物理のかぎしっぽ 記事ソース/数学に出てくる○○空間って何だ?

記事ソース/数学に出てくる○○空間って何だ?

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記事ソースの内容

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数学に出てくる○○空間って何だ?
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大学生になると、急に数学に『空間』という言葉がよく出てくるようになります。ベクトル空間、バナッハ空間、ハウスドルフ空間、等々、色々な名前の空間が出てきます。しかし、日常生活で空間と言ったときに、普通思い浮かべるような縦・横・高さに広がりのある『空間』とはだいぶ様子が違うため、多くの人がここでつまずいてしまいます。物理にもそのうち、ヒルベルト空間とかミンコフスキー空間とか色々出てきますから、逃げてばかりもいられません。

そういうわけで、数学に出てくるナントカ空間っていうのは、一体何なんだ、ということをもう一度一緒に考えてみよう、という記事です。

この記事は、どうも数学にアレルギーがあって、頭が痛くなる人を対象としていますので、以下の文章の中には、数学的に厳密性に欠ける部分があると思います。数学が専門で得意な人は粗探しをしないで下さい。数学が苦手な人は、もう一度一緒に頑張りましょう。絵がないので、文章ばっかりになってしまいました。しかも長いです。すみません(・_・)/


空間とは集合のことである
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大学生の数学の教科書を見ると、どの項目にも『 $L$ を $R$ 上の $n$ 次元ベクトル空間とし・・・』とか、そんな記述から始まっています。なぜ、このようなことをわざわざ書くのでしょうか。  **高校生のときまでの数学の問題には、そんな断り書きは何も無かったのに、大学生の数学になると、 いきなりそんなことばかり書いてある** ので、すっかり頭が痛くなってしまいます。しかも、そんな空間、想像できません。

まずは *数学に出てくる空間とは『集合』のことだ* と思ってください。なんだか空間というと意味がピンと来ない人は、馴れるまで集合という言葉で置きなおせば、ずっと分かりやすくなると思います。日常生活で使う場合の空間とは意味が全然違いますから、しばらくそっちは忘れましょう。

では、なぜいちいち議論の最初に、何とか空間(つまり何とか集合)において計算する、と宣言する必要があるのでしょうか。この理由を理解するのに、ひとまず *数学を言葉に喩える* ことにします。数学を一種の言語だと考えたとき、空間とは集合のことである、といった意味が少し分かってくることでしょう。そして、高校生のときには見えていなかった数学という学問の横顔が、だんだん見えてくるかも知れません。


.. [*] 数式は何か意味を伝えるものです。例えばピタゴラスの定理を表すのに $a^2 = b^2 + c^2$ と書くのと、日本語で『エーの二乗が、ビーの二乗とシーの二乗の和に等しいよ』と言うのは同じです。何か意味のある内容を記述する、という観点で言えば、まさに数式は文章であり、数学は言葉だと言えます。ですから、この比喩は単なる喩えというより、数学の本質に迫る比喩だと言いたいところです。(言い切ってしまうと、数学専門の人から苦情が来るので、語尾は濁しておきます^^;)例えば、不完全性定理で有名な数学者K.ゲーデルは、信念として、数学を単なる人間の言語構造(つまり人間が頭で考えた論理)ではなく、物理的実存にも似た客観的な存在によって真理性を保証される体系だと考えていました。そういう哲学みたいな数学は、今は脇に除けておきます。数学専門の人ゴメンナサイ。


数学は言語だ
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数学は一種の言語だと言いましたが、実に厄介な言語で、何事も異常なくらいに正確に正確に表現しないと気がすまない言語です。例えば、日本語で『むくむくした犬』と言うとします。私達は、むくむくした犬の様子を *何となく想像* できます。ところが、これを **数学で表現しようと思うと大変** です。


まず、『世界中の犬』という集合を考えます。一匹もらさずワンちゃん大集合です。(←あれ、集合という言葉が出てきました・・)この犬集合を決めるには、まず、犬とは何か、という *定義が必要* です。中には、毛の短い犬もいれば、毛が固すぎてムクムクという感じとは程遠い犬もいます。そこで、ムクムク感を数学的に定義しなくてはなりません。(固さとか長さとかを正確に決めるんでしょうか。)そして、ムクムクした犬は、犬集合の中で部分集合をなしていると考えるわけです。とにかく全世界のあらゆる犬の中で、 *話題になっている犬を過不足なく含む集合を考える* ことができました。


ちょっとしたことでも、 **使う言葉を、使う前にきっちり定義します** 。とにかく使う言葉の中に曖昧さがあってはならないのです。


.. [*] もちろん、定義を決めた後は、様々な数学的議論(ここではムクムクした犬の性質に関する話題)が発展します。ムクムクした犬全部と、ムクムクしていない犬全部を合わせたら、世界中の犬全体になるか否か?(どちらとも言えないような犬がいるかも知れませんね。)ムクムクしていない犬の毛が連続的にホンの少しだけ伸びたとき、この犬はやはりムクムクしていない犬と見なせるか否か?数学者と言われる人たちは、そんなことを毎日考えています。どちらも言語だとは言え、日常の言語と数学では、こだわるところがだいぶ違うようです。

.. [*] 日常生活では、多少意味が曖昧でも、話の内容がだいたい通じればいいわけですし、むしろその曖昧さを楽しんでいる部分もあるわけです。例えば、詩を書くときは、スッと心に飛び込んできて人の想像力を掻き立てるような表現を使うと効果的なわけで、上の例のように長々と説明をしたのでは言葉の勢いと新鮮さが失われてしまいます。数学は詩を書くのに大変不向きです。逆に、日常生活の言葉は曖昧な形容詞や副詞に溢れていて、数学的内容を無駄なく厳密に記述するのに向いていません。数学的内容を扱うには、数式がなによりも無駄が無くて美しいのです。どっちが優れているというものではありません。文学と数学を両方楽しめるのがバランスの取れた人というものでしょう。




使う言葉を宣言する
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もう一つだけ例を挙げます。日本昔話を読むとき、いきなり『むかしむかし・・・』と始めたのでは数学者は納得しません。日本語ならば、むかしむかし、という音の並びには意味がありますが、英語や中国語で" $mukashi \ \$  $mukashi$ "と言った所で、何の意味もないからです。では、『いまから日本語で昔話を始めます。むかしむかし・・・』と始めれば、数学者も納得するでしょうか。いえ、それだけではまだ足りません。奈良時代の古語だとか、どこかの地方の独特な言い回し、ローカルな流行言葉なんかも日本語の一種と言えますが、単語も文法も違いますから、そんな日本語を織り交ぜたのでは、聞いている人が分かりません。そこで、どのような日本語をどのように使うか、 **文法規則も全て明確に宣言** しなければいけません。


例えば『広辞苑第四版に出ている単語だけを使い、○○文法理論に基づいた文法規則に従い、日本語で話します。昔々、あるところに...』という出だしになるはずです。


こんな話の始め方をするのは数学者だけですが、いったい何の得があるのでしょうか。この昔話を聞いていた子供が、知らない単語があって質問してきたとします。例えば『ウワバミってなぁに?』という具合です。このとき、ちゃんと広辞苑第四版に出ている言葉ならば、数学者は胸を張って『ウワバミっていうのは(1)大蛇のこと(2)大酒飲みのことだよ』と答えることが出来ます。ここで答えられなければ、最初に決めた意味がありません。ところが、ここで子供が英語で『 $physics$ てなぁに?』と聞いても、『今は広辞苑第四版に出ている言葉以外のことは、何も答えないよ。』と、 *やはり自信満々に* 言えるのです。数学者は、扱う言葉を事前に限定し、 **責任を取る範囲を明確にした** ということです。知ってることは知ってるけど、知らないことは知らないと言っているようなものです。



.. [*] もっとも、日常生活においても、使う言葉や共通の認識を、話す前にはっきりさせておいた方が良いことがあります。例えば、友達に『なあなあ デッカチャン_ ておるやんか。うち、めっちゃ好きやねん!』という感じで、いきなり話始める人はいないでしょうか。しかし、これではデッカチャンを知らない人は、あっけにとられてしまいます。『俺、こう見えても結構マジ優柔不断なとこあってさー』とかいう言い方をする人、いますね。『お前がどう見えるかなんて、誰も気にしちゃいねぇんだよ!』と突っ込んでやりたくなります。問題は、知識や興味が共通の基盤の上にないにも関わらず、いきなり会話が始まっているということです。これは、数学という言語では、最もあってはならないことなのです。今度から、周りにそのような喋り方をする人を見たら、"非数学的なんだ"と心の中で思うことにしましょう。

.. [*] デッカチャンは吉本興業の芸人さんです。頑張って下さい。


○○空間
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大事なポイントは、全て太字か赤字にしてみましたが、何となく分かりましたか?何か、数学の説明が始まる前に、必ず『 $P$ を $n$ 次元ユークリッド空間 $E^{n}$ 上の点とし、 $U$ を $E^{n}$ における開領域とする。 $a,b,c \in R$ , $\alpha$ , $\beta$ , $\gamma \in L$ ,・・・』とか書いてあるのは、これから計算に出てくる要素(単語)を全て紹介し、その量の間にどんな計算がなりたつか(文法)を、決めてるだけなんです。そういう、計算規則まで加味した要素の集まりを、数学ではナントカ空間と呼んでいるだけなのです。

.. [*] もう一度、ここで数学を言語に例えてみます。普通、単語と文法を決めれば「○○語」と言えますね。「○○空間で計算する」というのは、「○○語で話す」と言っているようなものです。なーんだ、という感じがしてくれればいいのですが。


以上、長々と例え話ばかり使って色々書きましたが、何となく、数学アレルギーの解消のお役に立てれば良いと思います。 (@_@)/~ 


.. [*] 高校生のときまでは、いきなり計算を始めてましたが、それは『なあなあ昨日デッカチャンがなぁ・・・』といきなり話し始めるのと同じで、みんなも常識として、同じ知識を持っていて、同じ言葉をしゃべっているという暗黙の諒解があったのです。難しい数学になってくると、距離という概念がなかったり、ぐにゃぐにゃに曲がっているものと真っ直ぐなものの区別がなかったり、と、とても普通の感覚では話が進みませんので、わざわざ何でも言うんですね。

.. [*] なぜ、集合のことを空間と言うか、補足しておきます。ベクトルを習った人は、この3次元空間が ${\bm{e}_{x}, \bm{e}_{y}, \bm{e}_{z}}$ という3つの基底ベクトルの組み合わせだけで表わせることを知っていますね。このことの連想から、 ${a,b,c}$ という要素の集合を色々組み合わせて出来るようなものを、ナントカ空間と呼ぶのです。要素の数は無限個かも知れませんし、変な組み合わせの仕方になるかも知れませんから、もはや、3次元空間からそのまま連想するのは無理です。


.. [*] 少し難しい数学になると、空間のことを多様体という名前で呼ぶようになります。なんだか格好いい名前ですね!



.. _デッカチャン: http://www.geocities.jp/dekkachan2003/ 




@@author:Joh@@
@@accept: 2006-01-15@@
@@category: ようこそ,物理の世界へ@@ 
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