========================================= エネルギー問題のだいいっぽ ========================================= 夜は昼間のように明るくなり,高速なネットワークで結ばれた世界各地で情報が飛び交い, そして私たちの活動が地球の気象に影響を及ぼすまでに,人類は発展してきました. 人類の発展は,エネルギーの生産,そしてエネルギー消費量の増大なしには成されませんでした. そのエネルギーとは何なのか,なくなってしまったらどうなるのか, 現在のエネルギー事情はどうなっていて,どのように変化するのか, 私たちはそれを知り,考える必要があります. ……と,たいそうな前置きですが,それほど高尚な内容は 書いていません(書けませんでした)ので, 気軽に読んで「ふーん」と思ってみてくだされば幸いです. エネルギーとは ---------------------------------------- エネルギーとは,物理で良く出てくるはおなじみの量です. 簡単に復習しておきますと, - あるモノが他のモノに対して仕事をする能力をもっているとき, そのモノはエネルギーをもっている と決められた量でした.「エネルギー問題」でのエネルギーも同様に,何らかの仕事をするものです. 仕事とは,たとえばテレビをつけたり,車を動かしたり,冷暖房を運転したりするものです. 「仕事」と「エネルギー」とは相互に換算できる量です. 単位として,ジュール(記号 $\mathrm{J}$ ), 電子ボルト_ (記号 $\mathrm{eV}$ ), カロリー(記号 $\mathrm{cal}$ ) [*]_ などが使われます. .. [*] カロリーという言葉は,日常生活ではよく耳にしますね. あれは,食品を食べることで摂取できるエネルギーの量を表しているのです. 私たちに身近なエネルギーは,電気エネルギーでしょうか. コンセントに製品をつなげば,いろいろな働きをしてくれます. しかし,自然界に電気エネルギーが単体で存在しているわけではなく, 発電所によって発電されたものだということはご存じでしょう. その発電は,多くの場合,モーターの逆の原理で「仕事」を「電力」に換えています. たとえば石油は火を付けると燃えますが,その熱でお湯を沸かし, そこでできた水蒸気により「タービンを回す」という「仕事」をさせて, 電力に変換しているのが火力発電です.電力は仕事によって変換されたもので, 電力もまた仕事に変換するということができるのですね. そういった,仕事をする能力のようなものを,エネルギーと呼びます. 人口推移,三つのきっかけ ----------------------------------------- 現在に至る歴史の中,文明の一つの指標である人口の推移を見ると, それが爆発的に増加する三つの時期があります.それぞれ 1. 火の発見 2. 太陽エネルギーの固定 3. 蓄積された太陽エネルギーの解放 という「エネルギー」に関する事柄に対応します. 簡単なグラフで表すと,つぎのようになります. .. image:: sakima-enagyIntro-01.png 「火の発見」とはその名の通りですね.人類は火を扱うことで, 闇を照らしたり,寒さを避けたりできるようになりました. 食生活も豊かなものになりました. 「太陽エネルギーの固定」とは,農耕と牧畜により食物を生産・保存した, 約一万年前の農耕革命に相当します(イネ科の植物を栽培しはじめたそうです). 植物は太陽光により光合成してエネルギーをつくりだします. それを自然任せではなく,人為的に扱うという意味で「固定」ということですね. 「蓄積された太陽エネルギーの解放」とは石炭など化石燃料の消費のことです. 太陽エネルギーの解放は,化石燃料資源の利用が本格的になった産業革命に対応しています. 産業革命は人類とエネルギーの最も大きな転換期です. 現在,さらに原子力エネルギー(核分裂炉の利用)が加わっています. 現在のエネルギー事情 ----------------------------------------- 石炭,石油,天然ガスに代表される化石燃料は, 地球の長い歴史の中で蓄えられたものですから,当然ながら有限です. 現在のペースで消費を続け,石油・天然ガス・石炭・ウランが 後どれくらいもつのかを示した図が,つぎのものです. .. image:: sakima-enagyIntro-02.png この手の図はなにかと登場するしていますので,見かけた人も多いかもしれません. あくまで「現在確認されている」資源がどれくらいもつかですので, 場合場合によって多少増減しています.もう少し増えるかもしれません. ですが,そう遠くない将来,これらの資源が枯渇することは避けられないでしょう [*]_ . .. [*] 原子炉の動力源となるウランですら,この図では残り85年と記されています. 「えっ,たったそれだけ?」と意外に思いませんでしたか? ウランそのものは自然界に豊富に存在しているのですが,核分裂反応を起こすのは ウラン235という同位体で,天然ウラン中に約 0.7% しか存在していません. ですから,原子炉の燃料として使えるウランは少量なのです. しかし,人類は核分裂反応を起こさない方のウランをプルトニウムに核変して, ウラン資源をあますことなく利用する方法を考え出しました.それが「高速増殖炉」です. 高速増殖炉により,ウラン資源の利用率は100倍以上に向上すると言われています. が,同時に技術的困難や,原理的な危険性が問われています. また,石油・石炭などの化石燃料は $\mathrm{CO_2}$ , $\mathrm{CH_4}$ など 温室効果ガスによる近年の地球温暖化, $\mathrm{NO_x}$ , $\mathrm{SO_x}$ ガスによる酸性雨など, 環境問題に大きなマイナス影響を与えています. ですから,現在のままのエネルギー消費をずっと続けるということは,長い目で見ると非常にキビシイのです. 環境に適合した新しいエネルギー資源の確保は, 私たちが直面し,早急に解決をせまられている重要な課題となっています. どうすればいいのか ---------------------------------------- 冒頭で書いたように,エネルギーは 人類にとって必要不可欠なものになっています. これが安定供給されなくなってしまうと,どうなるでしょうか. 電気もつかなくて車も動かなければ, 非常に困ったことになるというのは容易に想像できます. 困るどころか,生死にも関わる深刻な問題に発展するでしょう. 世界各国は,限られたエネルギー資源を確保すべく競い合い, 下手をすれば世界大戦にならないとも限りません. では,エネルギー消費を減らすのが一番良いのでしょうか. もしも新たなエネルギー源を確保できなければ,その方法しかありません. 日々の生活を見直し,無駄を省くことが大変重要であることは,いうまでもありません. それですべて解決すれば良いのですが,無駄を省き節約するということはつまり, 経済的な低迷を生み出すことにも繋がります. そして,現在の便利な生活を抜けることができない [*]_ という, 心の弱さと言って良いのかどうか分かりませんが,そういった問題もあります. .. [*] 現に僕は今,この原稿をパソコン,ネットワーク,蛍光灯,扇風機, 冷蔵庫から出した冷たい飲み物などなど, エネルギー消費と引き替えに得られた快適な状況で書いています. 研究者のなかには,資源が減少すれば飢饉や戦争が起こり, それによって世界人口が激減し,結果としてエネルギー消費量が減るので 再びバランスが保たれると主張する人もいます. たしかにそれはあり得る話ですが,できる限り,そのような惨事は避けたいものです. こういた大掛かりな問題に,私たちはどう取り組めばいいのでしょうか. 問題が大き過ぎて,なかなか実感が湧きません. ですがきっと,大切なのは「自分とはかけ離れた問題」と見なすのではなく, 「少しでも関心を示すこと」だと思います.それが第一歩ではないでしょうか. 不自由なく科学を学ぶことのできる先進国に生きる私たちの責任を果たす, そう言うと大風呂敷かもしれませんが,そんなことも考えながら科学を学び, 正しく使って行ける人になりたいものです. .. _電子ボルト: http://www12.plala.or.jp/ksp/elemag/ev/index.html @@reference: mext-atm.jst.go.jp/atomica/01010201_1.html, 人類とエネルギーとのかかわり(原子力百科事典 ATOMICA)@@ @@author: 崎間@@ @@accept: 査読中@@ .. @@category: エネルギーのもんだい@@