============================================================ 平方完成の図形的イメージ ============================================================ 2次方程式を解く_ 際,「平方完成」という操作を行います. はじめて授業で習ったとき,どうも変形の本質というか, イメージが掴めなかった方も多いのではないでしょうか. 平方完成の“図形的イメージ”を捉えることを目標に,この記事を書きました. 平方完成とは ============ 2次方程式を解くときに,「なんとかの二乗=定数」という形に変形することを,平方完成と呼びます. たとえば x^2+bx=c という2次方程式を平方完成すると, \left(x+\frac{b}{2}\right)^2=c+\left(\frac{b}{2}\right)^2 になります.この式変形の意味を,何とか図形的にイメージすることはできないでしょうか. 図形的意味 ========== 一般式ではイメージし辛いので,つぎのように具体的な2次方程式を考えます. x^2 + 11x = 33 \tag{#def(eq:imi)} この式の意味は「ある数を二乗したものと,ある数に11を掛けたものを足すと,33である」ということです. そして,方程式の解を求めるとは,「ある数」が具体的にいくらなのかを決めることです. 式 (#ref(eq:imi)) をなんとか図形的に表したいのですけど,どうしよう. そうだ,“2次”なのだから,面積に例えられないでしょうか. 四角形の面積は,一辺掛ける一辺,という2次の問題です. 特に正方形ならば,辺の長さの二乗,という問題になります. 2次方程式を,正方形の面積を求める問題 [*]_ に置き換えてみましょう. .. [*] この図形的な方法は,アラビアのアル・クワリズミという数学者が考えたそうです. ちなみに,“アル・クワリズミ”は“アルゴリズム”の語源だとか. 正方形とその面積 ---------------- まずは式 (#ref(eq:imi)) の右辺を,正方形の面積として表現することにします. 正方形の絵を描いておきます. .. image:: sakima-kainokoushiki-fig1.png :align: center 残るは式 (#ref(eq:imi)) の左辺を,正方形の辺の長さで表せれば, 2次方程式を図形的に表したことになります.しかし式 (#ref(eq:imi)) の左辺は x^2 + 11x なので,正方形の辺の長さにする,と言ってもなんだか良くわかりません. しかしこれが $x^2$ だったらどうでしょう.この場合,辺の長さは $x$ で良いですよね. 一辺の長さが $x$ の正方形の面積は, $x^2$ ですからね. $x^2 + 11x$ を「何とかの二乗」に近づけるため,つぎの式変形を行います. x^2 + 11x = \left(x + \frac{11}{2}\right)^2 - \left(\frac{11}{2}\right)^2 \tag{#def(eq:imi2)} ひとまず,「何とかの二乗」に近づきました. マイナスが付いた項が出てくるのは,両辺の値を等しくするためです. 式 (#ref(eq:imi2)) の右辺を式 (#ref(eq:imi)) の左辺に代入してみましょう. \left(x + \frac{11}{2}\right)^2 - \left(\frac{11}{2}\right)^2 = 33 \tag{#def(eq:imi3)} となります. 仮にマイナスの項を無視して考える -------------------------------- ここで一時的に,式 (#ref(eq:imi3)) においてマイナスの項を「なかったこと」にして考えてみると \left(x + \frac{11}{2}\right)^2 = 33 であり,この式は,図形的につぎの図で表せます. 一辺の長さが $x + \frac{11}{2}$ の正方形ですね. .. image:: sakima-kainokoushiki-fig2.png :align: center 色分けしているのにはちゃんと意味があります. 図にもう少し情報を書き込んでみます. .. image:: sakima-kainokoushiki-fig3.png :align: center 一辺の長さが $x + \frac{11}{2}$ であるという情報を元に, このように,全体を4つの四角形に分けることができます. - 面積 $x^2$ の正方形が1つ - 面積 $\frac{11}{2}x$ の長方形が2つ, - 面積 $\left(\frac{11}{2}\right)^2$ の正方形が1つ です.図の右下の,面積 $\left(\frac{11}{2}\right)^2$ の正方形に注目してください. マイナスの項もちゃんと考える ---------------------------- マイナスの項をちゃんと考えるには,両辺に「マイナスの項と同じもの」 を足して打ち消す,という方針を取ります.つまり \left(x + \frac{11}{2}\right)^2 - \left(\frac{11}{2}\right)^2 = 33 \left(x + \frac{11}{2}\right)^2 = 33 + \left(\frac{11}{2}\right)^2 \tag{#def(eq:imi4)} とすれば良いのですね.いまの場合,まるっきり無視したのではなく, 左辺から引いた分を右辺に足しているので,方程式の整合性は保たれています. しかし今度は,全体の面積に相当する右辺の値が増えてしまいました. これは,つぎの図のように考えます. .. image:: sakima-kainokoushiki-fig5.png :align: center 左側の「一部が欠けた正方形」の面積こそが,式 (#ref(eq:imi)) の右辺に相当し, 右側の「ちゃんとした正方形」が,変形した式 (#ref(eq:imi4)) の右辺に相当している,ということです. まとめ ====== 平方完成とは,このように正方形を完成させて,問題解決を簡単にすることだったのです. x^2 + 11x = 33 のように $x^2$ の項と $x$ の項が別々だと難しいですが, \left(x + \frac{11}{2}\right)^2 = 33 + \left(\frac{11}{2}\right)^2 と平方完成すると $x$ は一箇所にまとまるので,問題を考えやすくなります [*]_ . 変形の必然性,意味が少しでも納得できれば記憶も定着しやすいですし, なるほど! と思えれば勉強が楽しいものになりますね. .. [*] 正方形の面積,というイメージは思い浮かべやすいですが, じゃあ面積が負の場合はどうなるんだろう,という疑問にもつながります. そこは割り切っておきましょう. .. _2次方程式を解く: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/kainokoshiki/ @@author: 崎間@@ @@accept: 2005-11-13@@ @@category: 代数学@@ @@id:completingSquareImage@@