物理のかぎしっぽ 記事ソース/放射冷却現象 のバックアップの現在との差分(No.14)

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 放射冷却現象
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 この記事では「よく晴れた夜は冷え込みやすい」という経験について、 **放射冷却** の観点から物理的に考えてみたいと思います。
 この記事では *「よく晴れた夜は冷え込みやすい」* という経験について、 **放射冷却** の観点から物理的に考えてみたいと思います。
 
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 加熱過程
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 地表は昼間に太陽からの放射によって温められます。
 仮に、昼間のうちに地表が温度 $T$ まで暖められたとします。
 
 .. figure:: co-radiation-heating01.png
 
 
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 冷却過程
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 夜、太陽からの放射による加熱がなくなったときのことを考えることにします。
 このとき、地表が冷える過程にはいくつか考えることができます。
 地表が冷える過程はいくつか考えることができます。
 
 ひとつは大気と地表の直接的な熱交換です。
 地表の持つ熱が、空気と地表との接触部分から大気に流れていく過程です。
 空気と地表の接触面で起こるエネルギー交換過程なので、晴れた日でも曇っている日でも大きな変化はない過程です。
 
 もうひとつは **放射による冷却** 過程です。
 また、水が蒸発することなどで地表から熱が奪われることもあります。
 
 そして、もうひとつは *放射による冷却* です。
 放射による冷却の度合は、直接的な熱伝導による冷却の約3倍にもなります。 [*]_
 
 .. [*] 詳細は参考文献 2. の図を参照してください。
 
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 放射による冷却
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 熱を持った物体は、その温度に応じた電磁波を放射しています。
 電磁波を放射するとエネルギーを失なう、つまり冷えます。
 地表がどのような放射をするかは地表面の組成などにもよるのですが、ここでは地表面からの放射を黒体による放射、 **黒体放射** だと近似して考えてみることにします。
 これは物理では比較的よく使われる近似です。
 
 黒体がどのような波長の電磁波をどれだけ放射するかは **プランクの熱放射式** と呼ばれる式で表されます。
 
 <tex>
 B_{\nu} = \frac{8\pi}{c^3} \frac{h\nu^3}{\exp\left(\frac{h\nu}{kT}\right) - 1} \tag{#def(plank-nu)}
 </tex>
 .. <TEX>
 .. B_{\nu} = \frac{8\pi}{c^3} \frac{h\nu^3}{\exp\left(\frac{h\nu}{kT}\right) - 1} \tag{# def(plank-nu)}
 .. </TEX>
 .. 
 .. これを波長の表記に直すと次のように書けます。
 
 これを波長の表記に直すと次のように書けます。
 
 <tex>
 B_{\lambda} = \frac{8\pi h c}{\lambda^5} \frac{1}{\exp\left(\frac{hc}{\lambda k T}\right) - 1} \tag{#def(plank-lambda)}
 </tex>
 
 式 (#ref(plank-lambda)) をプロットすると次図のような形をしています。
 
 .. figure:: co-radiation-cooling01.png
 
 放射が極大となる波長はウィーンの変移則として知られており、次式のように書かれます。
 赤線は $T = 6000 \unit{K}$ 、緑線は $T = 300 \unit{K}$ としてプロットしたものです。(縦軸はそれぞれ適当です)
 それぞれ太陽の表面温度と、地表での典型的な気温程度の放射に相当しています。
 
 放射が極大となる波長(ピーク波長)の位置変化はウィーンの変移則として知られており、次式のように書かれます。
 
 <tex>
 \lambda_{\rm m} T = 0.002918 \unit{m}\unit{K} \tag{#def(Wien)}
 </tex>
 
 たとえば黒体の温度が $T = 300 \unit{K} = 27 \unit{C}^{\circ}$ だとしたら、そのピークは $\lambda_{\rm m} = \frac{0.002918 \unit{m} \unit{K}}{300 \unit{K}} = 9.7 \times 10^{-6} \unit{m} \simeq 10 \unit{\mu m}$ となります。 $10 \unit{\mu m}$ というと赤外線(Infrared)と呼ばれる波長帯です。
 $T = 300 \unit{K} = 27 \unit{C}^{\circ}$ だとしたら、そのピークは $\lambda_{\rm m} = \frac{0.002918 \unit{m} \unit{K}}{300 \unit{K}} = 9.7 \times 10^{-6} \unit{m} \simeq 10 \unit{\mu m}$ となります。
 $10 \unit{\mu m}$ というと赤外線(Infrared)と呼ばれる波長帯です。
 $T = 6000 \unit{K}$ だとすると $\lambda_{\rm m} = 4.9 \times 10^{-7} \unit{m} \simeq 490 \unit{nm}$ になります。
 これは可視光(optical)で、いわゆる青〜緑色の光に相当します。
 
 昼間に温められた地表の温度をだいたい $27 \unit{C}^{\circ}$ とすると、地表は主に赤外線を放射することによって冷却することになります。
 つまり、太陽は可視光を強く放射しています。
 また、地表は主に赤外線(Infrared)を放射し冷却することになります。
 
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 晴れの日と曇りの日
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 さて、では晴れの日と曇りの日の違いはなんでしょうか?
 
 それは「雲がでているか、でていないか」でしょう。
 
 雲は水蒸気のかたまりです。
 実は、水は非常に赤外線を強く吸収します。
 
 .. figure:: co-radiation-cooling02.png
 
 赤線は水の吸収係数、つまり電磁波の吸収のしやすさを描いたものです。
 縦軸は log スケールであることに注意して下さい。
 
 可視光(Optical)の領域では電磁波はほとんど吸収されない (水は透明ですもんね!) のに対して、赤外線は非常に強い吸収を受けることがわかります。
 可視光(Optical)はほとんど吸収されない (水は透明ですもんね!) のに対して、赤外線は非常に強い吸収を受けることがわかります。
 
 そして緑線が $T = 300 \unit{K}$ としたときの地表からの放射を表しています。赤外線の領域に放射が集中していることがわかります。
 緑線が $T = 300 \unit{K}$ としたときの地表からの放射を表しています。
 赤外線の領域に放射が集中していることがわかります。
 つまり、地表からの放射の大部分は雲によって吸収されることになります。
 
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 晴、曇り
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 晴れている日は雲がないので、地表から放射された電磁波はほとんどが大気圏外(宇宙)へ抜けていきます。
 
 一方、曇りの日は地上から放射された電磁波は大部分がいったん雲に吸収されることになります。
 雲は赤外線を吸収することであたためられます。そして赤外線を再放射しますが、このとき、地上に向けても放射される成分があります。
 総じて見ると、地表から放射した赤外線の何割かは、再び地表へ戻ってきて地表をあたためることになります。
 雲は赤外線を吸収することであたためられます。そして赤外線を再放射します。
 このとき、地上に向けても放射されることになります。
 総じて見ると、地表から放射した赤外線の何割かは、再び地表へ戻ってきて地表付近をあたためることになります。
 
 .. figure:: co-radiation-cooling03.png
 
 晴れた日は地表からの放射のほとんどが宇宙空間へ逃げてしまうのに対して、曇りの日は雲が何割かを地上に戻してくれるので冷めにくくなる、というわけです。
 
 これが *「よく晴れた夜は冷え込みやすい」* の物理的な説明になります。 
 
 
 @@reference: omlc.ogi.edu/spectra/water/abs/index.html, 水の吸収係数@@
 @@reference: physicsweb.org/articles/world/16/5/7/1/pwten2_05-03, Global Energy Budget@@
 @@reference: 久保亮五, 統計力学(改訂版), 共立全書, 1971,  64-65, 4320034236@@
 
 @@author: CO@@
 @@accept: 2006-11-30@@
 @@category: ようこそ、物理の世界へ@@
 @@category: ようこそ,物理の世界へ@@
 @@id: radiation-cooling@@
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