物理のかぎしっぽ 記事ソース/放射冷却現象 のバックアップ差分(No.13)

#rst2hooktail_source
 
 
 ========================================
 放射冷却現象
 ========================================
 
 この記事では「よく晴れた夜は冷え込みやすい」という経験について、 **放射冷却** の観点から物理的に考えてみたいと思います。
 
 ----------------------------
 加熱過程
 ----------------------------
 
 地表は昼間に太陽からの放射によって温められます。
 仮に、昼間のうちに地表が温度 $T$ まで暖められたとします。
 
 .. figure:: co-radiation-heating01.png
 
 ----------------------------
 冷却過程
 ----------------------------
 
 夜、太陽からの放射による加熱がなくなったときのことを考えることにします。
 このとき、地表が冷える過程にはいくつか考えることができます。
 
 ひとつは大気と地表の直接的な熱交換です。
 地表の持つ熱が、空気と地表との接触部分から大気に流れていく過程です。
 空気と地表の接触面で起こるエネルギー交換過程なので、晴れた日でも曇っている日でも大きな変化はない過程です。
 
 もうひとつは **放射による冷却** 過程です。
 熱を持った物体は、その温度に応じた電磁波を放射しています。
 電磁波を放射するとエネルギーを失なう、つまり冷えます。
 地表がどのような放射をするかは地表面の組成などにもよるのですが、ここでは地表面からの放射を黒体による放射、 **黒体放射** だと近似して考えてみることにします。
 これは物理では比較的よく使われる近似です。
 
 黒体がどのような波長の電磁波をどれだけ放射するかは **プランクの熱放射式** と呼ばれる式で表されます。
 
 <tex>
 B_{\nu} = \frac{8\pi}{c^3} \frac{h\nu^3}{\exp\left(\frac{h\nu}{kT}\right) - 1} \tag{#def(plank-nu)}
 </tex>
 
 これを波長の表記に直すと次のように書けます。
 
 <tex>
 B_{\lambda} = \frac{8\pi h c}{\lambda^5} \frac{1}{\exp\left(\frac{hc}{\lambda k T}\right) - 1} \tag{#def(plank-lambda)}
 </tex>
 
 式 (#ref(plank-lambda)) をプロットすると次図のような形をしています。
 
 .. figure:: co-radiation-cooling01.png
 
 放射が極大となる波長はウィーンの変移則として知られており、次式のように書かれます。
 
 <tex>
 \lambda_{\rm m} T = 0.002918 \unit{m}\unit{K} \tag{#def(Wien)}
 </tex>
 
 たとえば黒体の温度が $T = 300 \unit{K} = 27 \unit{C}^{\circ}$ だとしたら、そのピークは $\lambda_{\rm m} = \frac{0.002918 \unit{m} \unit{K}}{300 \unit{K}} = 9.7 \times 10^{-6} \unit{m} \simeq 10 \unit{\mu m}$ となります。 $10 \unit{\mu m}$ というと赤外線(Infrared)と呼ばれる波長帯です。
 
 昼間に温められた地表の温度をだいたい $27 \unit{C}^{\circ}$ とすると、地表は赤外線を強く放射することによって冷却することになります。
 
 --------------------------
 晴れの日と曇りの日
 --------------------------
 
 さて、では晴れの日と曇りの日の違いはなんでしょうか?
 それは「雲がでているか、でていないか」でしょう。
 
 雲は水蒸気のかたまりです。
 実は、水は非常に赤外線を強く吸収します。
 
 .. figure:: co-radiation-cooling02.png
 
 赤線は水の吸収係数、つまり電磁波の吸収のしやすさを描いたものです。
 縦軸は log スケールであることに注意して下さい。
 
 可視光(Optical)の領域では電磁波はほとんど吸収されない (水は透明ですもんね!) のに対して、赤外線は非常に強い吸収を受けることがわかります。
 
 そして緑線が $T = 300 \unit{K}$ としたときの地表からの放射を表しています。赤外線の領域に放射が集中していることがわかります。
 
 ! 晴、曇り
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 晴、曇り
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 晴れている日は雲がないので、地表から放射された電磁波はほとんどが大気圏外(宇宙)へ抜けていきます。
 
 一方、曇りの日は地上から放射された電磁波は大部分がいったん雲に吸収されることになります。
 そして雲も赤外線を再放射しますが、このとき、地上に向けても放射される成分があります。
 総じて見ると、地表から放射した赤外線の何割かは、再び地表へ戻ってくるということになります。
 雲は赤外線を吸収することであたためられます。そして赤外線を再放射しますが、このとき、地上に向けても放射される成分があります。
 総じて見ると、地表から放射した赤外線の何割かは、再び地表へ戻ってきて地表をあたためることになります。
 
 .. figure:: co-radiation-cooling03.png
 
 @@author: CO@@
 @@accept: 2006-11-30@@
 @@category: ようこそ、物理の世界へ@@
 @@id: radiation-cooling@@
トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Modified by 物理のかぎプロジェクト PukiWiki 1.4.6 Copyright © 2001-2005 PukiWiki Developers Team. License is GPL.
Based on "PukiWiki" 1.3 by yu-ji Powered by PHP 5.3.29 HTML convert time to 0.010 sec.