物理のかぎしっぽ 記事ソース/ベクトル場と流束と流管

記事ソース/ベクトル場と流束と流管

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記事ソースの内容

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ベクトル場と流線
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連続で滑らかなベクトル場 $\bm{A}(x,y,z)$ を考えます。 $\bm{A}$ は位置 $(x,y,z)$ の一価関数で、場所によって長さや向きが異なるわけですが、いま、滑らかであることを仮定していますので、長さや向きの変化は急激なものではありません。つまり、 $\bm{A}$ がある場所である方向を向いているとして、ほんの少しずれた場所では、向きもほんの少し異なるだけだということです。


.. figure:: Joh-VectorFieldStream01.gif 

	場所によって向きは異なるが、変化は少しずつだ。なんとなくつながってるぞ。



場所による $\bm{A}$ の向きの変化が少しずつだというのは、つまり $\bm{A}$ が至るところ微分可能だということです。このため、『曲線上どこで接線を取っても、接線が $\bm{A}$ と平行である』ような曲線を描く事ができます。



.. figure:: Joh-VectorFieldStream02.gif 


このような曲線を $\bm{A}$ の *軌跡* と呼びます。軌跡のベクトル方程式をパラ目^たー表示で $\bm{r}=x(\xi)\bm{e_{x}}+y(\xi)\bm{e_{y}}+z(\xi)\bm{e_{z}}$ とおけば、 $\bm{r}$ は次式によって定義されます。

<tex>
\frac{d\bm{r}}{d\xi} = \bm{A}	\tag{1}
</tex>


流体力学などでベクトル場が速度場を意味する場合、ベクトル場の軌跡は *流線* と呼ばれます。呼んで字の如く、流れを表わす曲線という意味です。このイメージが分かりやすいためか、一般に速度場以外のベクトル場の軌跡も流線と呼んでしまうことの方が多いようです。この記事でも以後は軌跡と言わず、一般のベクトル場に対しても流線という用語を使います。電磁気学では特に、電場の流線を *電気力線* 、磁場の流線を *磁力線* と呼びます。直観的には、流線とは『流れをつなげていった曲線』であって、流線を描くことで、流れの様子を視覚的に把握できるようになるため大変便利です。流線は直観的にとても受け容れやすい概念だと思います。例えば、渦巻く流れの流線は同心円になりますし、まっすぐな流れの流線は直線になります。川の絵を描くとき、両岸だけでなく、川の真ん中辺りにも、流れの方向にピューピューと何本か線を描く人が多いのではないでしょうか。これは流線です。こんど子供がこんな絵を描いたら『上図に流線描けたね!』と褒めてあげましょう。



.. figure:: Joh-StreamLine01.png

	橋の下にちょこちょこ見える黒い線が流線だ。




.. [*] 一般に流れ場は時々刻々向きや速度を変えますので、場所と時間の関数で $\bm{V}(t,\bm{r})$ と書けるはずです。式 $(1)$ では、場所に関する媒介変数 $\xi$ しか使いませんでしたので、これは定常場に対する流線の方程式です。動的な場 $\bm{r}(t,\xi)$ の流線は $\frac{d\bm{r}(t,\xi)}{d\xi} = \bm{A}(t,\xi)$ と表現され、やはり時々刻々形を変えることになります。


ベクトル場 $\bm{A}(\bm{r})$ に対し、流線の方程式を $\bm{\tau}(s)$ ( $s$ は弧長パラメーター)とするとき、流線の方程式を次の関係式によって与えることも出来ます。これは $\bm{\tau}(s)$ の接線と $\bm{A}$ が平行だと言うことを、外積の性質を使って簡潔に表現してみただけです。



<tex>
d\bm{\tau } \times \bm{A} = \bm{0}	\tag{2}
</tex>


ベクトルによる表現が嫌いな人は、『流線 $\bm{\tau}(s)$ の接線と $\bm{A}$ が平行』ということを、次のようにスカラー方程式の形で表わしても良いでしょう。ただし、式 $(3)$ の表現はデカルト座標系に限られます。


<tex>
\frac{dx_{1}}{A_{1}(x_{1},x_{2},x_{3})}= 
\frac{dx_{2}}{A_{2}(x_{1},x_{2},x_{3})}=
\frac{dx_{3}}{A_{3}(x_{1},x_{2},x_{3})}	\tag{3}
</tex>




また、流線に関して、次の性質が大事です。


.. admonition:: theorem

	滑らかで連続的なベクトル場 $\bm{A}$ が、空間の各点で一意的に与えられているとき、 $\bm{A}$ の流線は交わりません。



.. admonition:: proof 

	もし流線が交わるとすると、その交点ではベクトル場が二つの値を持つことになります。これは $\bm{A}$ が至るところ一意的だという仮定に反します。■



逆に、もし流線が交わるような場所があるとすれば、それはその点ではベクトル場が一意的に決まらないということです。そんな場所ってあるんでしょうか?今の仮定のもとでは $\bm{A} \ne \bm{0}$ である限り、ベクトル場は場所の関数として一意的に決まるはずですが、もし $\bm{A} = \bm{0}$ となる点があるならば、そこでは流線が決まりません。つまりは流れが無いわけですから、流線が決まるはずもないわけです。(式 $(3)$ の表式では分母が $0$ になってしまいます。)このような場所は流れていない点という意味で *淀み点* と呼ばれます。例えば、次図のような、馬の鞍のような形をした斜面に沿った流れを考えてみましょう。



.. image:: Joh-SaddlePoint01.gif 


こんな形をした山の尾根に雨が降った様子でも想像して下さい。下に凸の曲線(左図上部の尾根にあたる黒線)と上に凸の曲線(左図赤線)の交点は、 *鞍点* (あんてん)と呼ばれますが、高い方からこの点に向かって来る流れと、逆にここから左右に分かれて流れ落ちていく流れの、ちょうど交わる場所になります。この様子を上から見たのが、上右図です。上右図に描いた小さな青矢印のように、鞍点に向かってくる流れが左右に分かれ、鞍点から離れていく流れになりますが、数学的には、この小さな青矢印が形作るダイヤモンド型を極限まで小さくした点が鞍点だと考えられます。こんな点では、流れが淀んでますから、流線も定義できませんし、まるで鞍点では極値的に流線が交わるようなことになります。



.. image:: Joh-SaddlePoint02.gif 


淀み点とは、一般に流れが分岐したり合流したりする点で、ここでは流線が(鞍点の例で見たように)交わったり、枝分かれしたり、合流したりします。それ以外の点で、流線が交わったり枝分かれしたり合流したりすることはありません。流線について、だいたいそんな認識を持っておいて下さい。



.. [*] ベクトル場 $\bm{A}$ は至るところ連続と仮定していますので、流線は幾らでも細かく描くことができます。実際に流線の図を描くとき、どれくらい細かく流線を描くかは個人の好みと、その場その場の必要性によります。しかし、淀み点のような特異点を除いて、流線は増えたり減ったりしませんので、広がっていく流れでは流線の間隔も広がって行きますし、狭まる流れでは流線の間隔も縮まります。一方、流れの総量が一定な流れ場では『流量=面積×流速』が至るところ一定に保たれますから、流れの面積が広がれば流速は小さく、面積が縮まれば流速は早くなります。このため、流速(より一般的にはベクトル場の強さ)と流線の密度を、適切に関連づけることは可能です。こんなときは、流線の密度(単位面積あたりの本数)が意味を持ってきますから、好き勝手に流線を描くわけには行きません。この記事では、とりあえず流線の本数の意味は考えませんでした。



練習問題
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ベクトル場 $\bm{A}= ay\bm{e_{x}}+ax\bm{e_{y}}$ の流線を描いてみて下さい。




@@author:Joh@@
@@accept: 2006-10-11@@
@@category: ベクトル解析@@
@@id: VectorFieldStream@@
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