========================================== 等方テンソル ========================================== テンソルの成分は、座標系の取り方に応じて一般に値が変わるものでした。しかし、どの向きに座標系を直交変換しても成分の値が変わらないようなテンソルを *等方テンソル* と呼びます。 等方テンソルに対する直観的イメージとしては、二階のテンソルがベクトルを座標変換する際の働き方を思い出すと良いでしょう。ベクトルは、二階のテンソルの表現行列の固有ベクトルの方向に、固有値倍だけ伸縮されるのでした。このとき、ベクトルの気持ちになってみれば、視点が固有ベクトルと平行ならば真っ直ぐに伸縮されるし、固有ベクトルと斜めな視点から見れば斜めに伸縮を受けるように感じます。これが一般のテンソルです。ところが、等方テンソルの場合は、 *どの方向から見ても働き方が同じだ* というのですね。そんなテンソルあるのでしょうか? 零階のテンソルであるスカラーは、どの座標系から見ても値が変わりませんから、零階の等方テンソルだと言うことができます。一階のテンソルであるベクトルに等方的なものはありません。ベクトルの成分は、必ず座標系によって変わります。二階のテンソルで等方テンソルの例は、クロネッカーのデルタ $\delta_{ij}$ です。二階のテンソルにこれ以外の等方テンソルはありません。三階のテンソルにも一つだけ等方テンソルがあって、 レヴィチヴィタの記号_ と呼ばれる $\varepsilon_{ijk}$ です。 等方テンソルの数は、テンソルの階数を $n$ として、次の漸化式に従うことが知られています。 $a_{0}=1, \ a_{1}=0$ とします。これは $Motzkin$ 和、もしくは $Riordan$ 数と呼ばれる数列になります。 a_{n} = \frac{n-1}{n+1}(2a_{n-1}+3a_{n-2}) 一様流体中の圧力は向きを区別しませんので、例えば流体力学の計算などに等方テンソルを使う例が出て来ると思います。見かけたら、少しドキッとしてみて下さい。 .. _レヴィチヴィタの記号: http://www12.plala.or.jp/ksp/vectoranalysis/LeviCivita/ @@author:Joh@@ @@accept: 2006-08-25@@ @@category: ベクトル解析@@ @@id: IsotropicTensor@@