============================ ネーターの定理 ============================ 物理学にはさまざまな保存則があります.エネルギー保存則,運動量保存則,角運動量保存則などはお馴染みですよね. 実は,これらの保存則には対称性との間に密接な関わりがあるのです.変分原理を使ってその辺りの関係を暴いていきます. ネーターの定理 ======================== まず一般的な保存則であるネーターの定理を示すことにします.具体的に運動量保存則や角運動量保存則を示すわけではないので, 少し難しいかもしれませんが,そのあとのセクションで具体的な内容についても議論するのでここは我慢してがんばってください. とりあえず結果だけ教えちゃいます.ネーターの定理は次のことを主張します. .. important:: 作用 $I$ にある種の対称性(不変性)が存在すれば,それに対応する保存則が成立する. なんだか凄そうですよね!では,がんばって計算していきましょう!! 自由度 $n$ の質点系が時刻 $t_1$ から $t_2$ の間にする運動を考えます.非保存力は働かないとして,作用 $I$ は 次のように書けました. I=\int_{t_1}^{t_2}L(q,\dot{q};t)\mathrm{d}t \tag{##} 運動方程式を求めるときは,運動の両端点を固定して第1変分 $\delta I$ が $0$ になるような経路を探すということを したのでした.しかし,運動方程式はすでにもとまっているので,ここでは別の変分をとることを考えましょう. つまり,運動方程式を満足する経路はすでに分かっているとして,その経路を両端点の座標も含めてわずかにずらす変分を考えます. このとき,もしも今考える変分が $I$ を変化させないならば $\delta I=0$ が成立することになるので,何らかの保存則を 得ることができるはずです. とにかく計算してみましょう.計算はほとんど同じですので一気にやってしまいます.微小量について2次以上の項は無視することに します. \displaystyle \delta I &= \int_{t_1}^{t_2}L(q+\delta q,\dot{q}+\delta \dot{q};t)\mathrm{d}t-\int_{t_1}^{t_2}L(q,\dot{q};t)\mathrm{d}t \\ &= \int_{t_1}^{t_2}\sum_{k=1}^{n}\left({\partial L\over\partial q_k}\delta q_k+{\partial L\over\partial \dot{q}_k}\delta\dot{q}_k\right)\mathrm{d}t \\ &= \left [ \sum_{k=1}^{n}{\partial L\over\partial\dot{q}_k}\delta q_k \right ] _{t_1}^{t_2}+\int_{t_1}^{t_2}\left( {\partial L\over\partial q_k}-{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial\dot{q}_k}\right)\delta q_k\mathrm{d}t \tag{##} 今回は両端を固定していないので,右辺第1項を自動的に $0$ とすることはできません.その代わりに,ラグランジュの運動方程式が {\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial \dot{q}_k}-{\partial L\over\partial q_k}=0 \tag{##} となることが分かってますから,右辺第2項は消えます.よって,一般化運動量 $p_k={\partial L\over\partial \dot{q}_k}$ を用い て $\delta I$ は次式にまとめられるでしょう. \delta I=\sum_{k=1}^{n}\{p_k(t_2)\delta q_k(t_2)-p_k(t_1)\delta q_k(t_1)\} \tag{##} ここで,経路をずらしたことによる変分 $\delta q_k$ に対して作用 $I$ が不変ならば $\delta I=0$ より, \sum_{k=1}^np_k(t_2)\delta q_k(t_2)=\sum_{k=1}^np_k(t_1)\delta q_k(t_1) \tag{##} を得ます.これにより,次式で表せる一般的な保存則が成立します. \sum_{k=1}^np_k(t)\delta q_k(t)=const. \tag{##} ここで,微小量 $\delta q_k(t)$ が式中にあると扱いにくいので, $\delta q_k(t)=\varepsilon g_k(q,t)$ と置きましょう. ただし, $\varepsilon$ は微小量の定数, $g_k(q,t)$ は適当な関数とします.このとき上式の両辺を定数 $\varepsilon$ で 割ることで, $\delta I=0$ は次式に帰着することが分かります. \sum_{k=1}^{n}p_k(t)g_k(q,t)=const. \tag{##} この式は経路のずらしについて作用 $I$ が不変であることによって成立する保存則を示しており,この式が成立することを ネーターの定理と呼びます.また,このように作用 $I$ (もしくはラグランジアン $L$ )に不変性があることを系が対称性を 持つといったりします. これだけでは,どのように保存則を示しているのかわかりにくいですね.そこで,次のセクションでネーターの定理を使って 循環座標に共役な運動量の保存則,普通の運動量保存則,角運動量保存則を示すことにします. 循環座標に共役な運動量の保存則 ==================================== 循環座標に共役な運動量が保存することは 一般化運動量と循環座標_ で既にみましたね.ここでは,これをネーターの 定理を使って見直すことにしましょう.いま,座標 $q_j$ が循環座標であったとしましょう. 循環座標の定義より $q_j$ はラグランジアン $L$ に含まれません.つまり, $q_j$ を微小に一定量だけ 変化させても ${\partial L\over\partial q_j}=0$ となりますから,ラグランジアン $L$ は 変化しません.ゆえに作用 $I$ も変化しません.よって, $g_k(q,t)=\delta _{kj}$ とすれば ネーターの定理が成立しますので \sum_{k=1}^np_k(t)g_k(q,t)=const.\Leftrightarrow p_j(t)=const.\tag{##} となります. $q_j$ に正準共役な運動量 $p_j$ が保存していることが分かりますね. 運動量保存則 =============== つぎに,運動量保存則をみてみます.例えばラグランジアン $L$ が各質点の相対距離にのみ依存する場合などを考えてみましょう. このとき,質点全体を平行に移動してもラグランジアンは変化しないため $\delta I=0$ が成立します. すべての質点を平行移動するわけですから,式(7)をベクトルで表すと分かりやすいです.質点の個数を $N$ 個として $l$ 番目 の質点の運動量を $\bm{p}_l$ ,位置ベクトルを $\bm{r}_l$ とするとネーターの定理は次式でかけます. \sum_{l=1}^{N}\bm{p}_l\cdot\delta\bm{r}_l=const. \tag{##} これは,ベクトル表記したときに成り立つネーターの定理の一般的な表式です. さて,全体を平行移動するのですから,任意の $l$ について $\delta\bm{r}_l=\varepsilon\bm{n}$ と書けます. ただし, $\varepsilon$ は微小量です.よって,式(9)より \bm{n}\cdot\sum_{l=1}^N\bm{p}_l=const. \tag{##} が成立します.ここで $\sum_{l=1}^N\bm{p}_l$ は系全体の運動量を表しています.つまり,これはベクトル $\bm{n}$ 方向の運動量 保存則にほかなりません.つまり,運動量保存則は空間内の平行移動における作用 $I$ の不変性(空間の並進対称性)から出てくるもの なのです. 角運動量保存則 ==================== 最後に角運動量保存則を見てみましょう.運動量保存則は空間内の並進対称性から導かれました.では,角運動量なのですから その保存則は回転移動についての対称性から得られそうですね. そこで,質点系全体の一様な無限小回転 $\delta \bm{\theta}=\varepsilon \bm{n}$ を考えてみることにしましょう.一様な回転を 考えますから,やはりベクトル表記が有効です.各質点の仮想変位は $\delta \bm{r}_l=\varepsilon \bm{n}\times\bm{r}_l$ について ネーターの定理が成立するとき \sum_{l=1}^{N}\bm{p}_l\cdot(\bm{n}\times\bm{r}_l)=const.\Leftrightarrow \bm{n}\cdot\sum_{l=1}^N\bm{r}_l\times\bm{p}_l =const.\tag{##} となります.つまり,空間の一様な回転 $\delta \bm{\theta}$ について作用 $I$ が変化しないとき系全体の 角運動量 $\sum_{l=1}^{N}\bm{r}_l\times\bm{p}_l$ の成分のうち $\delta \bm{\theta}$ 方向成分が保存することになります. まとめ ============ 以上のように作用 $I$ が不変になるような変換を考えれば統一的に保存則の議論ができることになります.これは,解析力学の 大きな強みですね. ネーターの定理から対称性が存在すれば保存則が成立することになります.ここまで,運動量保存則が空間の並進対称性, 角運動量保存則が空間の回転対称性から生まれてくることをみてきました. では,エネルギー保存則はどんな対称性から生まれてくるのでしょう?しかし,まだ僕たちは解析力学においてエネルギーの定義すら していませんでした.そこで,別の記事でエネルギーの定義とその保存則について考えたいと思います. .. _一般化運動量と循環座標: http://www12.plala.or.jp/ksp/analytic/generalizedCoordinatesAndCyclicCoordinate/ @@author:佑弥@@ @@accept:2007-06-05@@ @@category:解析力学@@ @@id:NoethersTheorem@@