============================================================ 電位差を生じたレール上を動く金属棒と特殊相対論 ============================================================ .. image :: chromel-railAndRod-01-t.png 上の図のようなレールと金属棒からなる系を考えます。 電池の電圧を $V$ 、回路を流れる電流を $I$ 、 レールの間隔を $L$ 、そのレールの間に掛かる上向きの磁束密度 $\bm{B}$ 、 棒の質量を $m$ 、抵抗を $R$ 、左向きの速度を $v$ とします。 この系がどんな振る舞いをするか、いろいろな立場で考えます。 特殊相対論以前の考え方 ========================== これからしたいことは、棒の運動速度 $v$ を時間 $t$ で表すことです。 すると、回路の方程式は $B \equiv |\bm{B}|$ として、 V - BLv= R I \tag{##} です。この式は(起電力)=(抵抗損失)となっています。 右辺はいいですね?抵抗損失は(抵抗)×(電流)なので、 $RI$ です。 起電力の方は、 $V$ だけでなく、金属棒が磁束密度中を動くことによって、 生じる起電力 $BLv$ が加わっています。符号のチェックは、 棒が速く動く( $v$ が大きくなる)と、起電力がゼロに近づいていく ので、これでOKです。 また、棒の運動方程式は、重力加速度 $g$ 、動摩擦係数を $\mu$ として、 m \dot{v}= BLI - \mu mg \tag{##} です。磁束密度 $B$ 中を電流 $I$ が流れると、長さ $L$ それぞれに 比例した力が生じるというものです。今回の場合、力は右に働きます。 それは、ローレンツ力 $\bm{F}=q(\bm{v} \times \bm{B})$ の関係から、 確認できます。 さて、式 $(1)$ と式 $(2)$ を見てみると、 時間依存する未知量は棒の速度 $v$ と電流 $I$ だと分かります。 解くには $I$ を消去するのが簡単そうです。やってみましょう。 式 $(2)$ より、 I = \dfrac{m (\dot{v}+ \mu g)}{BL} \tag{##} となります。 これを式 $(1)$ に代入して、 \dfrac{m R}{BL}\dot{v}= V - B L v - \dfrac{R \mu m g}{BL} \tag{##} ここで、 $V-\dfrac{R \mu mg}{BL} \geq 0$ と仮定します [*]_ 。 $\dot{v}=0$ の時、 つまり棒は終端速度 $v=\dfrac{V}{BL} \left(1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)$ を持つことがわかります。 いつまでたっても、 $v \leq \dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)$ であることを注意しておきます。 .. [*] この仮定が成り立たない時は、棒を駆動する電力が摩擦力を下回る時ですので、自明な解 $v=0 , I=\dfrac{V}{R}$ となりま す。ちなみにこの時、式 $(2)$ は摩擦力を $M$ として、 $m \dot{v}= BLI - M =0$ となります。 さて、これは変数分離形ですね。( $v$ の関数)=( $t$ の関数)の形にします。 \dfrac{1}{BL}\dfrac{\dfrac{dv}{dt}}{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)-v}=\dfrac{BL}{mR} \tag{##} 初期条件として $t=0$ で、棒は静止している、つまり、 $v=0$ とします。 不定積分として一時的に積分定数を持ち出すこともできますが、 ここは、定積分で求めることにします。 \int_0^v \dfrac{1}{BL}\dfrac{dv}{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)-v}= \int_0^t \dfrac{BL}{mR}dt \tag{##} と、このように実行すると、 \log \left| \dfrac{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)-v}{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right) } \right| = - \dfrac{B^2L^2}{mR}t \tag{##} ここで、対数関数の引数の絶対値を外すのに少し考えなければなりません。 先ほど、 $v \leq \dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right) $ を満たすことを注意しました。 どうやら、 \log \left( \dfrac{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right) - v}{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)} \right) = - \dfrac{B^2L^2}{mR}t \tag{##} ということでよいようです。 さて、この両辺を指数関数の肩に乗せましょう。 すると、 \dfrac{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)-v}{\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)}=e^{-\dfrac{B^2L^2}{mR}t} \tag{##} となります。これを $v$ について解いてやれば、 v = \dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right) \left( 1 - e^{-\dfrac{B^2L^2}{mR}t} \right) \tag{##} .. image :: chromel-railAndRod-02-t.png 確認のため、いろいろチェックしてみます。 まず、 $t=0$ の時に $v=0$ 、いいですね。 そして、十分時間がたつと、終端速度 $\dfrac{V}{BL} \left( 1-\dfrac{R \mu mg}{VBL} \right)$ にいくのも予想した通りです。 また、一番最初の棒が運動していない時、 $I_0 \equiv I(t=0) = \dfrac{V}{R}$ と置くと、 m \dot{v} = \left( \dfrac{BLV}{R} - \mu mg \right)e^{-\dfrac{B^2L^2}{mR}t} \tag{##} より、 m \dot{v}(t=0) = BLI_0 - \mu mg \tag{##} となり、式 $(2)$ と比較すれば、正しい結果であることが分かります。 一応、 $I$ も確認しておくと、 I &= \dfrac{m \dot{v} + \mu mg}{BL} \\ &= \left( \dfrac{V}{R} - \dfrac{\mu mg}{BL} \right) e^{-\dfrac{B^2L^2}{mR}t} + \dfrac{\mu mg}{BL} \tag{##} .. image :: chromel-railAndRod-03-t.png と、このようになりました。 特殊相対論の見方(1) ======================= ここで、見方を変えてみましょう。 慣性系を二つ考えます。一つは今まで考えてきた系( $x$ 系)です。 もう一つは、棒の終端速度 $\bm{v}$ に一致する $z$ 方向への等速直線運動をする系( $x^\prime $ 系)です。 電磁場は二階のテンソルであり、反変テンソルとして表すと、 f^{ik} = \begin{pmatrix} 0 & \dfrac{E_x}{c}& \dfrac{E_y}{c}& \dfrac{E_z}{c} \\ \dfrac{- E_x}{c} & 0 & B_z & -B_y \\ \dfrac{- E_y}{c} & -B_z & 0 & B_x \\ \dfrac{- E_z}{c} & B_y & -B_x & 0 \end{pmatrix} \tag{##} ここで、座標変換を行うと、 f^{\prime mn}(x^\prime) = \dfrac{\partial x^{\prime m}}{\partial x^{i}}\dfrac{\partial x^{\prime n}}{\partial x^{k}}f^{ik}(x) \tag{##} となります。 ここで、 $\dfrac{\partial x^{\prime m}}{\partial x^{i}} $ 等はローレンツ変換に関する変換係数であり、 今の式を行列で書くと、 $\beta \equiv \dfrac{v}{c}$ 、 $\theta = \dfrac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}$ 、 $ \eta = \dfrac{\beta}{\sqrt{1-\beta^2}}$ とすれば、 \dfrac{\partial x^{\prime m}}{\partial x^{i}} = A_{mi} = \begin{pmatrix} A_{00} & A_{01} &A_{02} & A_{03} \\ A_{10} & A_{11} &A_{12} & A_{13} \\ A_{20} & A_{21} &A_{22} & A_{23} \\ A_{30} & A_{31} &A_{32} & A_{33} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \theta & - \eta & 0 & 0 \\ - \eta & \theta & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \tag{##} などとなります。 よって、式 $ (15) $ は、行列の積で書くと、 f^{\prime mn}(x^\prime) &= \begin{pmatrix} 0 & \dfrac{E_x^\prime}{c}& \dfrac{E_y^\prime}{c}& \dfrac{E_z^\prime}{c} \\ \dfrac{- E_x^\prime}{c} & & B_z^\prime & -B_y^\prime \\ \dfrac{- E_y^\prime}{c} & -B_z^\prime & 0 & B_x^\prime \\ \dfrac{- E_z^\prime}{c} & B_y^\prime & -B_x^\prime & 0 \end{pmatrix} \\ &= \dfrac{\partial x^{\prime m}}{\partial x^{i}} f^{ik} \dfrac{\partial x^{\prime n}}{\partial x^{k}} \\ &=\begin{pmatrix} A_{00} & A_{01} &A_{02} & A_{03} \\ A_{10} & A_{11} &A_{12} & A_{13} \\ A_{20} & A_{21} &A_{22} & A_{23} \\ A_{30} & A_{31} &A_{32} & A_{33} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} f_{00} & f_{01} &f_{02} & f_{03} \\ f_{10} & f_{11} &f_{12} & f_{13} \\ f_{20} & f_{21} &f_{22} & f_{23} \\ f_{30} & f_{31} &f_{32} & f_{33} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} A_{00} & A_{10} &A_{20} & A_{30} \\ A_{01} & A_{11} &A_{21} & A_{31} \\ A_{02} & A_{12} &A_{22} & A_{32} \\ A_{03} & A_{13} &A_{23} & A_{33} \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} \theta & - \eta & 0 & 0 \\ - \eta & \theta & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & \dfrac{E_x}{c}& \dfrac{E_y}{c}& \dfrac{E_z}{c} \\ \dfrac{- E_x}{c} & 0 & B_z & -B_y \\ \dfrac{- E_y}{c} & -B_z & 0 & B_x \\ \dfrac{- E_z}{c} & B_y & -B_x & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \theta & - \eta & 0 & 0 \\ - \eta & \theta & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} (\theta \eta - \theta \eta) \dfrac{E_x}{c} & (\theta^2 - \eta^2) \dfrac{E_x}{c} & \theta \dfrac{E_y}{c} -\eta B_z & \theta \dfrac{E_z}{c} + \eta B_y \\ (-\theta^2 + \eta^2) \dfrac{E_x}{c} & (\theta \eta - \theta \eta) \dfrac{E_x}{c} & - \eta \dfrac{E_y}{c} + \theta B_z & - \eta \dfrac{E_z}{c} - \theta B_y \\ - \theta \dfrac{E_y}{c} + \eta B_z & \eta \dfrac{E_y}{c} - \theta B_z & 0 & B_x \\ - \theta \dfrac{E_z}{c} - \eta B_y & \eta \dfrac{E_z}{c} + \theta B_y & -B_x & 0 \end{pmatrix} \\&= \begin{pmatrix} 0 & \dfrac{E_x}{c} & \theta \dfrac{E_y}{c} -\eta B_z & \theta \dfrac{E_z}{c} + \eta B_y \\ \dfrac{-E_x}{c} & 0 & - \eta \dfrac{E_y}{c} + \theta B_z & - \eta \dfrac{E_z}{c} - \theta B_y \\ - \theta \dfrac{E_y}{c} + \eta B_z & \eta \dfrac{E_y}{c} - \theta B_z & 0 & B_x \\ - \theta \dfrac{E_z}{c} - \eta B_y & \eta \dfrac{E_z}{c} + \theta B_y & -B_x & 0 \end{pmatrix} \tag{##} となり、つまり、 $c^2=\dfrac{1}{\varepsilon_0 \mu_0}$ 、 $\bm{D}=\varepsilon_0 \bm{E}$ 、 $\bm{H}=\dfrac{ \bm{B}}{\mu_0}$ に注意して成分ごとに書き出すと、 E_x^\prime &= E_x \\ E_y^\prime &= \dfrac{E_y - v B_z}{\sqrt{1-\beta^2}} \\ E_z^\prime &= \dfrac{E_z + v B_y}{\sqrt{1-\beta^2}} \\ H_x^\prime &= H_x \\ H_y^\prime &= \dfrac{H_y + v D_z}{\sqrt{1-\beta^2}} \\ H_z^\prime &= \dfrac{H_z - v D_y}{\sqrt{1-\beta^2}} となります。 この式の非相対論的極限は、 $x$ 系の電場 $\bm{E}$ 、磁束密度 $\bm{B}$ 、磁場 $\bm{H}$ 、電束密度 $\bm{D}$ とし、 $x^\prime$ 系の 電場 $\bm{E}^\prime$ 、磁束密度 $\bm{B}^\prime$ 、磁場 $\bm{H}^\prime$ 、電束密度 $\bm{D}^\prime$ とすると、 \bm{E}^\prime = \bm{E} + \bm{v} \times \bm{B} \tag{##} \bm{H}^\prime = \bm{H} - \bm{v} \times \bm{D} \tag{##} となります。式 $(17)$ より一番最初の配置では、磁束密度 $\bm{B}$ は、電場 $\bm{E}^\prime$ を打ち消す方向に働きます。 また、式 $(18)$ より、電位差の付いたレールが作り出す電束密度 $\bm{D}$ も、 磁場 $\bm{H}^\prime$ を打ち消す方向に働くようです。 ここで重要なことはなんでしょうか?それは、 $x^\prime$ 系において、 ふるまいを調べるものは電子なので電場が打ち消される方が重要な変化です。 つまり、起電力 $V-BLv=L(E-Bv)=RI$ が終端値 $RI_{end}=R\dfrac{\mu mg}{BL}$ をとる時、 金属棒は電流が手前から奥に少し流れているということで、右向きに $BLI_{end}$ の力を受けるはずです。 それが、摩擦力 $\mu mg $ とつりあっているのです。確かに、 $ BLI_{end} = BL \dfrac{\mu mg}{BL} = \mu mg $ ですね。 このとき、 $\bm{H}^\prime$ が減るということは、あまり問題にならないと思います。 この時、左方向への力は $\mu mg$ で一定、右方向への力は $BLI$ の $B$ が少し減って、 $I$ が少し増えるのです。 さて、何が変わったのか。図にしてみました。 .. image :: chromel-railAndRod-04-t.png 黒矢印は力、白抜き矢印は速度、赤矢印は電位差を表しています。 注目すべきは、 $x^\prime$ 系には速度 $\bm{v}$ に依存する電位差 $BLv$ がありません。 棒も静止しており、レールとの摩擦力が起源の弱い電位差 $RI$ のみがあります。 レールが左へ動いているため、摩擦力が出てきます。 なかなか面白いですね。 特殊相対論の見方(2) ======================== 次に金属棒中の電子が流れている速度 $v_e$ で動いている慣性系、 $x^{\prime \prime}$ 系で考えてみましょう。 少し定性的な話になります。 バルクの金属はプラスに荷電したイオンが格子を成していて、そこに自由電子のガスが散らばっている構造をしています。 電子が静止する座標で考えると、イオン格子は速度を持ちます。 すると、ごく少しローレンツ収縮が起きるのです。 つまり、電子の間隔はそのままイオン格子が収縮すると、 棒はプラスに電荷を帯びます。それが棒の手前から奥に向けて移動する、つまり、電流が流れるのです。 この場合、収縮はわずかですが、イオンが密集しているので、巨視的な電流になります。 この描像では、式 $(17)$ 、式 $(18)$ の助けは借りません。 変化がごくわずかだからです。 注目すべきは、電流が電子の移動だった $ x $ 系に比べ、 今度は、電流がイオンの格子の運動に置き換えられた点です。 ふぅ、久々に長文を書いた気がします。 それでは皆様、お疲れ様でした。今日はこの辺で。 @@reference: 川村清,「岩波基礎物理シリーズ3」電磁気学, 岩波書店, 1994, p175-p186, 4000079239@@ @@reference: 佐藤勝彦,「岩波基礎物理シリーズ9」相対性理論, 岩波書店, 1996, p39, 4000079298@@ @@author:クロメル@@ @@accept:2012-06-10@@ @@category:電磁気学@@ @@id:railAndRod@@