============================================================ ユーメイドリーム ============================================================ 自己紹介 =============================== 私はうさぎ。ミニウサギのストック。 いいえ、正確にはピーターラビットとして狛江のDIYショップに19800円で売られていた。 もう9年も昔のこと。色はチンチラシルバー。 お腹の色は白くて足はブーツを履いたみたいにふわっと膨らんでいる。 私のママはグレーのうさぎを手に入れたくて、 それこそお店に何度も来ては私が入荷するまで待ってくれた。 うさぎが好きな人は猫や犬が好きな人より遥かに少ない。 それは私の心を少し傷つけるけれど仕方がないと思う。 私たちは鳴いたりしないし、甘えるのだって下手だものね。 ママと出会った時、私は200グラムしかなかった。 目を開けるのがやっとでまだいろんなものがよく見えていなかったわ。 横須賀の家から私は出て来たの。私にはたくさん兄弟がいて、 グレーのうさぎのご要望とあって私が呼ばれたってわけ。 私は田舎ではお母さんのそばにくっついていた。 それこそおっぱいをもらうのに必死で足を踏みならしながら生き抜いたの。 兄弟はたくさんいてもちゃんと育つのは難しいのよ。 そうしてクリスマスごろにママに出会った。 私のことを最初見て、ママはちょっと首を傾げていた。 たぶん小さすぎたのね。私は不安になった。 せっかく横須賀から旅をして来たのに私の引き取り手はいなくなっちゃうのかハラハラしたの。 お店の人が大丈夫、育ちますよ!って太鼓判を押してくれて、 意を決したようにママは私をダンボール箱に入れた。そしてママとパパの家に行ったの。 思い出すなぁ。私のために用意された家は大きくて頑丈で、 シルバーのおしゃれな北欧風のケージだった。 私が身を隠せるように大きな木の箱が置いてあって、私は嬉しくなったの。 でも最初家に飛び込む時に、ちょっとはしゃぎすぎて叫んじゃった。 ママは目を細めて私の声を聞き逃さないように必死でいたみたいだった。 ママとの毎日 =============================== 毎日は単調に過ぎて行った。ママには子供はできなかった。 私が娘がわりなんだといつも私に顔をくっつけようとした。 最初は怖くて私はいつも逃げ出してしまったけれど、 私たちはだんだん知り合って絆も深まっていったの。ママたちはそれからすぐに結婚して、 私のことを本当に可愛がってくれた。でもね。猫を相手にするようにはいかないの。 ママが抱き上げようと溺愛するたびに、私はちょっと怖かった。 そんな気持ちが薄れるまでにはだいぶ時間がかかったなぁ。 ママたちは幸せそのものだったはずだけれど、よくお金のことでお酒のことで喧嘩をしていた。 大きな声を張り上げて、ママはパパをひっぱたくの。 出ていって!ってヒステリーを起こすたびに私は耳を塞いだ。 パパはママがまだ眠っているとき、私に話しかけてくれた。 知ってる?ママがうさぎを飼ったわけはパパが卯年だからなの。 ママは喧嘩しながらもパパを一番に愛していたのよ。 二人の年齢なんか私、あっという間に追い越して、私の方がおばさんになってしまった。 春と秋にね。うさぎの運動会があるの。 うさぎ専門店が主催する都立公園での運動会。 全部で40羽くらい参加する大きなイベントなのよ。 私はいつも最年長だけれど、参加を楽しみにしていた。 そこではブランドもののいわゆるサラブレッド的なうさぎがいっぱいいて、 私はちょっとだけ卑屈になった。私はみんなより少し体が大きいの。 チョッキやハーネスもLサイズでは小さいくらい。 そうやって思い出をたくさん重ねたわ。 私の存在を忘れないで ================================== ママ、いま私はお月様にいます。毎日お餅をついたり、 蟹をとったりしているの。月には大きな海があって蟹がたくさんいるのよ。 ママと過ごした9年7ヶ月の歳月。本当に楽しかったなぁ。 私は牧草をちっとも食べなかったから、それがもとで死んでしまったんだけれど、 好きなものを思う存分食べられたことに後悔はないわ。ママだから悩まないでね。 ママが毎日泣いてばかりいるのを、私はずっと見ていた。 神様にお願いして、早く新しいうさぎさんがママのところに宿るように祈ったものよ。 パパも元気にしてるんでしょ?喧嘩しちゃだめよ。 新しいうさちゃんのことも私は見守っているわ。だから安心してね。 私はちゃんとお月様で神様にお仕えしているから。 私のことを忘れないでね。私が存在したことを覚えていてくれたら、 それで私は十分なの。それ以上の望みはないわ。 ママのところに行って、ママが命を大切にしてくれることを私の使命としてあやかった。 ママ、ずっとみているから。そのままでいいの。 そしてときどき私のことを思い出してね。おしまい。 @@author:きり@@ @@accept:2020-01-05@@ @@category:小説@@ @@id:stock@@