========================================= |Lienard-Wiechert| ポテンシャル ========================================= .. |Lienard-Wiechert| unicode:: Li U+00E9 nard-Wiechert ここでは |Lienard-Wiechert| ポテンシャルについて解説します。 加速度運動をする荷電粒子が電磁波を放射することを理解するための第一歩です。 なお、このシリーズでは単位系として cgs 単位系を用います。ご容赦下さい。 |Lienard-Wiechert| は「リエナール・ヴィーヒェルト」と読みます。 -------------------------------- 出発点 -------------------------------- .. figure:: co-lienard01.png 電荷 $q$ を持つ点電荷が軌道 $\bm{r} = \bm{r_0}(t)$ に沿って運動することを考えます。 このとき、電荷密度および電流密度は次のように書くことができます。 \rho(\bm{r}, t) & = q \delta \left(\bm{r}-\bm{r_0}\left(t\right)\right) \tag{#def(def-rho)}\\ \bm{j}(\bm{r}, t) & = q \bm{u}(t) \delta \left(\bm{r}-\bm{r_0}\left(t\right)\right) \tag{#def(def-j)} ここで $\bm{u}(t) = \frac{d \bm{r_0}(t)}{dt}$ です。 電場、磁場をスカラーポテンシャル $\phi(\bm{r},t)$ とベクトルポテンシャル $\bm{A}(\bm{r}, t)$ を用いて表すことにします。 ゲージとしてローレンツゲージを選ぶと、次のようになります。 \nabla^2 \phi - \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2} = - 4 \pi \rho \tag{#def(maxwell-phi)}\\ \nabla^2 \bm{A} - \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2 \bm{A}}{\partial t^2} = - \frac{4\pi}{c} \bm{j_e} \tag{#def(maxwell-A)} 式(#ref(maxwell-phi))、式(#ref(maxwell-A))の解は次のようになります。 [*]_ \phi(\bm{r}, t) = \int \frac{\left[ \rho \right] d^3\bm{r'}}{|\bm{r}-\bm{r'}|} \tag{#def(phi01)}\\ \bm{A}(\bm{r}, t) = \int \frac{\left[\bm{j}\right] d^3\bm{r'}}{|\bm{r}-\bm{r'}|} \tag{#def(A01)} ここで $[Q]$ は、 $Q$ を遅延時間を用いて計算せよという意味です。 遅延時間 (retarded time) $t_{\rm{ret}}$ は $t_{\rm{ret}} = t - \frac{1}{c} |\bm{r}-\bm{r'}|$ で定義されます。 光は有限の速さ $c$ で伝わるので、点 $\bm{r'}$ で起こったできごとを $\bm{r}$ 点の人が観測するのは $t = t_{\rm{ret}}$ だということを表しています。 .. [*] これを求めるのはなかなか大変です。とりあえずここでは (#ref(phi01))、(#ref(A01)) をそれぞれ (#ref(maxwell-phi))、(#ref(maxwell-A)) に代入して確認しておけば良いでしょう。 ---------------------------------- ポテンシャルを計算する ---------------------------------- さて、では実際に (#ref(phi01))、(#ref(A01)) を計算していきましょう。 電荷密度 $[\rho]$ は次のように書くことができます。 \left[ \rho \right] = \int dt' \rho( \bm{r'}, t') \delta \left( t' - t + \frac{1}{c}|\bm{r}-\bm{r'}| \right) これを (#ref(phi01)) に代入し、(#ref(def-rho)) を用いると \phi(\bm{r},t) & = \int d^3\bm{r'} \int dt' \frac{\rho(\bm{r'}, t')}{|\bm{r}-\bm{r'}|} \delta \left(t'-t + \frac{1}{c}|\bm{r}-\bm{r'}|\right)\\ & = \int d^3\bm{r'} \int dt' \frac{q \delta \left(\bm{r'}-\bm{r_0}\left(t'\right)\right)}{|\bm{r}-\bm{r'}|} \delta \left(t'-t + \frac{1}{c}|\bm{r}-\bm{r'}|\right)\\ & = q \int dt' \frac{1}{|\bm{r}-\bm{r_0}(t')|} \delta \left(t'-t + \frac{1}{c}|\bm{r}-\bm{r_0}(t')|\right) となります。ここで $\bm{R}(t') \equiv \bm{r}-\bm{r_0}(t')$ 、 $R(t') \equiv |\bm{R}(t')|$ とすると、 \phi(\bm{r},t) = q \int dt' R^{-1}(t') \delta \left( t' - t + \frac{R(t')}{c}\right) \tag{#def(phi02)} となります。ベクトルポテンシャルについても同様な計算をします。 \bm{A}(\bm{r},t) & = \int d^3\bm{r'} \int dt' \frac{\bm{j}(\bm{r'},t')}{|\bm{r}-\bm{r'}|} \delta \left(t'-t + \frac{1}{c}|\bm{r}-\bm{r'}|\right)\\ & = \int d^3\bm{r'} \int dt' \frac{q\bm{u}(t') \delta \left( \bm{r'}-\bm{r_0} \left(t'\right)\right)}{|\bm{r}-\bm{r'}|} \delta \left(t'-t + \frac{1}{c}|\bm{r}-\bm{r'}|\right)\\ & = q \int dt' \bm{u}(t') R^{-1}(t') \delta \left( t' - t + \frac{R(t')}{c}\right) \tag{#def(A02)} が得られます。ふぅ。 さて、計算を進めましょう。 まずは $\phi(\bm{r},t)$ について計算していきます。 まず $t'' = t' - t + \frac{R(t')}{c}$ とおきます。 すると、 dt'' = dt' + \frac{1}{c}\dot{R}(t')dt' \tag{#def(dt''01)} となります。 ところで、 $R^2(t') = \bm{R}(t')\cdot\bm{R}(t')$ ですから両辺を $t'$ で微分すると $2 R(t') \dot{R(t')} = 2\dot{\bm{R}}(t')\cdot\bm{R}(t')$ です。 $\bm{R}(t') = \bm{r} - \bm{r_0}(t')$ ですから、 $\dot{\bm{R}}(t') = -\dot{\bm{r_0}}(t') = - \bm{u}(t')$ と書けます。したがって、 R(t')\dot{R}(t') = -\bm{u}(t')\cdot\bm{R}(t') \tag{#def(Ru_rel)} となります。ここで単位ベクトル $\bm{n}$ を $\bm{n} = \frac{\bm{R}}{R}$ と定義します。すると、(#ref(Ru_rel)) より \dot{R}(t') = - \bm{u}(t')\cdot\bm{n}(t') となります。従って $dt''$ は (#ref(dt''01)) より dt'' = \left[1-\frac{1}{c}\bm{n}(t')\cdot\bm{u}(t')\right]dt' \tag{#def(dt''02)} と書けます。 さて、(#ref(phi02)) を $t''$ を用いて書き換えると \phi(\bm{r}, t) = q \int R^{-1}(t') \left[1 - \frac{1}{c}\bm{n}(t')\cdot\bm{u}(t')\right]^{-1} \delta (t'') dt'' \tag{#def(phi03)} となります。遅延時間を $t_{\rm{ret}} \equiv t - \frac{R(t')}{c}$ とすると $t'' = 0$ のとき、または $t' = t_{\rm{ret}}$ のとき (#ref(phi03)) は \phi( \bm{r}, t) = \frac{q}{\kappa (t_{\rm{ret}}) R(t_{\rm{ret}})} \tag{#def(phi04)} となります。ただしここで \kappa(t') = 1 - \frac{1}{c}\bm{n}(t')\cdot\bm{u}(t') \tag{#def(phi05)} としました。 ベクトルについてもポテンシャルも同様に計算して、 \bm{A}(\bm{r},t) = \frac{q \bm{u}(t_{\rm{ret}})}{c\kappa(t_{\rm{ret}})R(t_{\rm{ret}})} \tag{#def(A05)} が得られます。遅延時間をとることを表すのに $[\ ]$ を使うと、(#ref(phi05))、(#ref(A05))は次のように書けます。 \phi & = \left[ \frac{q}{\kappa R} \right] \tag{#def(phi06)}, \\ \bm{A} & = \left[ \frac{q \bm{u}}{c \kappa R} \right]. \tag{#def(A06)} (#ref(phi06))、(#ref(A06)) を |Lienard-Wiechert| ポテンシャルと呼びます。 静電場、静磁場のポテンシャルと形は似ていますね。 --------------------------------- 補足 --------------------------------- 何のためにこの |Lienard-Wiechert| ポテンシャルを計算していたのかというと、点電荷が運動しているときの電場、磁場を求めたいからでした。 |Lienard-Wiechert| ポテンシャルは主に次の二つの点で静電場、静磁場のポテンシャルと異なります。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ $\kappa$ について ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ まず第一に、 $\kappa$ というファクターです。もう一度書くと、 \kappa(t') = 1 - \frac{1}{c}\bm{n}(t')\cdot\bm{u}(t') です。この中で $\bm{n}$ ベクトルは $\bm{r}-\bm{r_0}$ の向き、つまり電荷と観測者を結ぶ向きを向いています。大きさは $1$ です。 一方、 $\bm{u}$ は電荷の運動している方向を向いています。 $\kappa$ にはその内積が入っています。 つまり電荷と観測者を結ぶ方向と、電荷の運動方向がどのくらい同じ方向を向いているかに依存します。 $u$ が光速に比べて十分に小さい $u << c$ とき、 $\kappa \simeq 1$ なので無視できます。 一方、 $u$ が光速に近いとき $\kappa$ は電荷と観測者を結ぶベクトルと、 速度ベクトルが同じ向きを向いているときにポテンシャルは最も大きく、 電荷が観測者と直交する方向に運動しているときがもっとも小さくなります。 これは相対論的ビーミング効果に関係しています。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ $t_{\rm{ret}}$ について ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ もう一つは、全ての量が遅延時間 $t_{\rm{ret}}$ で表されていることです。 あとで見るように、この遅延があることにより、電磁波が無限の距離までエネルギーを運ぶことができるのです。 @@reference: George B.Rybicki & Alan P. Lightman, Radiative Processes in Astrophysics, Wiley-Interscience, 1985, p77-p79, 0471827592@@ @@author: CO@@ @@accept: 執筆中@@ @@id: Lienard-Wiechert@@ @@category: 電磁気学@@