========================================= 整数の加法群の剰余類 ========================================= 整数全体は、加法に関して群をつくるということでした( 群の公理_ の例6を参照)。これを整数の加法群と呼びます。このページでは、ある整数で割ったときの余りに応じて、整数全体をグループ分けすること(類別です)を勉強します。 類別の概念自体は、 類別_ で勉強しましたが、この記事では同値関係と併せて、さらに理解を深めることを目標とします。 合同式 --------------------------------------------------- 整数論を習っていない人のために、ここで少し合同式の復習をしておきます。 ある整数 $p$ を、整数 $m(>1)$ で割ると、ただ一通りに次のように表現することができます。 $k$ も整数です。 p=km+q ここで、 $k$ を *整商* 、 $q$ を *剰余* と呼びます。剰余とは、要するに余りです。 $m$ で割ったとき、幾つ余るかという点だけに着目すると $p$ と $q$ は同じですから、これを次のように書き、『法 $m$ について合同である』と言います。『 $m$ で割ったときの余りが等しいよ』という意味です。これを合同式と言います。 ${\rm mod}.$ とあるのが、何の数で割ったかを示す記号です。 p \equiv q \ \ ({\rm mod}.m) .. [*] ここに出てくる記号 ${\rm mod}$ は $modulo$ の略です。そのままモドと読む人もいますが、正しくはモジュロです。例えば ${\rm mod}.3$ を『 $3$ を法として』と読んでもいいし『モジュロ3』と読んでも良いです。ラテン語で基準、単位などを意味する $modulus$ から派生した前置詞が $modulo$ です。 同値関係 --------------------------------------------------------- さて、群の類別のページで同値関係という概念を勉強しましたが、二つの整数 $p,q$ は、実は合同式によって同値関係で結ばれると言えるのです。同値関係は、集合の二つの元 $a,b$ について、次の三つの関係が成り立つような関係と定義されます。 1. $a \sim a$ 2. $a \sim b \ \Longrightarrow \ b \sim a$ 3. $a \sim b, b \sim c \ \Longrightarrow \ a \sim c$ 最初の条件は、同値関係 $\sim$ がなりたつとき、どんな元も自分自身とは同値だという主張( *反射律* )、二番目の条件は、同値関係はどちらの視点から見ても成り立つという主張( *対称律* )です。三番目の条件は、 *推移律* と呼ばれます。 剰余類 -------------------------------------------------------- さて、二つの整数の間になりたつ合同関係は、同値関係の3つの条件を満たします。 1. $p \equiv p \ ({\rm mod}.m)$ 2. $p \equiv q \ ({\rm mod}.m) \ \Longrightarrow \ q \equiv p \ ({\rm mod}.m)$ 3. $p \equiv q, \ q \equiv r \ ({\rm mod}.m) \ \Longrightarrow \ p \equiv r \ ({\rm mod}.m)$ そこで、整数全体は、合同関係を使って類別できるといえます。一般に、集合は、元に同値関係がなりたつとき、類別できるのでした( 類別_ を参照)。例えば、 $5$ を法とした合同関係を考えましょう。すると、どのような整数も、 $5$ で割ったときの余りは $0,1,2,3,4$ のどれかであるはずですので、整数全体を5つに類別できることになります。 余りが $0$ の類: $\{-10,-5,0,5,10,15,20,25,...\}$ 余りが $1$ の類: $\{-9,-4,1,6,11,16,21,26,...\}$ 余りが $2$ の類: $\{-8,-3,2,7,12,17,22,27,...\}$ 余りが $3$ の類: $\{-7,-2,3,8,13,18,23,28,...\}$ 余りが $4$ の類: $\{-6,-1,4,9,14,19,24,29,...\}$ 各類には、他の類と重複するような元がないことを確認してください。( 剰余類_ につづく。) .. [*] 余力のある人は 剰余類_ に進む前に、余りが $0$ の類だけは部分群になっていることを確認してみて下さい。 .. _群の公理: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/GroupAxiom/ .. _類別: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/Klassierung/ .. _剰余類: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/Remainder/ @@author:Joh@@ @@accept: 2006-04-23@@ @@category: 代数学@@ @@id: ZAdditionRemainder@@