============================================================ 自分で調べるCのポインタ ============================================================ C言語の開発環境があれば,自分でテストプログラムを作ることにより, 手持ちの教科書・参考書だけでポインタの性質を理解することができます. 以下に調べ方の例を示します.例を変更して自分でいろいろ試みてください. 本文に誤りがあったとき自信を持って訂正できます. 簡単な例 ================================================= まず次の例を考えましょう.結果が予想できない人は実際にプログラムを 作って実行してください. 例1.次のプログラムの出力は「1, 4」. :: #include int main(void) { int n[3]={4, 5, 6}, *p=n; printf("%d, %d\n", p==&n[0], *p); return 0; } 問1.例1の n, p について (1) p[1] の値を示せ. (2) &n[1]-&n[0] の値を示せ. 例1で実在する変数は n[0], n[1], n[2], p のみですが,「p=n;」によって n[i] の代わりに p[i] を使うことができます.一般に p[i]==*(p+i), &p[i]==p+i したがって p==&p[0],*p==p[0] であり,「p=n+1;」とすると p[-1]==n[0], p[0]==n[1], p[1]==n[2] となります.Cで「&p[i]==p+i」と定めたのは「p+=sizeof(int);」の代わりに 「p++;」を使いたいためであると思われます.『アドレス+整数』と 『アドレス−アドレス』は次元(?)が違うので &n[1]-&n[0]==sizeof(int) と定めることもできますが [*]_ ,&n[1]!=&n[0]+(&n[1]-&n[0]) となるので, Cの言語仕様はそうなっていません.実際 :: #include int main(void) { int n[3], k0=&n[0], k1=&n[1]; printf("%d, %d\n", k1-k0, &n[1]-&n[0]); return 0; } を実行すると,k1-k0==sizeof(int), &n[1]-&n[0]==1,2*(&n[1]-&n[0]==2 と なります.「k0=&n[0];」は警告が出るかもしれませんが,無意味な代入では ないのでエラーにはなりません. .. [*] Cの表現における &n[1]==n+1 && &n[1][2]!=(n+1)+2 等の不自然な式が なくなります.どう定めても複雑な式には歪が伴います. 2次元配列とポインタの配列 ================================================= プログラム例を示す前に「int n[2][2],*p[2],(\*q)[][2];」で宣言される n, p, q について説明します.Cの記法ではありませんが :: 「int n[2][2];」「int *p[2];」「int (*q)[][2];」 『int[2] n[2]; 』『int* p[2]; 』『int[2][] *q; 』 『int[2][2] n; 』『int*[2] p; 』『int[2][]* q; 』 と書き換えることにより,n は整数の2次元配列,p は整数へのポインタの 1次元配列,q は整数の2次元配列へのポインタであることが分かりやすく なります.なお,「int m[2][3][4];」と宣言されているとき, &m[i][j][k]-&m[0][0][0]==4*(3*i+j)+k であることは :: for(i=0; i<2; i++)for(j=0; j<3; j++)for(k=0; k<4; k++){ printf("%d,", &m[i][j][k]-&m[0][0][0]); } を実行することで確認できます.また &m[i][j][k] に対して m[i][j]+k==&m[i][j][k], m[i]==m[i][0], m==m[0] と定められています.ただし,k が 0 でないとき m[i][0] に m[i] を代入 できません.m[0] と m についても同様です. 例2.次のプログラムの出力は「5, 7」. :: #include int main(void) { int n[2][2]={{4, 5}, {6, 7}}, *p[2], (*q)[][2]; q=p[1]=&n[0][1]; printf("%d, %d\n", p[1][0], (*q)[1][0]); return 0; } 問2.例2の n, p, q について (1) \*\*\*q の値を示せ. (2) 「n[1]=p[1];」がエラーとなる理由を述べよ. 以下では簡単のため「A==B && B==C && C==D」を『 A == B == C == D 』 のように略記します.例2のプログラムでは p[1]==&n[0][1] ですから, 『 p[1][0] == \*p[1] == \*(&n[0][1]) == n[0][1] == 5 』 です.q の方は初期値 &n[0][1] を用いて (\*q)[0][0]==*(&n[0][1]), (\*q)[1][0]==*(&n[0][1]+2*1+0) と解釈され,\*\*(\*q) == n[0][1], (\*q)[1][0] == n[1][1] となります. 『 q == \*q == \*\*q == &n[0][1] 』であることは分かり難いのですが, 「(\*q)[i][j]==q[0][i][j]」であり「int m[2][3][4];」のときの 『 m == \*m == \*\*m == &m[0][0][0], \*\*\*m == m[0][0][0] 』 と類似の関係になっています.なお n[1] はアドレスであって(ポインタ とは異なり)メモリ上に領域が与えられていないので,値を代入することは できません. :: n 『n[0][0]=4;』『n[0][1]=5;』『n[1][0]=6;』『n[1][1]=7;』 p 『p[0] 』『p[1]=(※);』 &q 『q=p[1]; 』 (※)==&n[0][1], (*q)[0][0]==*p[1], (*q)[0][1]==*(p[1]+1) 文字列とポインタ ================================================= Cには string 型がないため,文字列は先頭をアドレス,末尾を制御文字'\0' で表わします.例えば,宣言「char s[]="ABC";」は char s[4]={'A', 'B', 'C', '\0'}; を略記したもので,先頭のアドレスが s で s[3]=='\0' になっています. 「char \*p="ABC";」という宣言は少し分かりにくいのですが,適当な場所に "ABC" を格納する配列をつくり,その先頭アドレスを p に設定します. 文法的には正しくありませんが『p==&"ABC", \*p=='A'』という感じです. 例3.次のプログラムの出力は「B, DE」. :: #include int main(void) { char s[2][8]={"ABC", "DE"}, (*p)[8]=s; printf("%c, %s\n", p[0][1], p[1]); return 0; } 問3.例3の s, p について (1) (\*p)[2] の値を示せ. (2) \*(\*p+1) の値を示せ. 「char (\*p)[8]=s;」で p に設定されるのは s です.p は『char[8]』への ポインタなので p[i]==s[i], p[i][j]==s[i][j] が成立し,p[0][1]=='B', p[1]==s[1] です.また (\*p)[2]==p[0][2], \*p+1==p[0]+1, \*(p[0]+1)==p[0][1] ですから,(\*p)[2]=='C', \*(\*p+1)=='B' です.「char (\*q)[4]=s;」と 宣言された q では q[1][0]==s[0][4], q[2][0]==s[1][0] です. 仮引数での宣言 ================================================= Cでは(値呼びしかできないため)関数の引数にポインタが多用されます. ポインタ p が配列と関係なければ単に \*p と表わせばいいので,ここでは 直接あるいは間接に配列を指すポインタについて考えます.実引数としたい 配列と型を合わせたいときは :: int n1[4]; --> (int p1[]) または (int *p1) int n2[4][5]; --> (int p2[][5]) int n3[4][5][6]; --> (int p3[][5][6]) int *m1[4]; --> (int *q1[]) または (int **q1) int *m2[4][5]; --> (int *q2[][5]) のように宣言します.p1, p2, p3, q1, q2 がすべて配列ではなくポインタ であることは,関数内で sizeof(p1) 等を printf() で表示することによって 確認できます. 例4.次のプログラムの出力は「B, D」. :: #include void check(char p2[][8], char *q1[]) { printf("%c, %c\n", p2[0][1], *q1[1]); } int main(void) { char s[2][8]={"ABC", "DE"}, *r[2]; r[0]=s[0]; r[1]=s[1]; check(s, r); return 0; } 問4.例4の p, q について (1) \*\*q1 の値を示せ. (2) q1[1][2] の値を示せ. 仮引数の宣言の [] を [N](N は適当な定数)で置換した大域変数や局所 変数の宣言を考えると,配列要素のアドレスの計算に N は不要であることが 分かります.「char s[2][8];」のとき &s[i][j]-s[0][0]==8*i+j ですが, 仮引数の宣言「int p2[][8]」でも同様に &p2[i][j]-&p2[0][0]==8*i+j です.したがって p2[0][1]==s[0][1] となります.また「char \*r[2];」の r[i] は実在するポインタ,「char \*q1[]」の q1[i] は計算したアドレス ですが, q1[i]==*(q1+i), q[i][j]==*(q1[i]+j) なので,q1==r であれば q1[i][j]==r[i][j] が成立します.このとき \*q1[1]==r[1][0], \*\*q1==r[0][0], q1[1][2]='\0' です.宣言として 「char \*q1[]」の代わりに「char \*\*q1」を用いても同じですが,局所変数に 対しては「char \*\*q;」を「char \*q[];」のように宣言することはできません. なお,必ずしも実引数と仮引数の型を合わせるのがよいとは限りません. 一例を次に示します. :: #include extern int sum, n[10][10][10]; void add(int k, int *p) { while(k>0){sum+=*p; p++; k--;} } int main(void) { sum=0; add(1000, n); printf("sum=%d\n", sum); return 0; } 構造体メンバの参照 ================================================= 構造体のメンバ x.m は p==&x であるポインタを用いて p->m で参照でき ます.このことに詳しくない人は,まず構造体の基礎を学んでください. 例5.次のプログラムの出力は「ADC」. :: typedef struct{char s[8], *p;} str2; void main_5(void) { str2 x[2]={{"ABC"}, {"DE"}}, *q=x+1; x[0].p=x[1].s; x[1].p=x[0].s; x[0].s[1]=q->s[0]; printf("x[0].s=%s\n", x[0].s); } 問5.例5の x, p について (1) q->s[1] の値を示せ. (2) q->p[1] の値を示せ. 「x[1].p=x[0].s;」実行後に x[0].s[i] を書き換えても x[1].p[i] も 変わるので,q->p[1]=='D' です. 補遺 ================================================= ポインタの性質を理解するときの留意点は,ポインタが参照するデータ の構造はポインタの宣言のみで決まるということです.例えば int n[2][3], \*p=&n[0][1]; と宣言されていれば,『(int*) p=&n[0][1];』なので p[-1]==n[0][0], \*p==n[0][1], p[1]==n[0][2] となります.つまり p から見れば p[i] は n に関係なく p+i にある データ \*(p+i) に過ぎないのです.細かい補足は以下に列挙します. 1. 「int n[][2]={4, 5, 6};」は「int n[2][2]={{4, 5}, {6, 0}};」 として扱われます.「int p[];」や「int p[][2];」をポインタの宣言に 使えないのはのは,このことが関係しているものと思われます.配列要素 を参照するときは「(\*p)[i][j]」より「p[0][i][j]」の方が分かりやすい でしょう.参照先によっては「p[k][i][j]」も使えます. 2. 「char \*p;」は「char* p;」と同じですが,「char* p, q;」は 「char \*p, q;」として処理されます.「char* p;」「char* q;」を まとめるには「typedef char \*cptr; cptr p, q;」のようにします. 3. Cのバイブル[1]に複雑な宣言の例として「char (\*(\*x[3])())[5];」 が挙げられていますが,これを :: 「char (*(*x[3])())[5];」 『char[5] *(*x[3])(); 』 『char[5]* (*x[3])(); 』 『()(char[5]*) *x[3]; 』 『(()(char[5]*))* x[3]; 』 『(()(char[5]*))*[3] x; 』 と変形すると,x が「array [3] of pointer to function returning pointer to array [5] of char」であることが少し分かりやすくなるかも 知れません(すぐれた教育用言語である Pascal での表現に近づきます). 4. 自分でプログラムを書くときは,なるべく素直な表現を使いましょう. scanf() で 変数 x[i][j] にデータを入力するとき,&x[i][j] の方が x[i]+j より素直です.ポインタの更新も独立した文で行いましょう. 言語仕様からいえば「printf("%d, %d\n", i++, n[i]);」の結果は処理系 に依存します. あとがき ================================================= 教科書・参考書を謙虚に学ぶことが基本ですが,疑問点を自力で解決しよう とする姿勢も重要です.このことを奨励するために,比較的取り組みやすい 例を示しました. 参考文献 [1] B. W. カーニハン,D. M. リッチー著,石田晴久訳,プログラミング言語C 第2版,共立出版,1989,ISBN4-320-02483-4. [2](ほとんど文献調査を行っていません.引用すべき資料をご教示頂ければ 幸いです.) @@author: pulsar@@ @@accept: 執筆中@@ @@category: プログラミング@@