========================================= 整数の剰余類のつくる加群 ========================================= 整数全体の加群 $Z$ を、自然数 $n$ を法として類別した剰余類を考えます。このとき、異なる剰余類に属する二つの整数 $a,b$ について、次の演算が成り立ちます。 a \equiv a' \ , \ b \equiv b' \ ({\rm mod}.n) \ \Longrightarrow \ a+b \equiv a'+b' \ ({\rm mod}.n) .. admonition:: proof 左辺より、ある整数を使って $k,k'$ を使って、 $a-a' = kn, b-b'=k'n$ と表わせるはずです。このとき $(a+b)-(a'+b')=(a-a')+(b-b')=(k+k')n \equiv 0 \ ({\rm mod}.n)$ が示せます。∴ $a+b \equiv a'+b' \ ({\rm mod}.n)$ ■ ある剰余類の元に他の剰余類の元を足したものが、やはりどこかの剰余類に属する元になることが分かりましたので、どうやら整数の加群の剰余類は、剰余類同士の演算について閉じているようです。 このように、剰余類と剰余類を足すという加法演算を、『剰余類の集合』に導入しましょう。 この加法演算には単位元があります( $0$ を含む剰余、すなわち余りが零の剰余類です)。また、逆元もあります( $a$ を含む剰余類に $-a$ を含む剰余類を足すと、余りが零の剰余類になってしまいます)。 よって、この剰余類の集合は、加法に関して群になっていることが分かりました。これを *nに関する剰余類群* と呼び、 $Z_{n}$ で表わします。 .. [*] 一つ一つの剰余類は集合ですが、一般に剰余類自身は群にはなりません。ところが、このように剰余類の集合(つまり、集合の集合!)を考えると、うまく群になったりするんですね。集合の集合、集合の集合の集合、のようなものをいくらでも考えられるのが、抽象数学の素晴らしさです。 有限巡回群との同型 -------------------------------------------------------- 剰余類の辺りから少し話が抽象的になりましたから、剰余類群という、とても抽象的な群を求めたように感じるかも知れないのですが、実は、 $n$ に関する剰余類群 $Z_{n}$ は、 $n$ 次の有限回転群と同型(つまり有限巡回群と同型)で、もう読者のみなさんが知っている群なのです。面白いことです! 整数と聞いて、数直線状にまっすぐ数が並んでいるイメージしか持っていないと、ピンとこないかもしれません。しかし、次の図を見れば、剰余類の加法が、有限回転変換に対応させられることが納得いくと思います。 .. image:: Joh-Remainder1.gif :align: center あるいは、一直線の数直線を、周の長さが $5$ の円筒にグルグル巻き付ければ、この図のようになると考えても良いでしょう。 .. [*] n次の有限巡回群を一般に $Z_{n}$ と書くと、 有限巡回群_ のページで触れましたが、このような事情があったのですね。 $Z$ は整数(ドイツ語で $Zahl$ )の意味です。 .. [*] 整数は無限にあるわけですが、整数全体を $5$ で割ったときの剰余は、 $0,1,2,3,4$ の $5$ 種類しかありません。しかもその剰余はグルグル循環します。そう考えると、有限巡回群と同型だというのも至極当然だと分かります。 .. _有限巡回群: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/FiniteCyclicGroup/ @@author:Joh@@ @@accept: 2006-04-23@@ @@category: 代数学@@ @@id: ZRemainderAdd@@