============================================================ 非弾性衝突の簡単なモデル ============================================================ この記事では、完全弾性衝突 $e=1$ をする球同士の衝突でも、 非弾性衝突を起こしうる簡単な例を論じます。 設定 ============= .. image :: chromel-inelasticCollision-01.png 上図の様に完全弾性衝突を行う大きさの等しい球1,2,3を考え、それぞれの質量をm,m/2,m/2とします。 球1はx方向に速度vで運動しています。 球2と球3は自然長 $0$ の減衰付きのばねでつながれて静止しているとします。 衝突の際はy軸に対して対称な衝突をし、 1と2の間で力積 $I$ 、1と3との間で力積 $I$ をそれぞれ交換します。 ここで注意することとして、反発係数の式は恐らくは使えません。 よって、その代わり運動量保存則と運動エネルギー保存則を用いることを注意しておきます。 力積と運動量 =================== 今回は運動方程式ではなく、運動量と力積の関係を用います。 今回は瞬間的に力積を授受するのであって、 もし運動方程式を用いるのでは互いに力を与えながら、 有限の距離を進まなければ、運動の変化が起こらないからです。 速度はIの関数として、次の様になります。 m \dot{x}_1 -mv &= -2I_x \\ m/2 \ \dot{x}_2 &= I_x \\ m/2\ \dot{x}_3 &= I_x \\ m \dot{y}_1 &= 0 \\ m/2 \ \dot{y}_2 &= I_y \\ m/2 \ \dot{y}_3 &= -I_y \tag{##} ここで、球の半径が等しいことで衝突の瞬間に正三角形ができますから、 球2,3が受ける力積の絶対値を $I$ とすると、 I_x &= I \cos \left( \dfrac{\pi}{6} \right) = \dfrac{\sqrt{3}I}{2} \\ I_y &= I \sin \left( \dfrac{\pi}{6} \right) = \dfrac{I}{2} \tag{##} 変数 $x_1,x_2,x_3,y_1,y_2,y_3,I_x,I_y,I$ の9個に対し、 方程式が8つしかありません。条件がもう一つ必要です。 とりあえずは、速度を求めておきましょう。 \dot{x}_1 &= v- \dfrac{\sqrt{3}I}{m} \\ \dot{x}_2 &= \dfrac{\sqrt{3}I}{m} \\ \dot{x}_3 &= \dfrac{\sqrt{3}I}{m} \\ \dot{y}_1 &= 0 \\ \dot{y}_2 &= \dfrac{I}{m} \\ \dot{y}_3 &= -\dfrac{I}{m} \tag{##} 運動エネルギー保存の法則 ============================= さて、答えを言うと、$I$ を決めるのに足りない条件は、 衝突直前、直後においての運動エネルギーの保存則から得られます。 \dfrac{m}{2}\left( \dot{x}_1^2 + \dot{y}_1^2 \right) +\dfrac{m}{4}\left( \dot{x}_2^2 + \dot{y}_2^2 \right) +\dfrac{m}{4}\left( \dot{x}_3^2 + \dot{y}_3^2 \right) = \dfrac{m}{2}v^2 \tag{##} 式 $(4)$ に式 $(1)$ と $(2)$ を代入すると、 $I$ の二次式となります。 &\dfrac{m}{2}\left( v- \dfrac{\sqrt{3}I}{m} \right)^2 +\dfrac{2m}{4} \left( \left( \dfrac{\sqrt{3}I}{m} \right)^2+\left( \dfrac{I}{m} \right)^2 \right) = \dfrac{m}{2}v^2 \\ \\ &\dfrac{m}{2} \left( v^2 - \dfrac{2\sqrt{3}vI}{m} +\dfrac{3I^2}{m^2} \right) +\dfrac{m}{2} \left( \dfrac{4I^2}{m^2} \right) = 0 \\ \\ &\dfrac{1}{2m} \left( - 2\sqrt{3}mvI + 7I^2 \right) = 0 \\ \\ &I \left( 7I - 2\sqrt{3}mv \right) = 0 \tag{##} ここで $I=0$ では素通りですので、 I=\dfrac{2\sqrt{3}}{7}mv \tag{##} と決定されました。すると、式 $(3)$ より、運動の全てが決定します。 反発係数が1にならない ============================= ここで興味があるのは、x軸方向の相対速度変化(反発係数)です。 e &= - \dfrac{\dot{x}_2-\dot{x}_1}{0-v} \\ &= - \dfrac{\dfrac{\sqrt{3}I}{m}-(v-\dfrac{\sqrt{3}I}{m})}{0-v} \\ &= \dfrac{\dfrac{2\sqrt{3}I}{m}-v}{v} \\ &= \dfrac{\dfrac{2\sqrt{3}I}{m}-v}{v} \\ &= \dfrac{(2\sqrt{3})^2}{7} -1 \\ &= \dfrac{12-7}{7} \\ &= \dfrac{5}{7} \tag{##} 見事、反発係数は $1$ ではなくなりました。 私が思うに、今回はx方向の運動がy方向の運動自由度に逃げたのですが、 他の非弾性衝突も、このように何らかの他のエネルギー自由度に 散らばってしまうため、起こるのだと思います。 減衰付きばねは、得られたy方向の運動をやがて熱に変えます。 このばねは球2,3が飛び去ってしまうのを防ぐ為ですが、本質ではありません。 今日はここまで、お疲れ様でした。 @@author:クロメル@@ @@accept:2020-03-14@@ @@category:力学@@ @@id:inelasticCollision@@