物理のかぎしっぽ 記事ソース/双対基底と双対空間 のバックアップ差分(No.1)

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 双対基底と双対空間
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 ここまでに、双対基底という添字の上下の異なる二種類の基底ベクトルが出てきました。二つの双対基底 $\bm{e_{i}} , \bm{e^{j}}$ は、次の性質を満たすのでした。
 
 
 <tex> 
 \bm{e_{i}} \cdot \bm{e^{j}} = {\delta}_{i}^{j}	\tag{1}
 </tex>
 
 
 ここまでの流れで、勘の良い人は何となく気づいてきているかも知れませんが、 $\bm{e_{i}}$ があるベクトル空間 $V$ の基底だとすると、 $\bm{e^{j}}$ はその双対空間 $V^{*}$ の基底になっています。双対空間の定義に戻り、 $V,V^{*}$ の基底で式 $(1)$ の関係がなりたつものを考えてみましょう。
 
 
 双対空間の基底
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 まず $\bm{e_{i}}$ をベクトル空間 $V$ の基底とします。つまり、 $V$ に属する任意の元 $\bm{x},\bm{y}$ は、適当なスカラー $x^{i}, y^{i}$ を使って次のように表現できるということです。
 
 <tex>
 \bm{x} = x^{1}\bm{e_{1}}+ x^{2}\bm{e_{2}}+ .... + x^{n}\bm{e_{n}}
 </tex>
 
 <tex>
 \bm{y} = y^{1}\bm{e_{1}}+ y^{2}\bm{e_{2}}+ .... + y^{n}\bm{e_{n}}
 </tex>
 
 
 これより、和 $\bm{x} +\bm{y}$ やスカラー積 $c\bm{x}$ は次のように表わされます。
 
 <tex>
 \bm{x}+\bm{y} = (x^{1}+y^{1})\bm{e_{1}}+ (x^{2}+y^{2})\bm{e_{2}}+ .... + (x^{n}+y^{n})\bm{e_{n}}
 </tex>
 
 
 <tex>
 c\bm{x} &= c(x^{1}\bm{e_{1}}+ x^{2}\bm{e_{2}}+ .... + x^{n}\bm{e_{n}}) \\ 
 &= cx^{1}\bm{e_{1}}+ cx^{2}\bm{e_{2}}+ .... + cx^{n}\bm{e_{n}})
 </tex>
 
 
 さて、 $V$ の元が表現できたので、さっそくこれに線形汎関数を作用させることを考えます。『ベクトルを一つの実数に対応させる』と言っても色々な写像が考えられますが、 $\bm{x}$ を、 $\bm{x}$ の第 $i$ 成分、すなわち $x^{i}$ に対応させる写像を考えてみましょう。これを ${\phi}_{i}$ と名づけます。
 
 
 <tex>
 {\phi}_{i} \ : \ \bm{x} \in V {\phi}_{i}(\bm{x}) = x^{i} \in R 
 </tex>
 
 
 この写像 ${\phi}_{i}$ は、確かに線形汎関数です。 ${\phi}_{i}$ が、線形写像の定義(次式)を満たすことを確認してみて下さい。
 
 
 <tex>
 {\phi}_{i}(\bm{x}+\bm{y})= x^{i} + y^{i} = {\phi}_{i}(\bm{x}) +  {\phi}_{i}(\bm{y}) 
 </tex>
 
 
 <tex>
 {\phi}_{i}(c\bm{x})= (cx^{i}) =c(x^{i})=c {\phi}_{i}(\bm{x})
 </tex>
 
 
 『ベクトル $\bm{x}$ に第 $i$ 成分 $x^{i}$ を対応させる線形写像』同士が、加法とスカラー積に関して閉じていることも明らかで、このような写像は $V^{*}$ の元になることが言えます。
 
 写像であることの雰囲気を出すために ${\phi}_{i}$ と書きましたが、今度は $V^{*}$ の元である雰囲気を出すために $\bm{e^{i}}$ と書き直しましょう。 ${\phi}_{i}=\bm{e^{i}}$ です。
 
 
 <tex>
 \bm{e^{i}} \cdot \bm{x} &= \bm{e^{i}}(x^{1}\bm{e_{1}}+ x^{2}\bm{e_{2}}+ .... + x^{n}\bm{e_{n}}) \\ 
 &= x^{i}
 </tex>
 
 
 両辺を見比べて、次式が要請されます。
 
 <tex>
 \bm{e^{i}}\cdot \bm{e_{j}}={\delta}_{j}^{i}	\tag{1}
 </tex>
 
 
 逆に $V^{*}$ の元を $\bm{x}=x_{1}\bm{e^{1}}+ x_{2}\bm{e^{2}}+ .... + x_{n}\bm{e^{n}}$ と表わすとき、式 $(1)$ を使って次式がなりたちます。
 
 
 
 <tex>
 \bm{e_{i}} \cdot \bm{x} &= \bm{e_{i}}(x_{1}\bm{e^{1}}+ x_{2}\bm{e^{2}}+ .... + x_{n}\bm{e^{n}}) \\ 
 &= x_{i}
 </tex>
 
 <tex>
 \bm{e_{i}}\cdot \bm{e^{j}}={\delta}_{i}^{j}	\tag{2}
 </tex>
 
 
 なんと、 $\bm{e_{i}}$ と $\bm{e^{j}}$ は見事に双対基底になっています。
 
 
 まとめ
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 最初は天下り的に $\bm{e_{i}}\cdot \bm{e^{j}}={\delta}_{i}^{j}$ を定義として登場した双対基底でしたが、ベクトル空間とその双対空間という視点から、ベクトル空間 $V$ の元 $\bm{x} = x^{1}\bm{e_{1}}+ x^{2}\bm{e_{2}}+ .... + x^{n}\bm{e_{n}}$ をその第 $i$ 成分 $x^{i}$ に対応させる線形汎関数の作る双対空間 $V^{*}$ の基底として、 $\bm{e^{i}}$ を定義できることを確認しました。
 
 
 
 ここに出てきた『ベクトル $\bm{x}$ をその第 $i$ 成分 $x^{i}$ に対応させる写像』を、しばしば *射影* と呼びます。第 $i$ 成分だけを取り出すという操作は、ベクトルを第 $i$ 基底に射影することと同じだからです。一般にある軸に対する射影は『(第一基底への射影)+(第二基底への射影)+・・・+(第 $n$ 基底への射影)』といった具合に、各軸への射影の線形結合で表現できますから、 $V^{*}$ の元が一般に $\bm{x} = x_{1}\bm{e^{1}}+ x_{2}\bm{e^{2}}+ .... + x_{n}\bm{e^{n}}$ の形に書けるのも納得のいくことです。
 
 
 もちろん、双対ですからまったく逆の見方も可能で、 $V^{*}$ の元に対し $V$ の基底 $\bm{e_{i}}$ は『第 $i$ 番目の成分を取り出す』という射影関数として働いています。
 
 
 .. [*] この記事では、双対基底の位置づけを明らかにするという目的のため、最終的に射影関数による双対空間だけに話題を絞り込みましたが、双対の考え方は数学のあらゆる分野で非常に重要であり、双対空間の概念も至るところに顔を出します。抽象的な議論が苦手な人も、これを機会に双対空間に馴染んで頂ければとても嬉しいです。
 
 
 @@author:Joh@@
 @@accept: 2006-05-11@@
 @@category: ベクトル解析@@
 
 @@id: DualBaseAndSpace@@
 
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