================================ 中心化群 ================================ 中心化群の定義には、ここまでに勉強してきた、共役、共役類、軌道、中心、固定部分群といった概念が全て必要になります。何となく曖昧な部分がある人は、先に復習しておきましょう。 中心化群の定義 ----------------------------------------------- 群 $G$ のある元 $a$ を考えます。 $a$ に対し、 $ga=ag$ を満たす $G$ の元を全て集めた集合は群になり、これを $a$ の中心化群 $C_{a}$ と呼びます。 C_{a}=\{ g|ga=ag, \ g\in G \} 『中心化群とは、群のある元に対し、 *群自身への共役作用を考えるときの固定部分群である* 』と言い換えることもできるでしょう。( 共役類_ 、 群が集合の上で働くということ_ 、 固定部分群_ を参照して下さい。) 中心化群に関しては、次の定理が重要です。 .. admonition :: theorem 群 $G$ の元 $a$ に対し、 $C_{a}$ を $a$ の中心化群、 $C(a)$ を $a$ の共役類(軌道)とすると、位数に関して $|G|=|C_{a}||C(a)|$ がなりたちます。 群の位数 $|G|$ は定数ですから、 $a$ の中心化群が大きければ、 $a$ の共役類は小さくなり、逆に $a$ の中心化群が小さいと、 $a$ の共役類が大きくなるということです。中心化群は固定部分群の特殊な場合ですから、 固定部分群_ に出てきた式 $|G|=|G(x_{0})|\cdot |G_{x_{0}}|$ などと比較して、もう一度頭を整理しましょう。 部分集合の中心化群 ----------------------------------------------- 上の定義では、ある一つの元 $a$ に対し、 $a$ に共役な元を全て集めたものを「元 $a$ の中心化群」としました。同様に、この定義を拡張し、群 $G$ のある部分集合 $H$ に対し、 $H$ に属する全ての元と共役な $G$ の元を全て集めた集合を「部分集合 $H$ の中心化群」と定義できます。 例1 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ 三次の対称群 $S_{3}=\{ e , (1 \ 2), (2 \ 3), (1 \ 3), (1 \ 2 \ 3), (1 \ 3 \ 2) \}$ で、例えば $(1 \ 2)$ の中心化群を求めてみましょう。 求めたいのは、 $(1 \ 2)= p(1 \ 2)p^{-1}$ を満たす全ての $p$ です。順番に全部試してみても、計算はすぐに済みますが、結果としては、 $e, (1 \ 2)$ の二つが求まります。よって、 $S_{3}$ の $(1 \ 2)$ に関する中心化群は $\{e, (1 \ 2) \}$ と決まります。確かに $\{e, (1 \ 2) \}$ だけで群になっていますね。 例2 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ 点 $O$ を中心とする回転全てからなる群を考えます。このとき、 $x$ 軸を中心としたある回転 $p$ (静止と $180$ 度回転を除く)に関する中心化群はどのような回転の集まりになるでしょうか。 一般に、異なる軸に関する回転操作は非可換でしたので、 $gp=pg$ を満たすような元 $g$ もやはり $x$ 軸回りの回転であると考えられます。逆に、 $g$ が $x$ 軸回りの回転を表わす元ならば、 $gp=pg$ を満たします。 $p$ の中心化群は、 $x$ 軸回りの回転全て(静止と $180$ 度回転も含む)からなるものです。 発展: -------------------------------------------------- すぐに重要な訳ではありませんが、 群の中心_ の記事で軽く紹介した $p$ 群には、興味深い定理がなりたつので、証明とともに紹介しておきます。証明の途中で中心化群を利用します。 .. admonition :: theorem 位数が素数の平方である有限群は、可換群になります。 .. admonition :: proof 中心 $C$ は群 $G$ の部分群ですから、中心の位数は、群の位数 $p^2$ の約数になっているはずです。 群の中心_ の「群の位数と中心」のセクションで紹介した定理により、中心 $C$ には二つ以上の元がありますから、中心の位数として可能なのは $p$ か $p^{2}$ だけです。 $p^{2}$ のときは、中心は群 $G$ そのものということであり、これは群の全ての元が演算に関して交換可能、すなわち可換群であるという主張です。一方、中心の位数が $p$ のときは、 $C$ に含まれない $G$ の元を一つ(仮に $a$ とします)取ると、 $a$ の中心化群は $C$ を含み、かつ $a$ の累乗をも含みますので、この中心化群の位数はは中心の位数 $p$ よりも大きくなるはずです。すると中心化群の位数は $p^{2}$ ということになりますが、この場合、中心化群が群 $G$ そのものとなり、 $a$ が中心 $C$ に含まれてしまうことになりますので、これは矛盾です。よって中心の位数が $p$ ということはありえず、p群の中心は常に群そのものと一致し、可換群になりことが分かりました。■ .. _固定部分群: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/IsometricGroup/ .. _共役類: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/ConjugateClass/ .. _群が集合の上で働くということ: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/GroupAction/ .. _群の中心: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/GroupCentre/ @@author:Joh@@ @@accept: 2006-04-23@@ @@category: 代数学@@ @@id: CenteredGroup@@