============================================================ 留数定理とは ============================================================ この記事では、留数定理をかなり大雑把に、使い道まで解説します。 基本 ===================== 留数定理は、複素線積分に関する定理です。 もし、複素線積分が正則な領域を囲むなら、 積分値はゼロになります。これがコーシーの積分定理です。 ところが、囲む領域の中に正則でない点、例えば $f(z)=\dfrac{1}{z-1}$ のように、 非正則点(これを特異点と言います)があると、一周しても積分値がゼロでないことがあります。 だから、何なんだ。と思うでしょうが、これが非常に役に立ちます。 後で説明しますので、お楽しみに。 発想 ===================== 次の積分を計算しましょう。 $n$ を $-1$ でない整数とします。 $C_R$ は原点を囲む半径 $R$ の円です。 $z = R e^{i \theta}$ とすると、 $dz = i R e^{i \theta} d \theta$ で積分範囲は、 $\theta : 0 \to 2\pi$ です。 \int_{C_R} z^n dz &= \int_0^{2 \pi} \left( R^n e^{i n \theta} \right) i R e^{i \theta} d \theta \\ &= i \int_0^{2 \pi} R^{n+1} e^{i (n+1) \theta} d \theta \\ &= \left[ \dfrac{i}{i(n+1)} R^{n+1} e^{i (n+1) \theta} \right]_0^{2\pi} \\ &= \dfrac{1}{(n+1)} R^{n+1} e^{i2 (n+1) \pi} - \dfrac{1}{(n+1)} R^{n+1} e^{0} \\ &= 0 \tag{##} ですね。では、これ見よがしに $-1$ を除外しましたが、この時どうなるか。 次に示します。 \int_{C_R} z^n dz &= \int_0^{2 \pi} \left( R^{-1} e^{- i \theta} \right) i R e^{i \theta} d \theta \\ &= i \int_0^{2 \pi} 1 d \theta \\ &= i \left[ \theta \right]_0^{2\pi} \\ &= 2 \pi i \tag{##} これだけ残るのです。しかもこの積分は示しませんが、積分路がこの点 $z=0$ を囲ってさえいれば、いつでも $2 \pi i$ となります。 ローラン展開 ===================== ここで、 $f(z)$ をテイラー展開で $f(z) = a_0 + \dfrac{a_1}{1!}(x-a) + \dfrac{a_2}{2!}(x-a)^2 + \cdots$ と展開できますよね。 でも、これは $1/z$ の様な関数は展開できません。(この辺はどういう関数ならテイラー展開で良いかはよく知りません。)そこで、テイラー展開の拡張でローラン展開と言うものがあります。例えば、 f(z) = a_{-2} (z-a)^{-2} + a_{-1} (z-a)^{-1} + a_{0} + a_{1} (z-a)^{1} + a_{2} (z-a)^{2} + \cdots \tag{##} があげられます。テイラー展開では $n!$ で割っていましたが、ローラン展開ではしませんね。ここで冪数の最低次の数を極の次数といい、この場合は、2次の極と言います。大抵は 1次の極の計算を知っていれば対処できます。もし、この次数が無限なら、真性特異点と言います。では、この式 $(3)$ を囲った複素線積分(積分路 $C$ )はどうなるでしょう。 $z-a = R e^{i \theta}$ とすれば、これも $n=-1$ の寄与のみが残り、 \int_{C} f(z) dz = 2 \pi i a_{-1} \tag{##} となるのです。 いよいよ留数の登場 =========================== 実は、式 $(3)$ の $a_{-1}$ はわざわざ積分しなくても求まります。 式 $(3)$ に $(z-a)^2$ をかけてみましょう。 (z-a)^2 f(z) = a_{-2} + a_{-1} (z-a)^{1} + a_{0}(z-a)^2 + a_{1} (z-a)^{3} + a_{2} (z-a)^{4} + \cdots \tag{##} さらに、 $z$ で微分してみましょう。 \dfrac{d}{dz} \left( (z-a)^2 f(z) \right)= a_{-1} + 2a_{0}(z-a) + 3a_{1} (z-a)^{2} + 4 a_{2} (z-a)^{3} + \cdots \tag{##} そして、 $z=a$ を代入すると、 \left. \dfrac{d}{dz} \left( (z-a)^2 f(z) \right)\right|_{z=a}= a_{-1} \tag{##} となります。この上式の左辺が留数と呼ばれるものです。 Res_{z=a} f(z) = \left. \dfrac{d}{dz} \left( (z-a)^2 f(z) \right)\right|_{z=a} \tag{##} と書きます。 一次の極なら話はもっと簡単で、 f(z) = a_{-1} (z-a)^{-1} + a_0 + a_1 (z-a) + \cdots \tag{##} なのですから、 Res_{z=a}f(z) = \left. (z-a) f(z) \right|_{z=a} \tag{##} となります。どうです?積分がただの掛け算と代入だけで求まってしまいます。 式 $(4)$ と比べて、 \int_{C} f(z) dz = 2 \pi i Res_{z=a} f(z) \tag{##} が言えます。これは覚えるべき公式です。 もし、他の極も囲った中にあるなら、 \int_{C} f(z) dz = 2 \pi i \sum_{i} Res_{z=a_i} f(z) \tag{##} とすればよいです。これを留数定理と呼びます。 使い道 =============== 例えば、この積分値が分かるようになると、普通は不定積分が計算できないのに、実関数 $x$ の積分 $\int_{-\infty}^\infty f(x) dx$ などの定積分が分かるようになります。必ずしも実関数でなくてもよいです。 具体例を挙げてみます。 $a>0$ として、 \int_{-\infty}^\infty \dfrac{dx}{x^2+a^2} \tag{##} を計算します。それには積分路を図の様に取ります。 .. image :: chromel-residueTheorem-01.png この経路 $C$ の反時計回り一周分の積分をします。 \int_{C} f(z) dz &= \int_{C} \dfrac{dz}{z^2+a^2} \\ &= \int_{C_R} \dfrac{dz}{z^2+a^2} + \int_{-R}^R \dfrac{dx}{x^2+a^2} \tag{##} ここで、円弧 $C_R$ の積分は $R \to \infty$ で消えてしまいます。 この辺は詳しく書きません。(cf.フーリエ変換の応用にはジョルダンの補題が役に立ちます)残るのが、 \int_{-R}^{R} \dfrac{dx}{x^2+a^2} \tag{##} ですね。この $R \to \infty$ の極限を計算します。 しかし、我々はこの積分一周の値を留数定理から知っているのです。 図に示した通り、極は $z^2+a^2 = (z+ia)(z-ia)$ より、 このかまぼこ型の領域には $z=ia$ が含まれています。 \int_{C} \dfrac{dz}{z^2+a^2} &= 2 \pi i Res_{z = ia} f(z) \\ &= 2 \pi i \left[ (z-ia)\dfrac{1}{(z-ia)(z+ia)} \right]_{z=ia} \\ &= 2 \pi i \left[ \dfrac{1}{z+ia} \right]_{z=ia} \\ &= 2 \pi i \dfrac{1}{2ia} \\ &= \dfrac{\pi}{a} \tag{##} これが言えたので、 \lim_{R \to \infty} \int_{C} f(z) dz &= \lim_{R \to \infty} \int_{C} \dfrac{dz}{z^2+a^2} \\ &=\lim_{R \to \infty} \int_{C_R} \dfrac{dz}{z^2+a^2} + \lim_{R \to \infty} \int_{-R}^R \dfrac{dx}{x^2+a^2} \\ &= 0 + \int_{-\infty}^\infty \dfrac{dx}{x^2+a^2} \\ &= \dfrac{\pi}{a} \tag{##} ややこしいですが、つまりは、 \int_{-\infty}^\infty \dfrac{dx}{x^2+a^2} = \dfrac{\pi}{a} \tag{##} となります。 この留数定理は、フーリエ変換やグリーン関数を求める際、強力な道具となります。 今日はここまで、お疲れさまでした。 @@author:クロメル@@ @@accept:2019-04-08@@ @@category:複素解析@@ @@id:residueTheorem@@