============================== 手投げ人工衛星 ============================== 人工衛星を打ち上げるには,宇宙ロケットを使った大規模な作業が必要ですね. それを,「手で投げてもできるよ」と言う人がいたらどうでしょう. ちょっとアレな人かな,と訝しんでしまいます. ところが,ある場合では手で人工衛星を打ち上げることもできるんです. それは重力が小さい場合,です. 重力は星の質量に比例しますから,地球よりもずっと軽い(小さい)星でなら, 手で投げても十分人工衛星を打ち上げられるわけです. そんな星に行けるかどうかはさて置いて, 頭の中でだけ考えてみるのも面白いので,少し考えてみましょう. 人工衛星とは --------------------- はじめに,人工衛星とはどういったものか,を簡単に整理しておきます. 衛星 ^^^^^^^^^^^^^^ 人工衛星の前に,そもそも衛星とはなにかを知る必要があります. 夜空に浮かぶ月は,地球の衛星です. 月が地球のまわりをぐるぐる回っているのは,ご存知のことと思います. このような天体を衛星と言います. 人工衛星 ^^^^^^^^^^^^^^ 人工的につくられた衛星が,人工衛星です(そのまんまですね). おもに通信や観測などを目的としてつくられ,地球のまわりに多数存在します. 天気予報でおなじみの気象衛星もその一つです. 宇宙ステーションやスペースシャトルも地球を周回していますが, これらは普通,人工衛星とは呼ばないようです. ところで人工衛星,たまに肉眼でも確認できます. 夜中に空をみていると,光っている星のようなものが 直線的に動いていることがあります. はじめて見たときは「UFOか!?」とビックリしますが,それは人工衛星です. まだ見たことがない方は,注意して夜空を眺めてみましょう. 遥か彼方を航行する人工物を見たあかつきには,科学ってすごいな,と感動すること請け合いです. 衛星が周回し続ける理由は? ---------------------------- 月や人工衛星は地球のまわりをぐるぐると回っているのですが, その動力源はいったいなんなのでしょう. 実は,基本的には「落ちている」だけなのです. たとえば,高いところから石ころを放すと,特に力を与えなくても下に向かって進みますね. その理由を,物理では「地球が石を引っ張っている」と解釈します [*]_ . この引っ張る力が重力 [*]_ であり,その力の法則が万有引力の法則です. .. [*] 本当は二つの物体間(地球と石)にそれぞれ力が働いているのですが, 石が地球を引く力はあまりに小さいので,地球は動かないとして良いのです. .. [*] 単に重力といった場合,地球上の物体が,地球の各部分から受ける万有引力の合力ことを指します. さらに,地球は自転していますので,地上の物体には遠心力が働きます. ですので,地上で観測される重力とは万有引力と遠心力の合力となります. さて,普通に石ころを落とすと地面にぶつかり,そこで止まってしまいます. では少し遠くに投げたらどうでしょうか. 遠くまで飛んでも,やはり地面にぶつかって止まりますね. さらに遠くまで飛ばします.するとさらに遠くの地面で止まります. .. image:: handsatellite1.png ここで一つ,重要なことを思い出します.地球は球である,ということです. もの凄く遠くまで石ころを投げると,やはり途中で落ちているわけですが, 地球が丸いために落ちた分がキャンセルされ,地面につかないことになるのです. .. image:: handsatellite2.png それはつまり,ずっとずっと地球中心に向かって落ち続けるということです. これが,月や人工衛星が地球をぐるぐると回り続けている理由です. もの凄く遠くまで石を投げるには,もの凄い初速度(投げるときの速度)を与える必要があります. それを人類は,ロケットという技術で実現したんですね. 宇宙速度 ^^^^^^^^^^^^^^^ 初速度が小さければ投げた物体は地球表面に落ちますが, 初速度を大きくして行くと,やがて投げられた物体は地球を周回するようになります. このとき,円を描いて周回します. そしてそのときの初速度は,第1宇宙速度と呼ばれます. さらに初速度を大きくすると楕円軌道になり, さらにさらに大きくすると地球の重力から離れてどこかへ飛び去ってしまいます. このときの初速度には第2宇宙速度という名前が付いています. 第1宇宙速度の大きさ --------------------- もう少し具体的に,衛星を周回させるために必要な初速度,第1宇宙速度を考えてみましょう. ここからは,投げる物体のことを人工天体と呼ぶことにします. 質量がそれぞれ $M$ と $m$ の二つの物体間に働く 万有引力 $F$ は .. _eq1: F = G\frac{Mm}{r^2} \tag{1} という法則で表されます.ここで $G$ は万有引力定数という定数, $r$ は物体間の距離です. $M$ の方を惑星の質量, $m$ の方を人工天体の質量としておきます. つぎに,運動方程式を考えます.地球のまわりを人工天体が円運動するとします. 人工天体が衛星として地球を周回するときの高度を十分低いものとする [*]_ と, 回転半径は地球の半径と同じ $r$ で表すことができます. 人工天体の速度を $v$ とすると,円運動の方程式は .. _eq2: m\frac{v^2}{r} = F \tag{2} で表されます. .. [*] このように設定したときの速度が第1宇宙速度です. `式(1)`_ と `式(2)`_ から m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2} となり, $v=$ に変形すると .. _eq3: v = \sqrt{\frac{GM}{r}} \tag{3} となることが分かります.これがいか程の大きさか計算してみます. 万有引力定数 $G=6.67\times10^{-11}\,\mathrm{[N\cdot m^2/kg^2]}$ , 地球質量 $M=6.0\times10^{24}\,\mathrm{[kg]}$ , 地球半径 $r=6.4\times10^6\,\mathrm{[m]}$ を代入して計算すると v = 7.9\times10^3\,\mathrm{[m/s]} という値が得られます. これを時速に直す( $60\times60$ を掛けて $10^3$ で割る)と v = 2.8\times10^4\,\mathrm{[km/h]} です.時速二万八千キロ.とても手で投げて得られる速度ではありません. 人工衛星を手投げで打ち上げるには ------------------------------------ 地球上で人工衛星を打ち上げるには,時速二万八千キロという猛烈な初速度が必要なことが分かりました. そしてこの速度は, `式(3)`_ から惑星の質量 $M$ に比例し, 半径 $r$ に逆比例することが見て取れます. .. _式(1): #eq1 .. _式(2): #eq2 .. _式(3): #eq3 @@reference:ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F%E3%81%AE%E8%BB%8C%E9%81%93,人工衛星の軌道@@ @@author:崎間@@ @@accept:査読中@@ @@category:力学@@