物理のかぎしっぽ 記事ソース/積分領域について補足

記事ソース/積分領域について補足

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記事ソースの内容

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積分領域について補足
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面積分や体積積分の際、積分領域について、単純曲面、単連結など、幾つか幾何学的な性質に関する言葉が出てきました。最初は、あまり細かく気にする必要はないのですが、やる気のある人のために言葉の定義や注意点をまとめておきます。今後、少し上級の数学になって来ると、積分領域の形が非常に重要になります。もっとも、数学的にあまり細かく言い過ぎると、集合論や多様体論のきちんとした知識が必要になり、とても簡単に説明できるものではなくなりますので、特別な知識を前提とせず、大学一年生程度の工学部の人の役に立つ程度を想定しました。もっときちんと勉強したい人は、それなりの教科書で勉強すべきです。


ストークスの定理に関して、理解して欲しいのは単連結という概念です。単連結は $6$ 番目に定義を書きました。まず $1$ から順番に考えていって下さい。 $7,8$ はおまけです。こういう数学的な議論が苦手な人もいると思いますが、ある程度のイメージを持って理解していけば、別にそれほど抽象的な話ではありませんので、これを機会に少し勉強してみて下さい。





1.近傍
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何か集合があり、その集合の元同士の間に『距離』が与えられているとし、二点 $x,y$ 間の距離を例えば $|x-y|$ のように表わすこととします。(一般的な距離の定義については 内積空間_ を参照してください。いま、ここでは"常識的に"距離という言葉を聞いて連想する『距離』の意味だと思って十分です。) 

三次元ユークリッド空間 $R^{3}$ で、ある領域 $D$ に含まれるある点 $A$ の周りに、半径 $\varepsilon$ の球を考え、この球に含まれる部分を *近傍* と呼びます。

<tex>
V_{\varepsilon}(A) = \{ x \in D| \ \  |A-x| < \varepsilon \} 
</tex>


.. Joh-Neighborhood.gif 


.. [*]  $\varepsilon$ は、イメージとしては十分に小さい距離だと思ってください。一般的な議論としては、空間はユークリッド空間には限らないのですが、その場合、距離の定義だとか、ハウスドルフ性という、『離れた二点にそれぞれ十分小さい近傍を考えるとき、重ならないように近傍を取れるか』という問題など、色々考えなければならない事柄が出てきます。厳密な議論をするためには、集合論や位相論の知識が必要ですが、ここでは深入りしないことにします。ユークリッド空間は、要するに『普通の空間』ですから、ユークリッド空間で考えている限り、あまり奇妙なことにはなりません。この記事の目的は、だいたいのイメージを涵養して貰うで、厳密な話はまた別の機会にしたいと思います。



.. [*] 集合が一般に $n$ 次元ユークリッド空間なら、近傍は $n$ 次元球で定義します。(二次元球は円、一次元球は線分です。)



2.開集合
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集合 $D$ 内の任意の点 $A$ に対し、(十分小さな) $\varepsilon$ を取れば $V_{\varepsilon}(A) \subset D$ とできるとき、これを *開集合* と呼びます。 


.. figure:: Joh-OpenDomain01.gif 

	分かりやすいイメージは、境界を含まない領域は開集合だ。(境界上の点は、どんなに小さな近傍を取っても境界からはみしてしまうから含めない。)



3.閉包
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集合 $M$ に対し、その *閉包*  $\bar{M}$ を次のように定義します。

<tex>
\bar{M} = \{ x| V_{\varepsilon} (x) \cap M \ne \phi \} 
</tex>

もし $M$ が開集合ならば $\bar{M}$ は $M$ よりほんの少し大きな集合です。というのは、境界上の点も、近傍の半分は $M$ に含まれるため、閉包には境界も入るからです。(ただし、大きい・小さいという言葉遣いは不正確ですので、数学の人としゃべるときには注意して下さい。あくまでイメージですよ。)


.. figure:: Joh-Closure01.gif 

	開集合をすっぽり包み込む閉集合から閉包というのだろう。


例えば、有理数の集合を $Q$ とすると、 $\bar{Q}$ は実数全体 $R$ になります。



4.閉集合
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閉包と自分自身が一致するような集合を *閉集合* と呼びます。


<tex>
M=\bar{M}
</tex>


また、開集合を含む最小の閉集合は、閉包であることが示せます。(証明は省略します。)



.. figure:: Joh-ClosedDomain01.gif 

	イメージとしては、境界を含む集合という感じ。




5.弧状連結
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集合に含まれる任意の二点を、滑らかな曲線で結ぶことが可能なとき、このような二点を *弧状連結* と呼びます。また、開集合であり、かつ弧状連結でもある集合を *領域* と呼びます。


.. figure:: Joh-ExDomain01.gif 

	滑らかな曲線でつなげない集合の例。確かに、こんな集合を領域とは呼びたくない。


6.単連結
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領域内に描いた任意の閉曲線を、そのまま連続的に一点にまで縮めて行かれるとき、この領域を *単連結* と呼びます。


.. figure:: Joh-SimplyConnectedDomain01.gif 


逆に、領域内に描いた閉曲線を連続的に縮めていっても一点には収束できないような場合を *多重連結* と呼びます。



7.凸型領域、凹型領域
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領域内に描いた任意の線分が、全て領域内に含まれる場合、 *凸型領域* と呼びます。逆に、領域内の二点を結んだ線分で、領域内にすっぽり収まりきらないものがある場合、これを *凹型領域* と呼びます。

.. image:: Joh-ConvexConcaveDomain.gif 




8.星形領域
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ある特定の点から、領域内の任意の点に引いた線分が、全てその領域に含まれるような領域を *星形領域* と呼びます。(例えば、下図の星形は、中心から線分を引けば必ず線分全体が星形に含まれますので星形領域です。)

.. image:: Joh-StarShapedDomain.gif 


凹型領域の中には、星形領域になるものとならないものがあります。凸型領域は全て星形領域だとも言えますから、例えば球も星形領域ですし、空間全体も星形領域です。




ストークスの定理に関して注意点
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ストークスの定理(面積分⇔周回積分)を使う際、定理に関わる曲面や曲線は、単連結な領域で定義されていなければなりません。例えば、空間として次のようなドーナツ型(トーラス)を考えると、この領域内に取った閉曲線 $L_{1}$ によって囲まれる曲面は存在しません。ちょっと向きを変えて $L_{2}$ のように取れば、図の $S_{2}$ が囲めます。

.. image:: Joh-SimplyConnectedDomain02.gif 


つまり、このような場合、好き勝手に閉曲線を決めるわけには行かない訳です。さきほど定義した言葉を使えば、これは多重連結の場合です。多重連結の領域では、自由にストークスの定理やグリーンの定理を使うことは出来ないので注意して下さい。


例えば、単連結な領域ではグリーンの定理が成り立ちますから、関数 $P,Q$ について次式がなりたつはずです。

<tex>
\ointop _{C} Pdx+Qdy = \int \int \limits _{S} \left( \frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y} \right) dx dy
</tex>

ところが、もし $P=\frac{-y}{x^{2} + y^{2}}, \ Q=\frac{-y}{x^{2} + y^{2}}$ と置き、半径 $1$ の円 $x^2 + y^2 =1$ の内部を $S$ 、円周を $C$ とおけば、右辺は $\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}=0$ となりますが、左辺は $\ointop _{C} Pdx+Qdy = 2\pi$ となってしまいグリーンの定理が成り立ちません。これは、このように定義された $P,Q$ が、 $(x,y)=(0,0)$ では(分母が $0$ になってしまうために)定義できないため、 $P,Q$ の定義域は全平面から原点を除いたもの(原点に穴が空いていると考えて下さい。そうすると、この定義域はドーナツ型ですね。)であり、単連結ではないことに起因します。つまり、関数 $P=\frac{-y}{x^{2} + y^{2}}, \ Q=\frac{-y}{x^{2} + y^{2}}$ に対し、原点を含む領域でグリーンの定理を使うことは出来ないわけです。


いままで、あまり積分領域や被積分関数の定義域に神経質ではなかった人も、計算のときに少し気をつける習慣をつけてみて下さい。ストークスの定理やグリーンの定理に関する限り、単連結かどうかだけをチェックすれば良いので、それほど手間ではありません。



.. [*] 多重連結領域でも、どこかに切れ目を入れて領域を切り開けば単連結にすることが出来ます。何回切れ目を入れれば良いか、というのはその領域の位相幾何学的性質によりますが、先ほどのドーナツ型なら、一箇所グルリと切れば単連結になります。もしくは、穴を塞いでしまって(そして蓋の領域にまで関数の定義域を広げて)領域を単純連結にすることもできます。こうした話題はこの記事では扱いませんが、ストークスの定理が使えないからと言って、すぐに悲観することもありません。


.. image:: Joh-MultiplyConnected02.gif 




.. _平面のグリーンの定理: http://www12.plala.or.jp/ksp/vectoranalysis/GreensTheorem/
.. _内積空間: http://www12.plala.or.jp/ksp/vectoranalysis/InnerdotSpace/

@@author:Joh@@
@@accept: 2006-10-11@@
@@category: ベクトル解析@@
@@id: VectorintegralDomain@@
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