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=========================================================...
紺ちゃん
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紺ちゃんとの出会い
===============================
紺ちゃんと最初に出会ったのは私たちが団地に引っ越してから、
月に一度あるお掃除の日だった。紺ちゃんは六十代を越したく...
髪はパンチパーマで短く刈り上げており、
カラフルな原色を好むのか黄色いセーターに赤いズボンを履い...
いつも白い花柄のエプロンをしていて、忙しそうに立ち回って...
まわりの人からの信頼も厚く紺ちゃんを慕う人はたくさんいた。
私は二棟ある団地のうちの自転車置き場を重点的に掃除する係...
紺ちゃんは花畑の手入れをしていた。
団地の役員をやっているのか、わからないことはなんでも紺ち...
私は紺ちゃんと話をするようになった。最初は無愛想で仏頂面...
私が新婚で入居したとわかると、途端に満面の笑みを浮かべ、
赤ちゃんの話やこれまで住んでいた場所の話を盛んに聞いてき...
紺ちゃんは旦那さんとはもう死に別れて、今は娘が三人いる。
子供たちはみんな独立していて、団地には紺ちゃんと孫のミド...
ひょっとしたことから紺ちゃんと仲良くなって、おうちに遊び...
これまで以上に紺ちゃんの魅力に惹きつけられた。
紺ちゃんの旦那さんは新宿の思い出横丁が大好きで、
昼過ぎから飲みに歩き、帰ってくるのはいつも朝。景気のいい...
お酒のせいで紺ちゃんは随分悩まされたのだと懐かしそうに話...
団地には紺ちゃんの旦那さんといつも飲み歩いた親父さんが何...
お掃除の時にも懐かしそうに話し込むおばさんたちがいた。
ちらし寿司の思い出
======================================
私はこれまで団地暮らしを戦々恐々という気持ちでちょっと怖...
紺ちゃんのおかげでだいぶ噂話や井戸端会議を楽しめるように...
団地に若い人は珍しく、私たちはいつも話の種になっていたけ...
その度に紺ちゃんは私の味方をしてくれた。紺ちゃんの部屋は...
一番上の階だ。そこからは富士山もよく見える。
昭和六十三年の建物だから新しくはないけれど、
紺ちゃんの部屋のごちゃまぜのものの多い部屋はなんだか懐か...
私は大好きだった。そして紺ちゃんの淹れるお茶もごはんも好...
お茶は遊びに来ている人数分、
パッとお湯を沸かして色とりどりの不揃いのカップに紅茶や緑...
台所に立つことをちっとも苦にしてなくて、おなかをすかして...
すぐにごはんを食べさせてくれた。春の花見のピクニックの日...
期待されていて、大きなお重にちらし寿司を三段、作ってくれ...
お漬物や梅干し、ちょっとしたお惣菜も、
台所仕事の苦手な私のために紺ちゃんはよく差し入れしてくれ...
紺ちゃんは祈るのが大好きな人で、いつも小さな手を合わせて...
お数珠をすり合わせるようにガチャガチャいわせるのが独特で、
私は吸いつけられるように見入ってしまった。
紺ちゃんの家と私の家の間取りは一緒のはずなのに、
紺ちゃんの家の方が私ははるかに落ち着けた。
ウチの旦那さんはナイーブなところがあって、人が作ったもの...
最初、紺ちゃんの差し入れに顔をしかめていたけれど、
私が紺ちゃんについて説明を重ねるたびに、安心したのか食べ...
夫もちらし寿司はお気に入りだった。
ちなみに私は春のピクニックの日にはフキノトウの味噌和えを...
最初、ジャーマンポテトにしたら、高齢の人にバターは人気が...
犬猿の仲もなんのその
================================
ところで紺ちゃんの部屋にはふすまに大きな穴があった。
小さな子供が通れるくらいの穴だ。私があれはなんですか?と...
紺ちゃんが名前を呼んでとある生き物がぬっと出てきた。なん...
お猿は紺ちゃんの肩の上にピョンと飛び乗り、
長い尻尾を紺ちゃんの腕に絡ませて私のことを仕切りにうかが...
私はしばらく口がきけなかった。団地で大胆不敵にも猿を飼う...
しかし紺ちゃんは犬と猿を飼っていたのだ。
犬猿の仲じゃないんですか?と質問すると、幼い頃から一緒だ...
大丈夫なのよといって、なんせ私は動物が好きだから、
あったかいものがそばにいないとダメなのよねと笑った。
お猿はふすまに大きな穴を開け、そこから出入りしては、
いつもいたずらを繰り返していた。トイプードルのハルちゃん...
私はお猿が苦手だった。そのうちに月日が流れて、お猿は死ん...
紺ちゃんもがんを克服したり、お昼は手を抜いて西友のお弁当...
孫のミドリさんも結婚したりと歳をとってさまざま変化した。
久しぶりに遊びに行くとふすまには大きな花柄の和紙が貼って...
紺ちゃん、ふすまは直さないの?と聞くと、もういいんだよ。
それに私はお猿が一番可愛かったからいつでも思い出せるだろ...
ごちゃまぜで決して洒落てはいない、そんな紺ちゃんの部屋が...
新婚時代の苦しいときは私の逃げ場所だったのだ。
あんな風に人が落ち着ける空間をそっと差し出せる、
お茶淹れの上手なおばさんになりたいなと私は密かに思ってい...
ふすまを見るとついつい紺ちゃんを思い出してしまう。
紺ちゃん目指して
============================
そんな私も今は団地のフラワーロードを整備したり、防災役員...
近所のおばさんたちが怖くて、耳を塞ぐように生きていた日々、
いつでも私の味方をしてくれた紺ちゃんを私は決して忘れない。
紺ちゃんを思い出すたびに私の心にはぽっかり穴があく。
その穴がいつの日か塞がるころには私もすっかりおばあちゃん...
目立たないようでいて、縁の下の力持ち、
この人はここになくてはならない人というのがいるけれど、紺...
今は私も貧しさを脱して、ウサギを一匹飼っている。
酒好きなのはウチも一緒だ。春になるとちらし寿司を思い出す。
今日も桜が咲いている。紺ちゃん元気かな?
@@author:きり@@
@@accept:2020-01-04@@
@@category:小説@@
@@id:navyaunt@@
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紺ちゃん
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紺ちゃんとの出会い
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紺ちゃんと最初に出会ったのは私たちが団地に引っ越してから、
月に一度あるお掃除の日だった。紺ちゃんは六十代を越したく...
髪はパンチパーマで短く刈り上げており、
カラフルな原色を好むのか黄色いセーターに赤いズボンを履い...
いつも白い花柄のエプロンをしていて、忙しそうに立ち回って...
まわりの人からの信頼も厚く紺ちゃんを慕う人はたくさんいた。
私は二棟ある団地のうちの自転車置き場を重点的に掃除する係...
紺ちゃんは花畑の手入れをしていた。
団地の役員をやっているのか、わからないことはなんでも紺ち...
私は紺ちゃんと話をするようになった。最初は無愛想で仏頂面...
私が新婚で入居したとわかると、途端に満面の笑みを浮かべ、
赤ちゃんの話やこれまで住んでいた場所の話を盛んに聞いてき...
紺ちゃんは旦那さんとはもう死に別れて、今は娘が三人いる。
子供たちはみんな独立していて、団地には紺ちゃんと孫のミド...
ひょっとしたことから紺ちゃんと仲良くなって、おうちに遊び...
これまで以上に紺ちゃんの魅力に惹きつけられた。
紺ちゃんの旦那さんは新宿の思い出横丁が大好きで、
昼過ぎから飲みに歩き、帰ってくるのはいつも朝。景気のいい...
お酒のせいで紺ちゃんは随分悩まされたのだと懐かしそうに話...
団地には紺ちゃんの旦那さんといつも飲み歩いた親父さんが何...
お掃除の時にも懐かしそうに話し込むおばさんたちがいた。
ちらし寿司の思い出
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私はこれまで団地暮らしを戦々恐々という気持ちでちょっと怖...
紺ちゃんのおかげでだいぶ噂話や井戸端会議を楽しめるように...
団地に若い人は珍しく、私たちはいつも話の種になっていたけ...
その度に紺ちゃんは私の味方をしてくれた。紺ちゃんの部屋は...
一番上の階だ。そこからは富士山もよく見える。
昭和六十三年の建物だから新しくはないけれど、
紺ちゃんの部屋のごちゃまぜのものの多い部屋はなんだか懐か...
私は大好きだった。そして紺ちゃんの淹れるお茶もごはんも好...
お茶は遊びに来ている人数分、
パッとお湯を沸かして色とりどりの不揃いのカップに紅茶や緑...
台所に立つことをちっとも苦にしてなくて、おなかをすかして...
すぐにごはんを食べさせてくれた。春の花見のピクニックの日...
期待されていて、大きなお重にちらし寿司を三段、作ってくれ...
お漬物や梅干し、ちょっとしたお惣菜も、
台所仕事の苦手な私のために紺ちゃんはよく差し入れしてくれ...
紺ちゃんは祈るのが大好きな人で、いつも小さな手を合わせて...
お数珠をすり合わせるようにガチャガチャいわせるのが独特で、
私は吸いつけられるように見入ってしまった。
紺ちゃんの家と私の家の間取りは一緒のはずなのに、
紺ちゃんの家の方が私ははるかに落ち着けた。
ウチの旦那さんはナイーブなところがあって、人が作ったもの...
最初、紺ちゃんの差し入れに顔をしかめていたけれど、
私が紺ちゃんについて説明を重ねるたびに、安心したのか食べ...
夫もちらし寿司はお気に入りだった。
ちなみに私は春のピクニックの日にはフキノトウの味噌和えを...
最初、ジャーマンポテトにしたら、高齢の人にバターは人気が...
犬猿の仲もなんのその
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ところで紺ちゃんの部屋にはふすまに大きな穴があった。
小さな子供が通れるくらいの穴だ。私があれはなんですか?と...
紺ちゃんが名前を呼んでとある生き物がぬっと出てきた。なん...
お猿は紺ちゃんの肩の上にピョンと飛び乗り、
長い尻尾を紺ちゃんの腕に絡ませて私のことを仕切りにうかが...
私はしばらく口がきけなかった。団地で大胆不敵にも猿を飼う...
しかし紺ちゃんは犬と猿を飼っていたのだ。
犬猿の仲じゃないんですか?と質問すると、幼い頃から一緒だ...
大丈夫なのよといって、なんせ私は動物が好きだから、
あったかいものがそばにいないとダメなのよねと笑った。
お猿はふすまに大きな穴を開け、そこから出入りしては、
いつもいたずらを繰り返していた。トイプードルのハルちゃん...
私はお猿が苦手だった。そのうちに月日が流れて、お猿は死ん...
紺ちゃんもがんを克服したり、お昼は手を抜いて西友のお弁当...
孫のミドリさんも結婚したりと歳をとってさまざま変化した。
久しぶりに遊びに行くとふすまには大きな花柄の和紙が貼って...
紺ちゃん、ふすまは直さないの?と聞くと、もういいんだよ。
それに私はお猿が一番可愛かったからいつでも思い出せるだろ...
ごちゃまぜで決して洒落てはいない、そんな紺ちゃんの部屋が...
新婚時代の苦しいときは私の逃げ場所だったのだ。
あんな風に人が落ち着ける空間をそっと差し出せる、
お茶淹れの上手なおばさんになりたいなと私は密かに思ってい...
ふすまを見るとついつい紺ちゃんを思い出してしまう。
紺ちゃん目指して
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そんな私も今は団地のフラワーロードを整備したり、防災役員...
近所のおばさんたちが怖くて、耳を塞ぐように生きていた日々、
いつでも私の味方をしてくれた紺ちゃんを私は決して忘れない。
紺ちゃんを思い出すたびに私の心にはぽっかり穴があく。
その穴がいつの日か塞がるころには私もすっかりおばあちゃん...
目立たないようでいて、縁の下の力持ち、
この人はここになくてはならない人というのがいるけれど、紺...
今は私も貧しさを脱して、ウサギを一匹飼っている。
酒好きなのはウチも一緒だ。春になるとちらし寿司を思い出す。
今日も桜が咲いている。紺ちゃん元気かな?
@@author:きり@@
@@accept:2020-01-04@@
@@category:小説@@
@@id:navyaunt@@
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