物理のかぎしっぽ 記事ソース/テンソル方程式と物理法則の普遍性

記事ソース/テンソル方程式と物理法則の普遍性

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記事ソースの内容

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テンソル方程式と物理法則の普遍性
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スカラー、ベクトル、二階のテンソル等々、テンソルを変数として含む *テンソル方程式*  $F$ を考えます。
<tex>
F(\alpha , \beta , ..., A_{i}, B_{j},....,a_{ij},b_{ij},...)=0	\tag{1}
</tex>

いま、何らかの座標変換を考えると、一般にベクトルやテンソルの成分は座標系によりますから、 $F$ は何か異なる方程式 $G$ になってしまうはずです。式中、ダッシュのついたテンソルは、新しい座標系における表現だとします。このとき、変数の値だけでなく、一般には式形まで変わってしまってもおかしくありません( $G \ne F$ )。


<tex>
G({\alpha}' , {\beta}' , ..., A'_{i}, B'_{j},....,a'_{ij},b'_{ij},...)=0	\tag{2}
</tex>


もしも座標変換にも関わらず式形が変わらず、新しい座標系においても変数以外は同じように書けるとき、この方程式は *座標変換に対して不変だ* と言われます。


<tex>
F({\alpha}' , {\beta}' , ..., A'_{i}, B'_{j},....,a'_{ij},b'_{ij},...)=0	\tag{3}
</tex>



急に物理の話になりますが、物理学では座標系を区別しません。つまり、ある座標系 $A$ でなりたつ物理法則は、違う座標系 $B$ においても成り立つと考えます。ニュートン力学の枠組みでは、これを *慣性系は区別しない* という言い方をします。もちろん、例えば動いている座標系からは運動の速度が違って見えるように、座標系によって観測される値は変わります。しかし、物理法則の式形そのものが変わるということは無いというのが前提となっています。つまり、ある座標系では力 $F$ 、質量 $m$ 、加速度 $a$ の間に $ma=F$ の関係があるのに、違う座標系では $ma^2 =F$ になったり、 $\frac{m}{a^2}=F$ になったりすることは無い、ということが物理学の前提になっています。

.. [*] ただし、空間が一様であることや、右と左に本質的な違いは無いことなど、幾つか式形を保つための前提は明示的に必要です。本当に空間は一様なのか、右と左は同じなのか、というような問いは難しいですね。



例としてニュートンの運動方程式を考えてみます。式 $(4)$ が基本となる式形(いま私達が立っている座標系でなりたつ式)だとします。

<tex>
F_{i} = \frac{d}{dt}(mv_{i})	\tag{4}
</tex>

これを違う座標系で記述したいので、適当な二次のテンソルを両辺に乗じます。また、微分の中に定数が入っていても結果は変わらないので、 $v_{0i}$ を加えることも出来ます。この項を加える意味は、物理的には座標系の平行移動(等速運動している慣性系への変換)です。

<tex>
{\alpha}^{ik'}F_{i} &= \frac{d}{dt}(m{\alpha}^{ik'}v_{i}+v_{0i}) 
</tex>

ここで ${\alpha}^{ik'}F_{i}=F'_{k}$ 、 ${\alpha}^{ik'}v_{i}+v_{0i}=v'_{k}$ と置けば次式がなりたちます。

<tex>
F'_{k} = \frac{d}{dt}(mv'_{k})	\tag{5}
</tex>


式 $(5)$ は式 $(4)$ と全く同じ形をしていますから、ニュートンの運動方程式はどちらの座標系でも成り立っているということです。しかし、 $F$ と $F'$ 、 $v_{i}$ と $v'_{i}$ は、値としてはそれぞれ異なります。具体的には、この違いは遠心力やコリオリ力などの見かけの力となって感じられるものです。


数学的に一般的に言えば、テンソルを座標変換すればテンソル方程式の形は式 $(1)$ と $(2)$ のように変わってしまう可能性もあるわけですが、物理学に出てくるテンソル方程式は座標変換によらないよう定式化されています。逆に、このように定式化できる法則だけを物理法則と呼んでいます。


.. [*] 相対性理論ではミンコフスキー空間という、時間と三次元空間を一緒にした空間で、ローレンツ変換という座標変換を考えます。ちょっと変わった座標変換ですが、座標変換には違いありません。



.. [*] 古典力学の枠組みでは、温度、質量、長さなどはスカラーです。位置、速度、加速度、力、モーメント、変位などはベクトルで、慣性モーメント、応力などが二次のテンソルになります。このあたりまでで主要な物理量はほぼ全てカバーしているように思えます。実際、 $20$ 世紀初頭までは多くの物理学者がテンソル理論だけで全ての物理量を説明できると考えていました。ところが、量子力学が発展するにつれてテンソルでは間に合わなくなってきました。量子力学ではスピンという概念によって粒子を分類しますが、スピン $0$ の粒子( $\pi$ 中間子、 $\alpha$ 粒子等)はスカラーに、スピン $1$ の粒子(重陽子など)はベクトルに対応します。重力子は二階のテンソルに対応するそうです。ところが、電子、陽子、中性子など、私たちにもっとも馴染みのある粒子のスピンは $\frac{1}{2}$ で、スカラーともベクトルとも言い難い量なのです。そういった事情で、物理学を全てテンソル理論で構築するという夢は砕かれましたが、その代わりにスピンというさらに面白そうな概念が出てきたわけです。量子力学は奥が深いですね。スピン理論に興味のある人は、スピノール、素粒子などをキーワードに勉強してみて下さい。



@@author:Joh@@
@@accept: 2006-08-25@@
@@category: ベクトル解析@@
@@id: TensorAndPhysics@@
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