======================================== ヨーロッハ゜とは何か ======================================== 詩人ボードレールの誕生 ---------------------------------------  ヨーロッパはどんな時代でも世界の先端であり、時代をリードし続ける存在であり続けた。 第一次世界大戦があり、機械論があり、ヨーロッパの先行きは危ぶまれたのだろう。 メアリー・シェリーによる「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」が 科学万能主義や知性万能主義に対して警告を鳴らしたように、人は驕り高ぶってはならないし、 創造主になろうと思おうものなら大変な間違いを犯す。 ナポレオン3世の時代、地下水脈の人々は近代の歩みにNOと言い、そんな中で万国博は三度も開催された。 鉄道とガス灯が設置され、街路も広くなり、安全に夜間でも町歩きできるようになったのだ。 そうした中から詩人ボードレールが誕生する。 遊歩者=フラヌールであるボードレールは『群衆の中に身を浸すのは誰にでもできることではない』と、 自分にも他人にもなりうる顔を持ち、あらゆる詩作をした。 自分の内面への旅を好んだボードレールの想念は絵画にも新しい方向を指し示し、 近代絵画のマネは強く影響を受ける。明るくなった町の中で夜歩きするのはどんな心地だっただろう。 当時の夜遊び全盛の時代と今の世の中の違いは芸術が盛んか否かだろう。 ガス灯の暖かい色と着飾った美しい貴婦人や紳士が馬車でサロンに乗り付ける様子が頭に浮かぶ。 なかでも『現実から作り上げた物語、伝説が遊歩者の存在証明になる』 という言葉は非常に引きつけるものがある。 自分以外の人間の中で生きるというのはどういうことだろう。 ゼロからものを作り出すことによって、 誰にでもなりうる可能性を秘めたボードレールの本音が物作りの真意であるように感じた。 またボードレールはフラヌールとして日常的世界を非日常に生きたことによって、 人間としてのバランスを保っていたのではないか?  ウィキペディアによればボードレールは亡父の財産を二十歳で使い果たし、 その後は死ぬまで貧窮に苦しんだとあるが、ボードレールの詩はダンディで豊饒でとても貧しい生活をしていたような気がしない。 しかしながら詩というものは実際に足で歩いたことがすべての経験に繋がると思われるので、 ボードレールの詩には偽りがないと感じられる。時代はロマン主義から外部への脱出となる。 ヨーロッパ文明の死と再生 --------------------------- ヴァレリーの『すべてはヨーロッパにやって来たし、すべてはヨーロッパからやって来た』 とは預言者的な要素を感じさせる。 精神の危機であったこの時代は宗教やヨーロッパ文明の死が待ち構えていたのだろう。 仮にヨーロッパ的なるものが戦争を引き起こしていたとしても、 そして第二次世界大戦もそうであったとしても、私はヴァレリーの一説に同調する。 これからピカソやアポリネール、ゴーギャン、そしてエコール・ド・パリの面々が連なるのだが、 一番パリの輝かしい時代ではなかろうか?  若い情熱の打つかり合いと交遊録は平凡な私たちの頭では理解できぬ強烈なものがあるが、 『パラード』というディアギレフの舞台はコクトー、ピカソ、サティらのバレエであり、 これらの才能が結集したパリ芸術村には一言で言い表せぬ関心がある。 プーランクの牝鹿を思わず聴き込んでしまった。 アポリネールの「ミラボー橋」という詩篇を読むと、セーヌ川をまるで月日に喩えたような悠久さがあり、 波乱に満ちた小説とはまた違った魅力を打ち出している。 私の鎮静剤 ------------------------------- 若かりし頃、シュールレアリストに憧れ貪るように読んだ月日が私にもあったが、 その頃の憧れだけの感情と今ではさすがに変わり、こういった詩篇が胸に染みいるようになった。 絵画ではクリムトやエゴン・シーレといった面々も私にとっては外せないヨーロッパの顔だが、 マリー・ローランサンの淡いようで力強い魅力も素晴らしく、マリーとシャネルの交流にも目を見張ってしまった。 「アジア大陸の小さな岬」か「世界の頭脳か」というテーマがあったが、 私にとってのヨーロッパは追い越すことのできない国であり、追いかけ続けたい国である。 また無形の財産が多いのもヨーロッパの特徴である。 風景しかり、世界遺産しかり、戦争の後遺症も忘れてはならない。 医学の進歩も貨幣の発達も芸術も、ヨーロッパならではのものがたくさんあるのではなかろうか。 画家マリーのことを『牝鹿』と表現したピカソだったが、マリーの鎮静剤という詩篇は女性として真に迫るものがある。 また南島に渡る前の画家モディリアーニを巡った二人の女性の生涯には心を強く揺さぶられた。 私にとってヨーロッパは青春の原点であり、シュールレアリスムを身をもって体感できる年齢になったことも嬉しい。 この情熱を年を重ねても忘れずに持ち続けたい。 若い頃は憧憬だけで追い求めたが、これからは骨となり血となり肉となって、ヨーロッパ的なるもの。 私にとっての鎮静剤を持ち続けたいと思う。 @@reference: ポールヴァレリー,精神の危機,岩波文庫,2010,p1-p450,4003256050@@ @@author:きり@@ @@accept:2019-12-10@@ @@category:文学@@ @@id:europe@@