========================================== ケプラー運動 ========================================== この記事では,重力場中の天体の運動が円錐曲線になることを示します. 計算がテクニカルなところもありますが,ケプラーの 第一法則がきちんと満たされていることを確認してみましょう. 微分方程式を求める ====================== まず,解くべき微分方程式を求めましょう.ラグランジュの運動方程式を使うと簡単に求めることができます. 問題の設定は,大きな天体(質量 $M$ )の周りを小さな小惑星(質量 $m$ )がまわって いるとします. $M>>m$ とすると,大きな天体は静止していると仮定できます. 中心力場の問題なので,座標系は,大きな天体を極とする極座標 $(r,\theta)$ としましょう. その時,小惑星の運動エネルギー $T$ は, T={1\over2}m(\dot{r}^2+r^2\dot{\theta}^2) となりますね.一方,ポテンシャルエネルギー $U$ は, U=-G{Mm\over r} です. よって,この系のラグランジアン $L=T-U$ を求めると,次のようになります. L={1\over2}m(\dot{r}^2+r^2\dot{\theta}^2)+G{Mm\over r} これをラグランジュの運動方程式に代入しましょう.まず, $r$ について, {\rm{d}\over\rm{d}t}{\partial L\over\partial \dot{r}}={\partial L\over\partial r} ゆえに,次式を得ます. m{\mathrm{d}^2r\over\mathrm{d}t^2}=mr\dot{\theta}^2-G{Mm\over r^2}\quad(1) 次に, $\theta$ について求めますが, ${\partial L\over \partial\theta}=0$ なので, {\rm{d}\over\rm{d}t}{\partial L\over\partial\dot{\theta}}=0 となり,次の角運動量保存則を得ます.( $l$ を全角運動量(定数)とします.) mr^2\dot{\theta}=l\quad(2) 式(1)(2)を連立して,次式を得ます. {\mathrm{d}^2r\over\mathrm{d}t^2}&={l^2\over m^2r^3}-G{M\over r^2}\quad(3)\\ \dot{\theta}&={l\over mr^2}\quad(4) さて,これで解くべき微分方程式が求まりました.これを何とか計算していきましょう! 運動の軌跡を求める ==================== さて,これから運動の軌跡を求めたいわけですが,このままでは解けそうにありません. そこで,変数変換の出番です.式(3)とか式(4)を見ていると $1\over r$ の形が目立ちます. というわけで,試しに $r={1\over q}$ と変数変換して見ましょう.すると(4)は \dot{\theta}={l\over m}q^2\quad(5) となります. 次に(3)の左辺について考えて見ますと, {\mathrm{d}r\over\mathrm{d}t}&={\mathrm{d}\theta\over\mathrm{d}t} \left({\mathrm{d}\over\mathrm{d}\theta}{1\over q}\right)\\ &={l\over m}q^2\left(-{1\over q^2}{\mathrm{d}q\over\mathrm{d}\theta}\right)\\ &=-{l\over m}{\mathrm{d}q\over\mathrm{d}\theta} {\mathrm{d}^2r\over\mathrm{d}t^2}&={\mathrm{d} \theta \over \mathrm{d} t} {\mathrm{d}\over\mathrm{d}\theta}\left(-{l\over m}{\mathrm{d} q \over \mathrm{d} \theta}\right)\\ &=-\left({l \over m}\right)^2 q^2{\mathrm{d} ^2 q \over \mathrm{d} \theta ^2} となります.よって,(3)は -\left({l\over m}\right)^2q^2{\mathrm{d} ^2 q \over \mathrm{d} \theta ^2} ={l^2\over m^2}q^3-GMq^2 と書き直せます. $r>0$ より $q>0$ なので,これを整理して, {\mathrm{d}^2q\over\mathrm{d}\theta ^2}=-q+{GMm^2\over l^2}\quad(6) とできます. この微分方程式は単振動でおなじみの式ですね.そこで,これを解くと, q=A\cos(\theta+\phi)+{GMm^2\over l^2} となります.これを, $r={1\over q}$ で元に戻してあげると, r={{l^2\over GMm^2}\over 1+{Al^2\over GMm^2}\cos(\theta+\phi)} となります.これは,極座標で表した時の円錐曲線の方程式 r={l\over 1+e\cos\theta} そのものですね. 確かに,惑星の運動は円錐曲線を描くことを確認できました. 雑談 ======= これでニュートン型ポテンシャル $V(r)=-G{Mm\over r}$ の中での運動がどうなるのか分りましたね. 結果をみるとこのポテンシャルの中を動く質点の運動は,楕円,放物線,そして双曲線しか描かない ことがわかりました.つまり,宇宙の果てまで飛んで行ってしまわないような任意の初期条件に対して 運動の軌跡は楕円になって閉曲線を描くことがわかります. 実は,このような性質をもつポテンシャルってそんなに沢山はないんですよ.ベルトランの定理によると, ポテンシャル $V(r)$ の中の運動を考えたときに,軌道が有界になるような任意の初期条件に対してその 運動の軌道が閉じた曲線になるための必要十分条件は,ポテンシャル $V(r)$ が V(r)={1\over 2}kr^2 の形をしているか, V(r)=-{k\over r} の形をしていることなのです.なんだか面白そうな定理ですね.また機会があったら証明してみようと思います. @@author:佑弥@@