================================================================================ コラム第 1 回 『特殊な一階の常微分方程式』 ================================================================================ 先日,かぎしっぽのメーリングリストで,池の氷の成長速度 (氷の厚さ) が話題になりました。詳細な説明はここでは致しませんが,氷の厚さ $u$ と時刻 $t$ との間には,ある定数 $a$ を用いて \frac{\, \mathrm{d} \,}{\, \mathrm{d}t \,} u = \frac{\, a \,}{\, u \,} \qquad \tag{1} という関係があるというものでした。この微分方程式の解は,積分定数 $C$ を用いて, u = \pm \sqrt{\mathstrut 2 a t + C \,} \qquad \tag{2} と表されます `(註 1)`_ 。つまり,大雑把にいえば $\sqrt{\mathstrut t \,}$ に比例します。 .. _cf01: (註 1) この問題の場合は,氷の厚さですので,常に $0 \leq u$ かつ, $t = 0$ のとき, $u = 0$ です。よって, $C = 0$ となり, $0 \leq u$ と併せて, $u = \sqrt{\mathstrut 2 a t \,}$ となります。 この微分方程式を眺めていて, \frac{\, \mathrm{d} \,}{\, \mathrm{d}t \,} u = a u \qquad \tag{3} の解が,積分定数 $C$ を用いて, u = \pm C \mathrm{e}^{at} \qquad \tag{4} で表されることが頭に浮かんで来ました。この二つの微分方程式は,共に, .. _eq05: \frac{\, \mathrm{d} \,}{\, \mathrm{d}t \,} u = a {u}^{k} \qquad \tag{5} という形をしています `(註 2)`_ 。 しかし,その解は,一方では平方根,もう一方は指数関数と,全く違った形をしています。そこで,今回は, `(5) 式`_ の形の微分方程式を解いてみたいと思います `(註 3)`_ 。 .. _cf02: (註 2) \(5) 式で $k = -1$ とおくと (1) 式になり, $k = 1$ とおくと (3) 式になります。 .. _cf03: (註 3) \(5) 式は,左辺が $u$ の一階の導関数です。このように,微分方程式に含まれる最大の階数が一階であるものを一階の微分方程式と呼びます。また, $u$ の変数は $t$ だけです。このように,変数が一つだけの微分方程式を常微分方程式と呼びます。よって, (5) 式は,一階の常微分方程式の一種となります。 前提条件 ================================================================================ さて, `(5) 式`_ を解く訳ですが,その前提条件を決めておきましょう。 $u$ は $t$ の函数ですが,ここで定義域は $0 \leq t$ とします。 $k$ を実数全体に拡張したいので, $0 \leq u$ とします。更に, $0 < t$ のとき, $0 < u$ であるとします。定数 $a$ も, $0 < a$ とします `(註 4)`_ 。これらの条件下で `(5) 式`_ を解きます。 .. _cf04: (註 4) この条件では, $0 < t$ で右辺は常に正の値を取ります ( $t = 0$ では $0$ 以上の値を取ります)。つまり,導関数の値が常に正または $0$ ですから,函数 $u$ は広義の単調増加函数です。 ここで,簡単の為に, ${}^{\prime}$ は $t$ による微分を表すこととします。即ち, $\displaystyle {u}^{\prime} = \frac{\, \mathrm{d} \,}{\, \mathrm{d}t \,} u$ です。これを用いると, `(5) 式`_ は, .. _eq06: {u}^{\prime} = a {u}^{k} \qquad \tag{6} となります。 では解いてみましょう ================================================================================ `(6) 式`_ は, `変数分離形`_ で解く事が出来ますが,ここでは,ちょっと変わった解き方をしてみます。 まず, $0 < t$ において, $0 < u$ であることから, `(6) 式`_ の両辺に ${u}^{-k}$ を掛けます。即ち, {u}^{-k} {u}^{\prime} = a \qquad \tag{7} となります。 ここで,函数 $u$ に対して, $j \neq 0$ のとき, ${u}^{j}$ ( $j$ は実数) の $t$ による微分,即ち ${\left({u}^{j}\right)}^{\prime}$ を考えます。これは,合成函数の微分から, {\left({u}^{j}\right)}^{\prime} = j {{u}^{j - 1}} {u}^{\prime} \qquad \tag{8} が成り立ちます。 ここで (8) 式を $j \neq 0$ に注意して整理しますと, \frac{\,{\left({u}^{j}\right)}^{\prime}\,}{j} = {{u}^{j - 1}} {u}^{\prime} \qquad \tag{9} となります。 さて, (9) 式において, $j - 1 = -k$ とおくと, $j = 1 - k$ で $k \neq 1$ , \frac{\,{\left({u}^{1 - k}\right)}^{\prime}\,}{1 - k} = {{u}^{-k}} {u}^{\prime} \qquad \tag{10} となります。 ところで, (10) 式の右辺は, (7) 式の左辺に等しいので, \frac{\,{\left({u}^{1 - k}\right)}^{\prime}\,}{1 - k} = a \qquad \tag{11} 即ち, \left({u}^{1 - k}\right)^{\prime} = a (1 - k) \qquad \tag{12} となります。 ここで, (12) 式の右辺 ( $a (1 - k)$ ) は定数であることに注意して両辺を $t$ で積分すると,$C$ を積分定数として, {u}^{1 - k} = a (1 - k) t + C \qquad \tag{13} となりますから, $0 \leq u$ より,この両辺の $1 - k \, \left( \mathstrut k \neq 1 \right)$ 乗根を取ると, u = {\left\{ a (1 - k) t + C \right\}}^ {\frac{\displaystyle {1}}{\displaystyle \, 1 - k \, }} \qquad \tag{14} となります。 一方, $k = 1$ のときは,解くべき微分方程式 ( `(6) 式`_ ) は, {u}^{\prime} = a u \qquad \tag{15} 即ち \frac{\, {u}^{\prime} \,}{u} = a \qquad \tag{16} となりますから, $0 < u$ のとき, {\left(\ln u \right)}^{\prime} = \frac{\, {u}^{\prime} \,}{u} \qquad \tag{17} より `(註 5)`_ , {\left(\ln u \right)}^{\prime} = a \qquad \tag{18} となります。 .. _cf05: (註 5) ここで $\ln x$ は,${\log}_{\mathrm{e}} x$ のことです。高校では $\log x$ と底を省略した場合は,底が $\mathrm{e}$ である場合 (自然対数) と $10$ である場合 (常用対数) の双方がありましたが,それでは紛らわしいので, $\log$ は常用対数を, $\ln$ は自然対数を,それぞれ表すものとされています。 \(18) 式の両辺を $t$ で積分して, \ln u = a t + C \qquad \tag{19} 即ち, u = \mathrm{e}^{a t + C} = \mathrm{e}^{C} \mathrm{e}^{at} \qquad \tag{20} となりますが, $\mathrm{e}^{C}$ は定数ですので,これを改めて $C$ と書けば, u = C \mathrm{e}^{at} \qquad \tag{21} となります。 解 ================================================================================ 纏めますと, ${u}^{\prime} = a {u}^{k}$ の解は, $C$ を積分定数として, u = \left\{ \begin{array}{ll} C \mathrm{e}^{at} & (k = 1) \\ {\left\{ a (1 - k) t + C \right\}}^ {\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle \, 1 - k \, }} & (k \neq 1) \end{array} \right. となります。これは, ${t}^{j}$ の $t$ での積分,即ち $\int \! {t}^{j} \, \mathrm{d}t$ が, $j = -1$ と $j \neq -1$ とで解の形が変わるという事と同じ事ですね。 と,いうことで,今回のコラムはこれで終わります。合掌 .. %-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%- % 数式用ページ内リンク .. _(5) 式: #eq05 .. _(6) 式: #eq06 .. %-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%- % 脚注 (参考) 用ページ内リンク .. _(註 1): #cf01 .. _(註 2): #cf02 .. _(註 3): #cf03 .. _(註 4): #cf04 .. _(註 5): #cf05 .. %-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%-%- % ページ外リンク .. _変数分離形: http://hooktail.sub.jp/mathInPhys/separatVariables/ @@author:K. I.@@ @@accept:2014-07-20@@ @@category:コラム@@ @@id:column0001@@