================= ベクトル解析奮闘記(1) ================= はじめに ----------------- 講義などで初めてベクトル解析を習った時、“難しい”、“わけわからん”と思った経験がありませんか?実は私もその一人です。いまだに詳しくはわかりませんが、これまで私が悩んだ過程をここにご紹介して、もしご参考になればと思います。 初講義前日 ----------------- ベクトル解析って、ベクトルを使って問題解いたりするのでしょうか?ベクトルなら高校の数学で習ったし、要するに大きさと、方向(向き)を持つ概念ですよね?矢印作図して足し算したり、引き算したり、大きさを実数倍したり、特に始点を原点(0,0)にすれば終点の座標 $(x,y)$ でベクトルを表せちゃいます。作図しなくても、そういう風に成分表示すれば足し算、引き算も簡単です。内積だってわかります。成分で書くと $(a,b)\cdot(c,d)=ac+bd$ とすればいいのです。簡単、なはずです。 たいした事ないですよ、きっと。実は明日ベクトル解析の初講義なんですが、予習なんてしないで寝ちゃおっと・・・。 翌日初講義終了。ところが! -------------------- わー、なんなんだこれは! わからん、全くわからん!だいたい三角関数の ${\rm sin,cos}$ じゃあるまいし、なんで ベクトルやるのに3,4文字英単語( ${\rm grad}$ (グラジエント)、 ${\rm div}$ (ダイバージェンス)、 ${\rm rot}$ (ローテーション))や、おまけに偏微分記号まで出てくるんでしょう!もちろん ${\rm sin,cos}$ は私でもわかります、直角三角形の辺の比ですよね?(絵を書いてみればすぐわかります。)偏微分だって、他の変数(例えば $x$ で微分する場合、それ以外の $y,z$ など)を定数と見て、微分する事でしょ?それも知ってるんだがなあ。いずれにせよこれは家に帰ってよく復習しないと。電磁気学はこれ使うって言うし・・・。 自宅で復習(gradの巻) ------------------------ ここであきらめたり、あせってもしょうがないのでまずゆっくり順番に考えてみました。 " ${\rm grad}$ "はえーっと" ${\rm gradient}$ (傾き)"の略ですか・・・。たしか先生が黒板に書いた式は {\rm grad}f=(\frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y},\frac{\partial f}{\partial z}) だったなー。 う〜ん、 ${\rm grad}$ ももちろん、 $\partial$ がいかにも難しそう・・・。でも冷静に見ると、これは値が三つ組みになってるから、スカラー(ベクトルのように方向を持たないただの数値)関数 $f$ から3次元のベクトルを一つ作ったようですね(どんなベクトルかはまだわかりませんが)。とりあえず、わかりやすくするために $z$ を省いて2次元で考えると {\rm grad} f=(\frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y}) あれっ、こうやってみると、 $x$ の変化に対する $f$ の変化率と、 $y$ の変化に対する $f$ の変化率を $x,y$ 成分に持つベクトルのようですね。例えば $f$ を具体的に考えると f=3x+4yなら \frac{\partial f}{\partial x}=3 ( $4y$ は定数扱いで $0$ になる)\frac{\partial f}{\partial y}=4 ( $3x$ は定数扱いで $0$ になる)だから {\rm grad}f=(3,4)となるわけですか・・・。 一体このベクトルは何者でしょうか? 今の場合、変数 $(x,y)$ の変化に対する $f$ の変化率を表記する時に、 $x$ 方向に対する変化率は $3$ 、 $y$ 方向に対する変化率は $4$ 、ということなのですが、どちらか $0$ なら、片方だけ(数値1個)で表されるのでしょうけど、実際はそうとは限らないし、 $x$ 方向と $y$ 方向じゃ違う方向の大きさですから、 $3+4=7$ と足し算するわけにもいきません。もし $(1,100)$ なら、ほとんど $y$ 方向と考えていいけど、 $x$ 方向も完全に無視はできないし、それぞれの方向の大きさに応じた合成方向・・・というわけですか。この数値の場合と、一般的な場合をグラフに書くと以下のようになりますね。 .. image:: yakan-grad-fig1.png .. image:: yakan-grad-fig2.png なるほど、それで $x$ 方向と $y$ 方向の変化率をそれぞれ $x$ 方向と $y$ 方向の成分としたベクトル{\rm grad} f=(\frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y}) を考えれば、まとめて表記できるわけですね。 $x$ 方向の変化率を(\frac{\partial f}{\partial x},0)、 $y$ 方向の変化率を(0,\frac{\partial f}{\partial y})と、それぞれ自体ベクトルと考えると、 (\frac{\partial f}{\partial x},0)+(0,\frac{\partial f}{\partial y} )=(\frac{\partial f}{\partial x},\frac{\partial f}{\partial y})={\rm grad} fですから、 ${\rm grad} f$ は $x$ の変化率と $y$ の変化率を方向も含めて合成した、一番変化率の高い(坂で言えば勾配のきつい)方向を向いてるベクトルなんですね。だから ${\rm grad}$ (勾配)というのか・・・。ふー、やっとわかった気がします。( $z$ を増やして3次元で考えても同じ事ですね) 勾配がきつい方向ということは、矢印を逆にすれば、ボールが転がり落ちてくる方向になります(下図)。 .. image:: yakan-grad-fig3.png @@author:やかん@@ @@information:イラスト:崎間@@ @@accept:YYYY-MM-DD@@