さて、ここまでマクスウェル方程式の 4 本の式をそれぞれ見てきました。
皆さんお気づきだと思いますが、それぞれの式にはマクスウェルとは別人の名前が付いています。
マクスウェルはいったい何をしたのでしょうか?
マクスウェルが偉いのは、それまでバラバラだった4本の式をまとめあげ、新たな現象「電磁波の伝播」の存在を予言したことでしょう。
彼がこの論文をロウソクの灯の下でまとめたという逸話もまた感慨深いものです。

ところでこのマクスウェル方程式、マクスウェルが発表した論文中では 20 変数からなる 20 本の式(!?)でした。
それを 2 変数からなる 4 本の式に簡略化したのはヘヴィサイド(Oliver Heaviside, 1850-1925) です。
今日、我々がマクスウェル方程式と呼んでいるのは、実はヘヴィサイドが書き下したものです。

どうでしたか?
マクスウェル方程式は今まで習ったことのあること( $+α$ )が、少し難しい数学を使って書かれているに過ぎないと思えたでしょうか。


@@author: CO@@
@@accept:2007-09-09@@
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