物理のかぎしっぽ 記事ソース/ガロア群の例

記事ソース/ガロア群の例

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記事ソースの内容

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ガロア群の例
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ガロア群の定義はそれほど難しくありませんでしたが、ガロア群が具体的にどのような群であるか、すなわち、その元である自己同型写像がどのようなものであるかが、まだあまりピンと来ていないと思います。

実は、ガロア群の元は体によって簡単に決まる場合もあれば、なかなか求めるのが難しいような場合もあり、一般にはなかなか簡単に決まりません。特に、拡大次数が大きい場合には大変です。ガロア群を決定するための万能の方法はありませんが、幾つかの例と定理を見ながら、ガロア群に少しずつ慣れていきましょう。

まず、体の自己同型写像の定義を復習しましょう。


<tex>
\phi (\alpha + \beta )=\phi (\alpha )+\phi (\beta )	\tag{1}
</tex>


<tex>
\phi (\alpha \beta )=\phi (\alpha )\phi (\beta )	\tag{2}
</tex>


有理数体 $Q$ を $Q$ に写す自己同型写像には、恒等写像しかないことが分かります。これは背理法ですぐに示せますが、もしも、ある有理数が違う有理数に写される場合があれば、式 $(1)(2)$ が成り立たない反例をすぐに示せるからです。


.. important:: 

	有理数体 $Q$ を $Q$ に移す自己同型写像には恒等写像しかありません。



例1(二次拡大体)
------------------------------------------
最初に、 $Q$ の二次拡大体の例として $Q(\sqrt{2})$ のガロア群 $\cal G \it (\sqrt{2})$ を考えます。 $Q(\sqrt{2})$ の元が全て $a+b\sqrt{2}$ の形に書けるのはもう大丈夫だと思います。


まず、明らかに恒等写像 $I$ は自己同型写像で、 $\cal G \it (\sqrt{2})$ の元です。

<tex>
I: \ a + b\sqrt{2} \ \longmapsto \ a+b\sqrt{2}
</tex>

これは自明な元です。実は、もう一つそれほど明らかではない自己同型写像に、 $a+b\sqrt{2}$ を $a-b\sqrt{2}$ に写す写像があります。


<tex>
J: \ a + b\sqrt{2} \ \longmapsto \ a-b\sqrt{2}
</tex>

この写像 $J$ が確かに自己同型写像の定義を満たすことを確認してみましょう。式 $(1)(2)$ に $J$ を代入してみます。

<tex>
J((a + b\sqrt{2})+(c + d\sqrt{2})) &=J((a +c) + (b+d)\sqrt{2}) \\
&= (a +c) - (b+d)\sqrt{2} \\
&= (a-b\sqrt{2})+(c-d\sqrt{2}) \\
&= J(a+b\sqrt{2})+J(c+d\sqrt{2})
</tex>

<tex>
J((a + b\sqrt{2})\cdot (c + d\sqrt{2})) &=J((ac+2bd)+(ad+bc)\sqrt{2}) \\
&= (ac+2bd) - (ad+bc)\sqrt{2} \\
&= (a-b\sqrt{2})(c-d\sqrt{2}) \\
&= J(a+b\sqrt{2})J(c+d\sqrt{2})
</tex>

確かに $J$ も自己同型写像の定義 $(1)(2)$ を満たすことが分かりました。 $J^{2}=I$ ですから、この自己同型写像群は $I$ と $J$ だけで閉じた位数 $2$ の群を作れます。


また、 $I$ も $J$ も $a+b\sqrt{2}$ の形の元の有理数部分、つまりこの例の $a$ を不変に保ちますから、ガロア群 $\cal G \it (Q(\sqrt{2})/Q)=\{ I, J\} $ が分かります。

.. [*] のちほど、ガロア理論の応用として、定規とコンパスで作図可能な図形の問題や、代数方程式の可解性も問題を考えますが、そうした場合に二次拡大が非常に大事です。



例2
-------------------------------------------------
もう一つ、 $Q$ の拡大体 $Q(\sqrt{2},\sqrt{3})$ を考えてみましょう。 $Q(\sqrt{2},\sqrt{3})$ の元は、全て $a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+d\sqrt{6}$ の形で表わすことができます。


二つの $Q(\sqrt{2},\sqrt{3})$ の元の積を考えて、恒等写像以外の自己同型写像の可能性を考えてみましょう。計算はけっこう大変です。 

<tex>
(a_{1}+b_{1}\sqrt{2}+c_{1}\sqrt{3}+d_{1}\sqrt{6})
(a_{2}+b_{2}\sqrt{2}+c_{2}\sqrt{3}+d_{2}\sqrt{6})
&= (a_{1}a_{2}+2b_{1}b_{2}+3c_{1}c_{2}+6d_{1}d_{2}) \\
& \ \ +(a_{1}b_{2}+b_{1}a_{2}+3c_{1}d_{2}+3d_{1}c_{2})\sqrt{2} \\ 
& \ \ +(a_{1}c_{2}+c_{1}a_{2}+2b_{1}d_{2}+2d_{1}b_{2})\sqrt{3} \\ 
& \ \ +(a_{1}d_{2}+b_{1}c_{2}+c_{1}b_{2}+d_{1}a_{2})\sqrt{6} 
</tex> 

じっと両辺を見ていると、まず左辺の $b$ と $d$ の符号を $+$ から $-$ に変える写像 $K$ が、右辺でも二行目と四行目(つまり $b$ と $d$ に相当)の符号だけを変えることが分かります。

<tex>
K: \ a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+d\sqrt{6} \ \longmapsto \ a-b\sqrt{2}+c\sqrt{3}-d\sqrt{6}
</tex>

よって、 $K$ は式 $(2)$ を満たしています。 $K$ が式 $(1)$ を満たすのは明らかですから、 $K$ は $Q(\sqrt{2},\sqrt{3})$ の自己同型写像になっています。同様に、 $b$ と $c$ の符号だけを変える写像 $L$ 、 $c$ と $d$ の符号だけを変える写像 $M$ も自己同型写像になります。


有理数の部分 $a$ を不変に保つ自己同型写像(つまり $Q$ を固定体とする $Q(\sqrt{2},\sqrt{3})$ の自己同型写像)はこの四つだけですが、この四つの自己同型写像は確かに群をなします。群表は次のようになります。

.. csv-table:: 
  :header: "", "I", "K","L","M"
  
  "I",  "I" , "K" ,"L","M" 
  "K",  "K" , "I","M","L" 
  "L",  "L" , "M","I","K"
  "M",  "M", "L","K","I" 


これより、ガロア群 $\cal G \it (Q(\sqrt{2}, \sqrt{3})/Q)=\{ I, K,L,M\} $ が分かります。この群が、 クラインの四元群_ と同型であることを、群表を比較して確認してください。ここで行った計算はやや面倒でしたが、自己同型写像を具体的に決めるには、定義式 $(1)(2)$ を満たすように地道に探すしかありません。


.. [*] 具体的に自己同型写像を探すしかないと書きましたが、たいていは例題のように、 $\pm$ の符号を入れ替える写像を考えれば良いです。複素共役を取る操作に似てますね。


補足
^^^^^^^^^^^^^
例2に出てきた $I,M$ の二つは、 $Q(\sqrt{2}, \sqrt{3})$ の元で $a+b\sqrt{2}$ の部分の符号を変えませんので、 $\cal G \it (Q(\sqrt{2}, \sqrt{3})/Q(\sqrt{2}))=\{ I,M\} $ が言えます。このガロア群は、明らかに例1で見た $\cal G \it (Q(\sqrt{2})/Q)=\{ I, J\} $ に同型です。

これは少し考えてみればもっともなことです。ガロア群は、二つの体の間にある、拡大の関係だけで決まってくる群ですので、 $Q$ に $\sqrt{2}$ を添加した体と、 $Q(\sqrt{3})$ に $\sqrt{2}$ を添加した体とで、ガロア群 $\cal G \it (Q(\sqrt{2}, \sqrt{3})/Q(\sqrt{2}))$ と $\cal G \it (Q(\sqrt{2})/Q)$ が同型になっていることに不思議はありません。このような関係を、よく次のような図で書く人もいます。図中、下の $Q$ から上の $Q(\sqrt{2},\sqrt{3})$ に到るのに、添加する元と中間体を示しているわけです。


.. image:: Joh-GaloisMapDiam.gif 


矢印の横には、ガロア群の元や位数など、追加情報を書き込みましょう。物理のかぎしっぽでは、このような図はあまり使わないと思いますが、演習問題を解く際に自分で考えるのには、きっと役に立つと思います。ここまでに 体の自己同型写像_ で『ガロア拡大の拡大次数は、ガロア群の位数に等しい』という定理を導きましたが、例1と例2をもう一度振り返って、この関係を確認してみてください。



例3
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
有理数体 $Q$ の拡大体 $Q(\root 4\of {2} , i)$ を考えてみます。 $Q(\root 4\of {2}), i)$ は、 $x^{4}-1$ の解 $\pm \root 4\of {2} , \pm i\root 4\of {2}$ を $Q$ に添加して得られる体で、 $Q$ 上 $x^{4}-1$ は既約ですから、 $Q(\root 4\of {2} , i)$ は $x^{4}-1$ の最小分解体になっています。

まずガロア群 $\cal G \it (Q(\root 4\of {2}) , i/Q)$ を求めてみましょう。 $Q(\root 4\of {2}, i)$ の元は一般に $a_{1}+a_{2}\root 4\of {2}+a_{3}\root 4\of {2^{2}}+a_{4}\root 4\of {2^{3}}+a_{5}i+a_{6}i\root 4\of {2}+a_{7}i\root 4\of {2^{2}}+a_{8}i\root 4\of {2^{3}}$ の形をしています。

例題1,2と同じように考えますが、 $i$ を基底とする項を $-i$ に変える写像は自己同型写像と言えます。同様に、 $\root 4\of {2^{2}}$ を $-\root 4\of {2^{2}}, i\root 4\of {2^{2}},-i\root 4\of {2^{2}}$ に変える写像も自己同型写像です。


.. [*]  $i$ は二乗すると有理数、 $\root 4\of {2}$ は四乗すると有理数になり、それぞれ $2$ 種と $4$ 種の項で巡回的なループを作っています。そこで恒等写像も含めて $i$ の項に $2$ 種、 $\root 4\of {2}$ の項に $4$ 種の自己同型写像が考えられるわけです。次表に示すように、 $2 \times 4=8$ で計 $8$ 種になります。例題1,2よりも複雑ですね!


これらの写像の組合わせは次表のようになります。 $e,\sigma , \tau$ は適当につけた名前です。



.. csv-table:: 
  :header: "自己同型写像", " $\phi(\root 4\of {2})$ ", " $\phi(i)$ " 

  " ${\phi}_{1}=e$ ",  " $\root 4\of {2}$ " , " $i$ " 
  " ${\phi}_{2}=\sigma$ ",  " $i\root 4\of {2}$ " , " $i$ " 
  " ${\phi}_{3}={\sigma}^{2}$ ",  " $-\root 4\of {2}$ " , " $i$ " 
  " ${\phi}_{4}={\sigma}^{3}$ ",  " $-i\root 4\of {2}$ " , " $i$ " 
  " ${\phi}_{5}=\tau$ ",  " $\root 4\of {2}$ " , " $-i$ " 
  " ${\phi}_{6}=\sigma \tau$ ",  " $i\root 4\of {2}$ " , " $-i$ " 
  " ${\phi}_{7}={\sigma}^{2}\tau$ ",  " $-\root 4\of {2}$ " , " $-i$ " 
  " ${\phi}_{8}={\sigma}^{3}\tau$ ",  " $-i\root 4\of {2}$ " , " $-i$ " 


ガロア群 $\cal G \it (Q(\root 4\of {2} , i)/Q)=\{ e,\sigma ,{\sigma}^{2},{\sigma}^{3},\tau , \sigma \tau , {\sigma}^{2}\tau , {\sigma}^{3}\tau \} $ が得られました。 $\cal G \it (Q(\root 4\of {2}) , i)/Q)$ の位数と $Q(\root 4\of {2})$ の拡大次数がどちらも $8$ である点を確認してください。


さて、 $\cal G \it (Q(\root 4\of {2} , i)/Q)$ の元で、 $\sigma \tau$ は $(\sigma \tau )^2=e$ となりますので(確かめてください)、 $\{ e,\sigma \tau \} $ だけで位数 $2$ の部分群が作れます。また、 $\{ e,\sigma \tau \} $ の固定体は、次のように実際に計算してみれば分かります。 $Q(\root 4\of {2})$ の元を $\xi = a_{1}+a_{2}\root 4\of {2}+a_{3}\root 4\of {2^{2}}+a_{4}\root 4\of {2^{3}}+a_{5}i+a_{6}i\root 4\of {2}+a_{7}i\root 4\of {2^{2}}+a_{8}i\root 4\of {2^{3}}$ として、 $\sigma \tau$ を作用させてみましょう。

<tex>
\sigma \tau (\xi) = a_{1}+a_{2}i\root 4\of {2}-a_{3}\root 4\of {2^{2}}-ia_{4}\root 4\of {2^{3}}-a_{5}i+a_{6}\root 4\of {2}+a_{7}i\root 4\of {2^{2}}-a_{8}\root 4\of {2^{3}} 
</tex>

係数を見比べて、 $\sigma \tau (\xi) = \xi$ を満たすために $a_{2}=a_{6}, a_{3}=-a_{3}=0,a_{4}=-a_{8},a_{5}=-a_{5}=0$ が要請されます。 $a_{1},a_{6},a_{7}$ はこの変換によって不動です。これによって、 $\{ e,\sigma \tau \} $ の固定体の元は次のような形であることが分かります。

<tex>
b_{1}+b_{2}(1+i)\root 4\of {2}+a_{4}(1-i)\root 4\of {2^{3}}+a_{7}i\root 4\of {2^{2}} 
</tex>

すこし技巧的ですが、これを次のように書き換えることも出来ます。

<tex>
b_{1}+b_{2}(1+i)\root 4\of {2}+\frac{1}{2}a_{7}(1+i)^{2}\root 4\of {2^{2}} +\frac{1}{2}a_{4}(1+i)^{3}\root 4\of {2^{3}}
</tex>

これより、 $\{ e,\sigma \tau \} $ の固定体は $Q((1+i)\root 4\of {2})$ だと分かりました。

.. [*] ちなみに、  $\{ e,\sigma \tau \} $ は $\cal G \it (Q(\root 4\of {2}) , i)/Q)$ の正規部分群ではないため、 $Q((1+i)\root 4\of {2})$ は $Q$ のガロア拡大ではありません。





.. _クラインの四元群: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/KleinQuaternion/
.. _体の自己同型写像: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/FieldIsomorphism






@@author:Joh@@
@@accept: 2007-03-03@@
@@category: 代数学@@
@@id: GaloisGroupEx@@
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