物理のかぎしっぽ 記事ソース/線形演算子 のバックアップ差分(No.2)

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 線形演算子
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 ケットと線形演算子
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 前の記事では,ブラはケットと組み合わさることでスカラー値を生成する線形関数のことでした.
 今度考える線形演算子は,ケットと組み合わさることで,ケットを生成する線形関数です.
 あるケット $|A \rangle $ の関数である $|F \rangle $ を考えます.
 この二つのベクトルは,成分が定数である定ベクトルではなく,
 成分に変数を含みます. $|A \rangle $ に対応するケットを $|F_A \rangle $ と書くことにすると,
 線形関数が線形であるための条件を表すことができます. $|A \rangle + |A^\prime \rangle $ 
 は $|F_A \rangle + |F_A^\prime \rangle $ に
 対応し, $c$ を定数とすると $c|A \rangle $ は $c|F_A \rangle $ に対応するという条件です.この条件の
 下で $|F \rangle $ は $|A \rangle $ に線形演算子 $\alpha$ を施したものとして,
 <tex>
 |F \rangle = \alpha |A \rangle
 </tex>
 と表します.演算子が線形であるための条件をあらためて書くと
 <tex>
 \alpha \{ |A \rangle + |A^\prime \rangle \} = \alpha |A \rangle + \alpha |A^\prime \rangle \tag{1}
 </tex>
 <tex>
 \alpha \{ c | A \rangle \} = c \alpha | A \rangle \tag{2}
 </tex>
 となります.
 
 線形演算子は,すべてのケットに対して値が与えられた時,完全に定義されます.そしてすべてのケットに対し,ゼロベクトルを生じる演算子はゼロとします.またすべてのベクトルに対し,二つの演算子が同じケットを生じる時,二つの演算子は等しいといいます.
 
 次に線形演算子の和を次のように定義します.
 <tex>
 \{ \alpha + \beta \}|A \rangle = \alpha |A \rangle + \beta | A \rangle  \tag{3}
 </tex>
 式 (1) と (3) から線形演算子とケットは分配法則を満たします.
 
 そしてまた二つの演算子は掛け合わせることができます.
 <tex>
 \{ \alpha \beta \}| A \rangle = \alpha \{ \beta | A \rangle \}
 </tex>
 よって結合法則が成り立ち,これはかっこを省略して $\alpha \beta | A \rangle $ と書きます.
 一般的には交換法則は成り立たず,
 <tex>
 \alpha \beta | A \rangle \neq \beta \alpha | A \rangle \tag{4}
 </tex>
 となってしまいます.これの特別な場合で式 (4) が等号になるとき二つの演算子は交換可能であるといいます.
 
 もしケットを定数 $k$ 倍する操作を考えると, $k$ は線形演算子の特殊な場合となります. $k$ 倍は
 ケットをケットに移し,式 (1) と式 (2) の $\alpha$ を $k$ で置き換えると満たすからです.
 このとき,この定数はすべての線形演算子と交換可能です.
 
 ブラと線形演算子
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 ここまでは,ケットに演算子を作用させることを考えてきましたが,
 今度はブラに作用させてみます.任意のブラ $\langle B | $ と $\alpha | A \rangle $ のスカラー積を作ります.
 このスカラー積はケット $| A \rangle$ に線形に依存します.
 よってブラはケットと組み合わさって線形なスカラー積を作るものという定義から,
 このスカラー積はケット $| A \rangle$ にあるブラが作用したものと考えられます.
 そのブラはやはり $ \langle B|\alpha|A \rangle $ が $\langle B |$ にも線形に依存することから
 , $\langle B | $ にある線形演算子 $\beta$ が作用したものと考えられます.
 この $ \beta $ は $ \alpha $ に対し一意的に決定されるので,
 この演算子 $\beta$ をケットに対する演算子と同じ $\alpha$ という文字で表すと合理的です.
 式で表すと
 <tex>
 \{ \langle B | \beta \} |A \rangle = \{ \langle B | \alpha \}| A \rangle \equiv \langle B | \{ \alpha | A \rangle \}
 </tex>
 これが $\langle B | \alpha $ の定義式です.
 
 
 ブラとケットのダイアド積
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 今度は, $|A \rangle \langle B |$ という積を考えてみます.
 任意のケット $|P \rangle $ を右から掛けてみます.
 すると, $|A \rangle \langle B | P \rangle $ となり $|A \rangle $ の
 スカラー $\langle B | P \rangle $ 倍のケットベクトルになります.
 しかも, $| P \rangle$ に対し線形性を持っています.また, $\langle Q |$ を左から掛ける操作に対しても,
 同様に線形性を持ったブラになります.
 このことから, $|A \rangle \langle B |$ は線形演算子だと分かります.
 後ほど別の記事で行列表示について書きますが、その行列表示をすると,この積はダイアド積であることも
 分かります.
 ダイアド積のことは、 続ベクトルの回転_ の中ほどに書いてあります。
 
 物理的意味
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 これまでベクトルや演算子について考えてきました.
 結合法則と分配法則は成り立ちましたが,交換法則だけは成り立ちませんでした.
 それらのベクトルや演算子と現実の物理系との関係に対して,
 量子力学ではどう解釈しているのかについて書きます.
 ベクトルはある時間の系の状態に対応しています.
 ただしその大きさや位相因子 $e^{i \gamma}$ (ただし $\gamma$ は実数)は意味を持ちません,
 方向なのは重要です.そして線形演算子は,
 その時間の物理的変数に対応します.
 物理的変数とは古典力学もこれらが組み上げていますが,
 位置,一部分の速度,粒子の運動量や角運動量,
 またハミルトニアンなどそれらでできる関数です.
 この概念が量子力学でも出てくるのです.
 ただし決定的な違いとして,古典力学では交換法則は成り立ちましたが,
 量子力学では交換法則は成り立ちません.
 それでも古典力学に対応した概念が多くあり,
 古典力学に類似した理論が組み上げられていきます.
 
 
 @@reference: P.A.M.Dirac, The Principles of Quantum Mechanics (fourth edition), Oxford University Press(みすず書房), 1958, 23-26, 4622025124@@
 
 .. _ブラベクトルとケットベクトル: http://www12.plala.or.jp/ksp/quantum/braKetVector/
 .. _続ベクトルの回転: http://www12.plala.or.jp/ksp/vectoranalysis/vectorRot2/
 
 @@author:クロメル@@
 @@accept:2007-02-26@@
 @@category:量子力学@@
 @@id:linearOperator@@
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