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水瓶
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お盆の支度
--------------------------------
毎年七月になると祖母はいそいそとお盆の支度をはじめる。
私はまだ小学校低学年でお盆というものがなんなのかさっぱり...
でも我が家はお盆でも正月でも五月の連休でも祖父母の実家に...
なぜなら祖父母と一緒に暮らしていたからだ。
だからおばあちゃんに会いに夏休みどこそこに帰るというのが...
しかも我が家のお盆はどういうわけか七月だった。
送り火と迎え火というのをやるために小さな緑色のバケツを持...
この日のために割り箸をたくさん用意しておいて細長い竹の棒...
私はいつも花火を期待したのだけれどこのときばかりは違う。
胡瓜や茄子も馬に見立てて紐で縛って飾っておく。
鈴虫のためにでも漬物のためにでもなく、ご先祖さまのために...
祖母はひっそり私に話して聞かせる。
ご先祖さまがちゃんとおうちに帰ってこられるように迷わない...
祖母の色が白くてほっそりとした小さな手で私のもっともっと...
礼拝を祖母は私に教えてくれる。南無南無と祖母と祈る。
ご先祖様は幽霊なの?と聞くと違いますよ、もっと崇高なもの...
スウコウってなんだろう?気高くてほろ苦いものかしら?
おばあちゃんの直伝
-------------------------------
祖母は子供の私がわかるようにいつも話をしてくれた。
私は祖母が大好きだった。父方の祖母はとっても厳しくて私の...
一緒に暮らしていたのは母方の祖父母だった。
祖母は体が弱くて私が気が付いた時にはいつも寝ていた。
そうして祖父はお医者さまだった。だから祖母のためにいつも...
そんな祖母がお盆だけは楽しみにしていて、ご先祖さまの話を...
お釈迦様に供える砂団子のお話や自分の名前すら忘れてしまう...
そして中でも祖母の話で忘れられないのは水瓶の話だった。
生きるというのは大きな水瓶にたくさん水を汲むようなものだ...
つらいことがあっても水を汲み、嬉しいことがあっても水を汲...
水瓶はなかなかいっぱいにはならない。人によって水瓶の大き...
そしてその水瓶がいっぱいになって溢れんばかりになったら、
お迎えがくるのだと祖母は語ってくれた。私は水瓶が怖くて仕...
大事なのは毎日水を汲むこと。決して怠らないこと。
そんな話が比喩なのだとわかるのはもっともっとずっと後にな...
落花生の結婚
------------------------------
そんな祖母がもう一つ話してきかせたのは落花生だった。
落花生は二つに割るといっぽうには突起があり、もういっぽう...
突起があるほうをおじいさん落花生と祖母はちょっと照れ臭そ...
どの落花生もぴったりと合わさっている。
そんな伴侶を人生において見つけることが結婚なんですよと祖...
毎年お盆のたびに祖母はそんな小話を私に聞かせてくれては私...
人生の示唆や教訓とまでもいかないけれど、
普段は寝たきりの祖母がそうして語ってくれるのが何より嬉し...
祖母に気に入ってもらえるように肩を叩いたり、
祖母の好きな宇治金時のアイスクリームをお米屋さんで買って...
祖母は嬉しそうな顔をして「今日はせっちゃんが優しくしてく...
祖母はいつだって敬語を使ってちょっと近寄りがたくて壊れそ...
それでも私は祖母が誰より好きで付きまとってばかりいた。
特にお盆のころは祖母の誕生日でもあったから、
祖母と私はとてもゆっくり歩いて駅ビルのお蕎麦やさんまで頑...
祖母は何を隠そう力うどんが一番好きだった。
どうしてそんなものがこのおばあさんに食べられたのだろうと...
お餅の入った力うどんをそれは楽しそうにお箸でつついていた。
満月と水瓶と線香花火と
-------------------------------
そんな祖母が歳をとって本当に寝たきりになってしまったのは...
今がどこなのか昼夜も逆転してしまって私のことも亡くなった...
私の母は時に泣いて時に叱って祖母の看病にくれた。
近くの大きな丸い玄関灯を満月だと思ってありがたそうに見つ...
祖母が寝付いてからもお盆の習慣だけは大切にしていた。
お盆のときに私がねだると線香花火をやってくれたのを昨日の...
どちらが先に火の玉が落ちてしまうか祖母と競争したのだ。
「あのね、おばあちゃん、私の母ももう八十八才になってしま...
あんなに元気だった母が今はおばあちゃんのようにしか歩けな...
私だって結婚をしてもう半世紀も生きているわ。帰る家だって...
おばあちゃんに真っ白な雪景色を見せてあげたかったな」私は...
私の夫の家では落花生を作っているから、
祖母の落花生の話を向こうのお母さんにしたらにっこりと微笑...
私はぴったりと合わさった落花生の伴侶を見つけられただろう...
私にも家庭や新しい家族がある。人はいつだって歴史を紡ぐ。
祖母が一つ一つ私に話して聞かせてくれた小話は姪っ子や甥っ...
祖母の話はそうしてずっと生きつづけて、母は曽孫たちと一緒...
私の背負っている水瓶はまだまだ余裕がありそうだからしっか...
お盆が来るたびに一段と気持ちを引き締める。
祖母を思うとき私はなくしてしまったものをたくさん思い出す。
また水を汲んで出直そう。いつから始めたって何度やり直した...
丈夫で長持ちだよね。ご先祖さまに手を合わせるときもう幽霊...
祖母を思い出せることが何より嬉しい。こうして人は前に進み...
私はそんな毎日に感謝している。
@@author:きり@@
@@accept:2019-12-12@@
@@category:小説@@
@@id:waterbottle@@
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水瓶
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お盆の支度
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毎年七月になると祖母はいそいそとお盆の支度をはじめる。
私はまだ小学校低学年でお盆というものがなんなのかさっぱり...
でも我が家はお盆でも正月でも五月の連休でも祖父母の実家に...
なぜなら祖父母と一緒に暮らしていたからだ。
だからおばあちゃんに会いに夏休みどこそこに帰るというのが...
しかも我が家のお盆はどういうわけか七月だった。
送り火と迎え火というのをやるために小さな緑色のバケツを持...
この日のために割り箸をたくさん用意しておいて細長い竹の棒...
私はいつも花火を期待したのだけれどこのときばかりは違う。
胡瓜や茄子も馬に見立てて紐で縛って飾っておく。
鈴虫のためにでも漬物のためにでもなく、ご先祖さまのために...
祖母はひっそり私に話して聞かせる。
ご先祖さまがちゃんとおうちに帰ってこられるように迷わない...
祖母の色が白くてほっそりとした小さな手で私のもっともっと...
礼拝を祖母は私に教えてくれる。南無南無と祖母と祈る。
ご先祖様は幽霊なの?と聞くと違いますよ、もっと崇高なもの...
スウコウってなんだろう?気高くてほろ苦いものかしら?
おばあちゃんの直伝
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祖母は子供の私がわかるようにいつも話をしてくれた。
私は祖母が大好きだった。父方の祖母はとっても厳しくて私の...
一緒に暮らしていたのは母方の祖父母だった。
祖母は体が弱くて私が気が付いた時にはいつも寝ていた。
そうして祖父はお医者さまだった。だから祖母のためにいつも...
そんな祖母がお盆だけは楽しみにしていて、ご先祖さまの話を...
お釈迦様に供える砂団子のお話や自分の名前すら忘れてしまう...
そして中でも祖母の話で忘れられないのは水瓶の話だった。
生きるというのは大きな水瓶にたくさん水を汲むようなものだ...
つらいことがあっても水を汲み、嬉しいことがあっても水を汲...
水瓶はなかなかいっぱいにはならない。人によって水瓶の大き...
そしてその水瓶がいっぱいになって溢れんばかりになったら、
お迎えがくるのだと祖母は語ってくれた。私は水瓶が怖くて仕...
大事なのは毎日水を汲むこと。決して怠らないこと。
そんな話が比喩なのだとわかるのはもっともっとずっと後にな...
落花生の結婚
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そんな祖母がもう一つ話してきかせたのは落花生だった。
落花生は二つに割るといっぽうには突起があり、もういっぽう...
突起があるほうをおじいさん落花生と祖母はちょっと照れ臭そ...
どの落花生もぴったりと合わさっている。
そんな伴侶を人生において見つけることが結婚なんですよと祖...
毎年お盆のたびに祖母はそんな小話を私に聞かせてくれては私...
人生の示唆や教訓とまでもいかないけれど、
普段は寝たきりの祖母がそうして語ってくれるのが何より嬉し...
祖母に気に入ってもらえるように肩を叩いたり、
祖母の好きな宇治金時のアイスクリームをお米屋さんで買って...
祖母は嬉しそうな顔をして「今日はせっちゃんが優しくしてく...
祖母はいつだって敬語を使ってちょっと近寄りがたくて壊れそ...
それでも私は祖母が誰より好きで付きまとってばかりいた。
特にお盆のころは祖母の誕生日でもあったから、
祖母と私はとてもゆっくり歩いて駅ビルのお蕎麦やさんまで頑...
祖母は何を隠そう力うどんが一番好きだった。
どうしてそんなものがこのおばあさんに食べられたのだろうと...
お餅の入った力うどんをそれは楽しそうにお箸でつついていた。
満月と水瓶と線香花火と
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そんな祖母が歳をとって本当に寝たきりになってしまったのは...
今がどこなのか昼夜も逆転してしまって私のことも亡くなった...
私の母は時に泣いて時に叱って祖母の看病にくれた。
近くの大きな丸い玄関灯を満月だと思ってありがたそうに見つ...
祖母が寝付いてからもお盆の習慣だけは大切にしていた。
お盆のときに私がねだると線香花火をやってくれたのを昨日の...
どちらが先に火の玉が落ちてしまうか祖母と競争したのだ。
「あのね、おばあちゃん、私の母ももう八十八才になってしま...
あんなに元気だった母が今はおばあちゃんのようにしか歩けな...
私だって結婚をしてもう半世紀も生きているわ。帰る家だって...
おばあちゃんに真っ白な雪景色を見せてあげたかったな」私は...
私の夫の家では落花生を作っているから、
祖母の落花生の話を向こうのお母さんにしたらにっこりと微笑...
私はぴったりと合わさった落花生の伴侶を見つけられただろう...
私にも家庭や新しい家族がある。人はいつだって歴史を紡ぐ。
祖母が一つ一つ私に話して聞かせてくれた小話は姪っ子や甥っ...
祖母の話はそうしてずっと生きつづけて、母は曽孫たちと一緒...
私の背負っている水瓶はまだまだ余裕がありそうだからしっか...
お盆が来るたびに一段と気持ちを引き締める。
祖母を思うとき私はなくしてしまったものをたくさん思い出す。
また水を汲んで出直そう。いつから始めたって何度やり直した...
丈夫で長持ちだよね。ご先祖さまに手を合わせるときもう幽霊...
祖母を思い出せることが何より嬉しい。こうして人は前に進み...
私はそんな毎日に感謝している。
@@author:きり@@
@@accept:2019-12-12@@
@@category:小説@@
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