============================================================ 強磁性体と強誘電体 ============================================================ この話では、永久磁石(強磁性体)とその電気分極版、強誘電体についての物理を半定性的に論じます。 マクスウェル方程式 ========================= 電場を $\bm{E}$ 、電束密度を $\bm{D}$ 、磁場を $\bm{H}$ 、磁束密度を $\bm{B}$ とします。 すると、マクスウェル方程式は、 \mathrm{div} \bm{D} &= \rho_{free} \tag{##} \\ \mathrm{rot} \bm{E} &= -\dfrac{\partial \bm{B}}{\partial t} \tag{##} \\ \mathrm{div} \bm{B} &= 0 \tag{##} \\ \mathrm{rot} \bm{H} &= \bm{j}_{free} + \dfrac{\partial \bm{D}}{\partial t} \tag{##} となります。ここで電荷密度 $\rho$ と電流密度 $\bm{j}$ に添え字 $free$ が付いていますが、 これは重要です。これは自由な電荷による量の事を指します。 これを理解するには、自由でないものを挙げればよいでしょう。 自由でない電荷は「取り出せない電荷」などとも呼ばれ、 要は「電気分極」と「磁化」の事を指します。 電磁気学において力の強さに関わってくるのは、 電荷 $q$ に関しては電場 $\bm{E}$ ( $\bm{F}=q\bm{E}$ )、 電流 $I$ に関しては磁束密度 $\bm{B}$ (電流の方向を向く微小ベクトル $ d \bm{\ell} $ として、 $d\bm{F} = I (d \bm{\ell} \times \bm{B}) $ )となります。 この $\bm{E}$ と $\bm{B}$ が力学にとって重要であると言う主張は、 「E-B対応」と呼ばれるようです。この考え方では、 電荷と電流を電磁気学の基本構成要素として考えます。 対になる言葉として、「E-H対応」という言葉があります。 こちらでは電荷に対応した磁気的量として磁荷 $q_M$ を考えます。 (磁化と磁荷は別の概念です。混同されませんように) 電荷に対しては $\bm{F} = q \bm{E}$ は同じですが、 磁荷に関して、 $\bm{F} = q_M \bm{H}$ を力の原因に求めます。 よって、ここでは $\bm{E}$ と $\bm{H}$ が重要であるとして、 「E-H対応」というようです。しかし、こちらは磁荷が存在しないという 主張である式(3)によって、あまり使われません。 分極と磁化 ========================== 電気分極と磁化について、一般にそれぞれベクトル $\bm{P}$ と $\bm{M}$ を用いて表します。 電気分極は分極電荷のマイナスからプラスへ向かうベクトル、 磁化はS極からN極へ向かうベクトル量です。 電場や磁場との関係は次のようになります。 \bm{D}=\varepsilon_0 \bm{E} + \bm{P} \tag{##} \\ \dfrac{\bm{B}}{\mu_0} = \bm{H} + \bm{M} \tag{##} 真空中では、 $\bm{D}$ と $\bm{E}$ 、 $\bm{B}$ と $\bm{H}$ は比例し、同じ方向を向きます。 まず、電場について考えます。 式(1)に式(5)を電束密度 $\bm{D}$ を消去するように代入すると、 &\varepsilon_0 \mathrm{div} \bm{E} + \mathrm{div} \bm{P} = \rho_{free} \\ &\mathrm{div} \bm{E} = \dfrac{1}{\varepsilon_0}(\rho_{free} - \mathrm{div} \bm{P}) \\ &\mathrm{div} \bm{E} = \dfrac{1}{\varepsilon_0}(\rho_{free} + \rho_{pola} ) \tag{##} となります。ここで、分極(polarization)による電荷密度 $\rho_{pola}= - \mathrm{div} \bm{P}$ です。 この様に電場 $\bm{E}$ に対するダイバージェンスは、取り出せない電荷も含みます。 同様に磁束密度も考えます。 式(4)で定常状態を考えます。すると、 $\dfrac{\partial \bm{D}}{\partial t}=0$ となり、 さらに式(6)で $\bm{H}$ を消去すると、 &\mathrm{rot} \bm{H} = \bm{j}_{free} + \dfrac{\partial \bm{D}}{\partial t} \\ &\mathrm{rot} \bm{H} = \bm{j}_{free} \\ &\mathrm{rot} \dfrac{\bm{B}}{\mu_0} - \mathrm{rot} \bm{M} = \bm{j}_{free} \\ &\mathrm{rot} \bm{B} = \mu_0( \bm{j}_{free} + \mathrm{rot} \bm{M}) \\ &\mathrm{rot} \bm{B} = \mu_0( \bm{j}_{free} + \bm{j}_{mag}) \tag{##} ここで磁化(magnetization)による電流密度 $\bm{j}_{mag} = \mathrm{rot} \bm{M}$ です。 この様に磁束密度 $\bm{B}$ に対するローテーションは取り出せない電荷による電流も含みます。 永久磁石 =========================== ここで磁場の掛かっていない永久磁石について説明します。 永久磁石とは外場が無くても磁化を持ち周囲に磁場と磁束密度を生じさせている 物質の事を言います。今、外磁場が無いのですから、 自由な電流密度 $\bm{j}_{free}$ はゼロです。 また、時間変化のない定常状態を考えますので、式(4)の時間微分項もゼロです。 よって、今関係する式は式(3)と式(4)を変更した次の二式になります。 そして、式(6)を再掲します。 下二つは補助的に $\bm{M}$ の与える寄与を表現しています。 &\mathrm{div} \bm{B} = 0 \tag{##} \\ &\mathrm{rot} \bm{H} = \bm{0} \tag{##} \\ &\dfrac{\bm{B}}{\mu_0} = \bm{H} + \bm{M} \tag{##} \\ &\mathrm{div} \bm{H} = -\mathrm{div} \bm{M} \tag{##} \\ &\mathrm{rot} \dfrac{\bm{B}}{\mu_0} = \mathrm{rot} \bm{M} \tag{##} 式(9)は $\bm{B}$ の発散がゼロということです。 これから、存在する $\bm{B}$ は全てループ状に発生していることになります。 図にすると下の様になります。(図が汚くてすみません(^^;)) .. image :: chromel-ferroMagFerroEle-01.png 式(10)は $\bm{H}$ の回転がゼロということです。 これから、存在する $\bm{H}$ は全て分極磁化を源としており、 ループ状の磁場は存在しないことになります。 図にすると下の様になります。 .. image :: chromel-ferroMagFerroEle-02.png また、 $\bm{M}$ はS極から湧き出して、N極に入ります。 つまり、両端では $\mathrm{div} \bm{M} \neq 0$ となっています。 また、磁石内では $\bm{M}$ が真上に向かっているので、 そこを含むループを作ると有限の寄与があり、 $\mathrm{rot} \bm{M} \neq \bm{0}$ となります。 図にすると下の様になります。この外部でゼロ、内部で一様な磁化 $\bm{M}$ を作る電流密度 $\bm{j}_{mag}$ は、 磁石表面を上から見て反時計回りに分布します。 .. image :: chromel-ferroMagFerroEle-03.png ここで強調しておきたいことは、 磁石の外部においては、 $\bm{B}$ と $\bm{H}$ は同じ形なのに、 磁石の内部においては、 $\bm{B}$ と $\bm{H}$ ではほぼ真逆を向くという事です。 強誘電体 ========================== 今度は永久磁石の電気版、強誘電体を見てみましょう。 数式は以下の様になります。 &\mathrm{div} \bm{D} = 0 \tag{##} \\ &\mathrm{rot} \bm{E} = \bm{0} \tag{##} \\ &\bm{D}=\varepsilon_0 \bm{E} + \bm{P} \tag{##} \\ &\varepsilon_0 \mathrm{div} \bm{E} = -\mathrm{div} \bm{P} \tag{##} \\ &\mathrm{rot} \bm{D} = \mathrm{rot} \bm{P} \tag{##} つまり、数学的構造は磁石の場合とまったく同じであるという事です。 図は「永久磁石」の場合の図とまったく同じで良いはずです。 ここで $\dfrac{\bm{B}}{\mu_0}$ は $\bm{D}$ に、 $\bm{H}$ は $ \varepsilon_0 \bm{E}$ に $\bm{M}$ は $\bm{P}$ に、置き換えれば良いことになる「はず」です。(実を言うと強磁性体については確認が取れたのですが、強誘電体に関しては確認が取れませんでした。) ちなみに実際には強誘電体は何もしなくても電場を発生しますが、空気中のイオンが引き寄せられ、 強い電場にはならないそうです。 束密度と場をどうやって測るか =================================== 最後に束密度 $\bm{D},\bm{B}$ と場 $\bm{E},\bm{H}$ をどうやったら測る事が出来るかを書いておきます。 磁束密度を測るには磁石の磁化の方向に垂直な面方向に広がる 平たい穴をあけます。すると、平たい面には分極磁化の面密度が発生し 上がS極、下がN極になりますから、 $\bm{B}$ の向きが実際に測れるわけです。 そして、磁場を測るには今度は磁化の方向に向いた細長い穴をあけます。 すると、今度は穴を作ったことによる分極磁化がほとんど発生しませんから、その場所には 磁石最上面のN極と最下面のS極のみが影響しますから、 上から下への磁場 $\bm{H}$ の向きが測れます。 .. image :: chromel-ferroMagFerroEle-04.png この話も強誘電体の場合にも全く同じことが言えるはずです。 今日はここまで、お疲れ様でした。 @@author:クロメル@@ @@accept:2017-07-20@@ @@category:電磁気学@@ @@id:ferroMagFerroEle@@