記事ソース/小島信夫『抱擁家族』安岡章太郎『海辺の光景』の戦後的主題について論ずる
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小島信夫『抱擁家族』安岡章太郎『海辺の光景』の戦後的主題...
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海辺の光景の鮮やかすぎるワンシーン
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私は安岡と小島、両方の作品を読んでみた。
まず安岡の作品は、母が狂死してしまうまでの精神病院での9...
その9日間の間にそれまでの家族の(特に母の)思い出が順々...
この母は獣医である夫を毛嫌いし、息子に夫の不在の代償を償...
息子は結核によって家で寝ており、戦地から父が復員してくる...
この一家は父の(主人の)不在によって成り立っていて、
この時代は日本全国的に貧乏で困窮していたのだろう。この母...
夫が定職につかず、落ち着いた住処を得られないことなどの切...
この父親は悪人ではないが、なぜそれほど家族から疎まれたの...
しかし病院で褥瘡の手当をする際に、あまりの痛みに母が目を...
あそこで一言「おとうさん」と言うのが印象的だった。
親孝行をしたかった息子は親孝行しきれずにいたし、父は照れ...
この妻を愛していたに違いないと思わせられるのが、この病院...
また病院で支給される弁当や果物を食すシーンがとても鮮やか...
もののない時代に描かれた大事なワンシーンかと思うと、
夏の暑さも、汗のにおいも、むせぶように目に浮かんできた。
いつの時代もきつい時代である
--------------------------------------
この親孝行を徹しきれない息子は、母に正気でいて欲しいと願...
病院では昏睡状態にあって言葉を発しないが、思い出の中での...
父親も獣医など恥ずかしい仕事とは思えないのに、養鶏をやっ...
無茶ばかり試みる。この息子も結核で翻訳の仕事を生業にして...
戦地に赴くことができないことが何よりの恥だったのかもしれ...
このきつい時代が妙に現代の厳しさと重なり合う。
この母親が特別なのではなく、誰しも一線を越えて、狂気に転...
ただそうなるだけの生き方の癖のようなものがあるのではとも...
一方、小島の小説も心が病んでいる。
家を建てる理由や、アメリカ人の情夫、家政婦のみちよなど、
この小説は全体的に誰しも歪みがあって、狂死してしまう安岡...
キルケゴールの『死にいたる病』ではないが 、
寄り添い信じられるもののない焦燥感や不安感をまざまざと見...
私たちは眠っているように毎日生きていて、眠ったまんまなん...
平凡な日常とはそのようなものなのではないか。
しかし亀裂のようないざという揺れの時に初めて目を覚まし、
あぁ生きている!と感じるようなぼんやりしたものを誰しもが...
そのようなどこまでいっても平行線のような気持ちを小島の小...
なぜごまかし続けて生きてゆけるのか、素直になれないのか、
小島の小説も一家が揃うことによって歪みはより大きくなり、
予定調和が崩れてしまう危機を感じた。
愛に飢餓したふたつの作品
----------------------------------------
この二つの作品を比べてみて、戦後日本は負け、それでも生き...
いまのように余裕がないから、「いかに生きるか」ではなく、
毎日を必死に生きるその日暮らしの印象が強い。
夢や理想はどんな時代にもあっただろうに夫や妻の不在、
心の不在によって家族が円滑に成り立つとは皮肉である。
特に小島の小説では生活水準に豊かさを感じるのに、誰も現状...
一体、俊介も時子も娘も何を求めていたのだろう。
もう少し質素でも十分な愛があればよかったのではなかろうか。
そういう意味では安岡の小説も愛に飢えている。
母の病気は夫の不在とそれに伴う淋しさと愛への飢餓感が原因...
宗教があれば解決するとは言い難いが、もう少し互いを思いや...
生きるのに必死で他者を思いやる余裕などなかったのだろうか。
ふとキリスト教の「隣人を愛せ」という言葉を思い出した。
安岡や小島の小説は自己肯定感が薄く、自我が壊れていってし...
時子の情事をきっかけに家庭が壊れたというより、
時子にはやはりそういった素質があったのだと思う。
また戦後に限らずいまの時代も核家庭は多い。
ただいまと違うのは、皆が必死に生きていたということだ。
その必死さがこの二作品から大きく感じた1番の魅力でもある。
生きるための必死さや汗を流すという行為は人として尊い。
私は小島のツンとすました抱擁家族も現代的だが、
安岡の暑さをしのぎながら母を見舞う、盛夏のほうがよりここ...
@@reference: 小島信夫,抱擁家族,講談社文芸文庫,1988,p1-p29...
@@reference: 安岡正太郎,海辺の光景,新潮社改版,2000,p1-p33...
@@author:きり@@
@@accept:2019-12-10@@
@@category:文学@@
@@id:kojima&yasuoka@@
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小島信夫『抱擁家族』安岡章太郎『海辺の光景』の戦後的主題...
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海辺の光景の鮮やかすぎるワンシーン
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私は安岡と小島、両方の作品を読んでみた。
まず安岡の作品は、母が狂死してしまうまでの精神病院での9...
その9日間の間にそれまでの家族の(特に母の)思い出が順々...
この母は獣医である夫を毛嫌いし、息子に夫の不在の代償を償...
息子は結核によって家で寝ており、戦地から父が復員してくる...
この一家は父の(主人の)不在によって成り立っていて、
この時代は日本全国的に貧乏で困窮していたのだろう。この母...
夫が定職につかず、落ち着いた住処を得られないことなどの切...
この父親は悪人ではないが、なぜそれほど家族から疎まれたの...
しかし病院で褥瘡の手当をする際に、あまりの痛みに母が目を...
あそこで一言「おとうさん」と言うのが印象的だった。
親孝行をしたかった息子は親孝行しきれずにいたし、父は照れ...
この妻を愛していたに違いないと思わせられるのが、この病院...
また病院で支給される弁当や果物を食すシーンがとても鮮やか...
もののない時代に描かれた大事なワンシーンかと思うと、
夏の暑さも、汗のにおいも、むせぶように目に浮かんできた。
いつの時代もきつい時代である
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この親孝行を徹しきれない息子は、母に正気でいて欲しいと願...
病院では昏睡状態にあって言葉を発しないが、思い出の中での...
父親も獣医など恥ずかしい仕事とは思えないのに、養鶏をやっ...
無茶ばかり試みる。この息子も結核で翻訳の仕事を生業にして...
戦地に赴くことができないことが何よりの恥だったのかもしれ...
このきつい時代が妙に現代の厳しさと重なり合う。
この母親が特別なのではなく、誰しも一線を越えて、狂気に転...
ただそうなるだけの生き方の癖のようなものがあるのではとも...
一方、小島の小説も心が病んでいる。
家を建てる理由や、アメリカ人の情夫、家政婦のみちよなど、
この小説は全体的に誰しも歪みがあって、狂死してしまう安岡...
キルケゴールの『死にいたる病』ではないが 、
寄り添い信じられるもののない焦燥感や不安感をまざまざと見...
私たちは眠っているように毎日生きていて、眠ったまんまなん...
平凡な日常とはそのようなものなのではないか。
しかし亀裂のようないざという揺れの時に初めて目を覚まし、
あぁ生きている!と感じるようなぼんやりしたものを誰しもが...
そのようなどこまでいっても平行線のような気持ちを小島の小...
なぜごまかし続けて生きてゆけるのか、素直になれないのか、
小島の小説も一家が揃うことによって歪みはより大きくなり、
予定調和が崩れてしまう危機を感じた。
愛に飢餓したふたつの作品
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この二つの作品を比べてみて、戦後日本は負け、それでも生き...
いまのように余裕がないから、「いかに生きるか」ではなく、
毎日を必死に生きるその日暮らしの印象が強い。
夢や理想はどんな時代にもあっただろうに夫や妻の不在、
心の不在によって家族が円滑に成り立つとは皮肉である。
特に小島の小説では生活水準に豊かさを感じるのに、誰も現状...
一体、俊介も時子も娘も何を求めていたのだろう。
もう少し質素でも十分な愛があればよかったのではなかろうか。
そういう意味では安岡の小説も愛に飢えている。
母の病気は夫の不在とそれに伴う淋しさと愛への飢餓感が原因...
宗教があれば解決するとは言い難いが、もう少し互いを思いや...
生きるのに必死で他者を思いやる余裕などなかったのだろうか。
ふとキリスト教の「隣人を愛せ」という言葉を思い出した。
安岡や小島の小説は自己肯定感が薄く、自我が壊れていってし...
時子の情事をきっかけに家庭が壊れたというより、
時子にはやはりそういった素質があったのだと思う。
また戦後に限らずいまの時代も核家庭は多い。
ただいまと違うのは、皆が必死に生きていたということだ。
その必死さがこの二作品から大きく感じた1番の魅力でもある。
生きるための必死さや汗を流すという行為は人として尊い。
私は小島のツンとすました抱擁家族も現代的だが、
安岡の暑さをしのぎながら母を見舞う、盛夏のほうがよりここ...
@@reference: 小島信夫,抱擁家族,講談社文芸文庫,1988,p1-p29...
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@@author:きり@@
@@accept:2019-12-10@@
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