物理のかぎしっぽ 記事ソース/ヴントと心理学の誕生 の変更点

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 ヴントと心理学の誕生
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 背景
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 1879年にヴントはライプツィヒ大学に心理学実験室を開いた。
 人間が人間の心に関心を寄せ、それに接近する試みは古くはピラミッドの時代に遡る。
 ピラミッド時代、肉体をミイラとして保存したのは死によって魂が離れてもそれ自体は不滅なものとされたからである。
 その後、弱者や身分の低いものにも魂の権利がキリスト教によってもたらされ、
 近世に入ると個人の心が市民権を得る。「知識は力なり」のベイコン(1561-1626)や
 「どんな観念も感覚から起こる」としたハートレイ(1705-57)が心理学の分野で成功を収め、
 ようやくデカルトが登場し『方法序説』(1637)の中で何が真であるのか問い詰め、
 「我思うゆえに我あり」と説いた。その後、自然科学が目覚ましく進歩し、資本主義と鉄道の発達によって、
 鉄道事故を機に惨事トラウマの発見につながり、医学が心の問題に接近する動機をつくった。
 天文学や神経生理学もめざましい発展を遂げ、ヴント心理学が誕生してゆくのである。
 
 心理学とは
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 ヴントはカエルの神経衝撃の伝達速度を実験したヘルムホルツ(1821-94)の助手として働いていた。
 ヴントの心理学は生理学から出発しているのと同時にイギリスのミル(1806-68)が提起した「心的化学」の影響を受けて、
 心理学が諸科学と共通しながらも独自の対象と方法を持つことを主張した。
 例えば私たちは雨だれの音にリズムを感じる。
 一つ一つの水滴の質量や落下の間隔は等しいはずである。客観的には雨だれにはリズムのための条件はない。
 しかし科学的認識は重さとか時間の概念を仲立ちにして始めて接近できる間接経験であり、
 直接経験としてはリズムが聞こえるとなる。私たちはインクのシミにさえ、モノの形や動きなどの意味をみる。
 このような現象についての法則性を探すのが心理学である。 
 
 ヴントの試みと影響
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 ヴントは自己観察によってとらえられる意識過程を分析し、
 心の要素を発見すること。次にその要素の結合方法を決めること。
 そして結合の法則を明らかにすることを研究した。自己観察の実験にメトロノームを使ったものがあり、
 拍の速度によって聞いている者の感情が快か不快か変化が現れるものである。
 感情には「快―不快」「緊張―弛緩」「興奮―沈静」とあり、これらをヴントの「感情の三方向説」という。
 ヴントの影響は凄まじく、この実験は生理学者たちと同じ実験手段を使ったとしても、
 それによる刺激(物理)、感覚(生理)を見るよりは心的体験の内省的分析をすすめる手段とみなしたためであった。
 その後、ヴントの心理学実験室で各国から学生が訪れた。ヴントの助手のホールのもとには日本の元良勇次郎(1858-1912)が学び、
 東京大学で精神物理学、心理学教室を創設した。
 それからヴントの実験の流れを汲んだロシアのセチェーノフを引き継ぎ、
 犬の条件反射で有名なパブロフが登場する。このパブロフ(1849-1936)の言語条件反射理論は現代心理学に大きな影響を与えた。
 それからフロイト(1856-1939)の登場である。ヴントより約四半世紀遅い。
 フロイトの研究の中心は「無意識」であるのに対し、ヴント心理学は「意識」のみを対象に心理学を構築した。
 実験室的、講壇的なヴントに対し、フロイトは治療中心に人間の日常的流動性をとらえ、フロイトはヴントを超えるものとなった。
 
 ヴントの思想と現在
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 ヴントは牧師の父を持ち、唯物論の立場を表明したヘルムホルツの助手だった。
 生理学では刺激を与えて外部に現れる反応をデータに得るが、
 心理学は刺激を与えられた時の内部の経験をデータにする。ヴントは生理学的心理学というものを大事にしようとした 。
 心理学は直感的な現象として与えられるものを問題にする。ヴントの心理学は経験科学であるとして、形而上学を攻撃したり、
 行動主義心理学のワトソン(1878-1958)から、科学的客観性を持たないと攻撃されたり、
 ゲシュタルト心理学の学派から批判の声が上がったりしている。
 これは例えばネオンサインや電光ニュースなどの動かない電球の点滅を刺激として与えられた私たちが、
 なぜそこに形態の「動き」を見てしまうのか?これらはヴントの要素論では説明できないと指摘されているのである。
 ゲシュタルトは部分部分の結合ではなく、部分に優位し、部分を規定する全体の構造に注目するなど、
 目を向ける場所が異なるため、ヴントの心理学だけでは説明できないものも現れてきている。
 しかし今ではヴントのもとで学んだ多くのアメリカの学生が実験室を設けて、
 アメリカの心理学に多大な影響を及ぼしている。 
 
 
 @@reference: 亀谷純雄,伝えあい心理学原理,文化書房博文社,2006,p1-p214,4830110767@@
 
 @@author:きり@@
 @@accept:2019-12-10@@
 @@category:心理学@@
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