================================ 和と積分との関係(リーマン積分) ================================ 積分される物理量が発散しないかぎり、その積分によって特徴付けられる物理量は本質的にはリーマン和で定義できます。 思考的に現象を考えるときはいつも和でその物理量を考え、その極限としてリーマン積分が存在するのだと認識するのがイメージ化を簡単にします。 もちろん計算の上では色々な計算のテクニックを使いながら、積分値を求めていきます。 ところでこの記事の主題ですが、それはなめらかな関数(区分的に連続で有界な関数)の和と積分との関係について理解する事です。 ですから数学的な厳密性や実際の計算方法は別の記事に任せる事にします。 1.積分とは何だろう ----------------------- よく「微分と積分は逆演算だよ」と高校生の頃から教えられてきていると思います。まさにその通りで、物理で使うときも 多くの場合、微分の逆の効果を期待して使っています。例えば速度が分かっているときに加速度を知りたければ微分をつかって求めます。 ではその逆の場合は何をしますか。そう、加速度を積分するのです。このセクションではまず積分をよく知っている微分との関わり を明確にします。次に和とリーマン和の違いを確認し、セクション2.で説明される規格化因子に話をつなげようと思います。 微分の逆演算としての積分 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ 積分を微分の逆演算であるとして定義していきます。 1変数関数 $F(x)$ の導関数を $f(x)$ とします。次のように変数 $x$ に番号付けをしておきます( ${\Delta_{max}}$ :分割の大きさの最大値)。 &x_{0} = a 平均値の定理より次の事が書けます。 &\frac{F(x_{i}) - F(x_{i-1})}{x_{i} - x_{i-1}} = f(\xi_{i}) \tag{5}\\ &f({\xi_{i}}) \Delta_{i} = F(x_{i}) - F(x_{i-1}) \tag{6} 次に $\tag{6}$ の両辺の和をとると次のように書けます。 \sum_{i=1}^{n} [F(x_{i}) -F(x_{i-1}))] &= [F(x_{n}) -F(x_{n-1})] +[F(x_{n-1})-F{x_{n-2}}] + \cdot\cdot\cdot + [F(x_{2}) - F(x_{1})] +[F(x_{1})-F(x_{0})]\\ &= F(x_{n}) -F(x_{0}) = F(b) - F(a) \\ \therefore \sum_{i=1}^{n} [\Delta_{i} f(\xi_{i})] = F(b) -F(a) \tag{7} これをリーマン和とよびます。これは関数 $f(x)$ の定積分の値に一致します。しかし $x$ を底辺 ${f(x)}$ を高さとしたとき、 リーマン和は元の図形に似た面積の大きさの等しいカクカクした多角形の面積を求めている事になります。 このことは実際に後で計算で示します(セクション2."簡単な例"を参照)。ここで更に補足しておきますと、リーマン和は $[a,b]$ における積分値に 対しては正しい結果を与えます。しかし同じ分割で、その途中の過程では正しい結果を与える事はできません。 これでは微分の逆演算でもないし、物理で使うにしても一つの区間 $[a,b]$ でしか正しい結果を与えない、 なんとも貧弱な道具にしかならないのです。そこで分割の大きさ ${|\Delta| \to 0}$ の極限を考えると、 もとの図形の形に収束する事が分かるので、次に $\tag{5}$ の ${|\Delta| \to 0}$ の極限をとった場合を考えてみましょう。 すると $\tag{5}$ 式は微分の定義式 \lim_{|\Delta| \to 0}\frac{F(x_{i}) - F(x_{i-1})}{x_{i} - x_{i-1}} = f(\xi_{i}) \tag{8} になり、 $\tag{6}$ 式はリーマン積分の定義式 \lim_{ |\Delta| \to 0 } \sum_{i=1}^{n} [\Delta_{i} f(\xi_{i})] = F(b) - F(a) \tag{9} になります。なぜ積分の定義式とよべるかと言うと、この ${\tag{9}}$ は微分の逆演算としての性能を満たしているからです。 それを証明するためにここで積分の始点を固定して終点 ${x_{n}}$ を変数 ${x[a \le x \le b]}$ として積分するときを考えます。 すると $a$ が任意であることに注意して( $C$ :任意定数) \lim_{ |\Delta| \to 0 } \sum_{i=1}^{n} [\Delta_{i} f(\xi_{i})] = F(x) - F(a) = F(x) + C と書くことができます。ここでこの式が導関数 $f(x)$ から逆に $F(x)$ を求めていることから、 確かに微分の逆演算としての性能を満たしている事が示されました。 これをリーマン積分と呼び、次のように書くことにします。 \lim_{ |\Delta| \to 0 } \sum_{i=1}^{n} [\Delta_{i} f(\xi_{i})] \equiv \int_{a}^{b}dxf(x) \tag{A} 和について ^^^^^^^^^^^ 積分が分かったところで、和との関係を調べてみます。 1変数関数 $f(x)$ を離散的に閉区間 ${[a,b]}$ まで和をとったものは次のように書けます。 &\sum_{i=1}^{n} f(\xi_{i}) \tag{10} これはちょうど実験などでデータを取ったものを足し合わせたものと対応しています。 そうすると閉区間 ${[a,b]}$ の間で有限な十分に細かい分割でデータをとると \int_{a}^{b} f(x) dx \sim \sum_{i=1}^{n} f(\xi_{i}) \tag{11} になるはずです。しかしながらこの和を分割の大きさ ${|\Delta | \to 0}$ の極限は存在しません(詳しい計算はおまけとして最後に示してあります)。 次に積分を和と規格化因子の積の極値としてリーマン積分を作ります。 \lim_{ h \to 0 } \left[ h(n) \sum_{i=1}^{n} f(\xi_{i}) \right] = \int_{a}^{b} dx f(x) \tag{12} ここで規格化因子 $h(n)$ は $\tag{8}$ との比較により h(n) = \frac{ \sum_{i=1}^{n}f(\xi_{i}) \Delta_{i} }{ \sum_{i=1}^{n}f(\xi_{i})} \tag{13} を満たす量だと言う事が分かります。 2.規格化因子について --------------------------- 規格化因子とは、和と積分の間の差を埋めるための因子のことです。 ここでは積分する問題の計算を規格化因子と和の積の極限として求める事で、和と積分(リーマン和)とのギャップを理解する事を目標とします。 簡単な例(三角形の面積) ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ まずここでは、一方の角の大きさが $\phi$ で底辺の長さが $C$ の直角三角形の面積を例に規格化因子が正しい結果を導く事を確認します。 このとき関数 ${f(x)= x\tan \phi }$ を閉区間 $[0,C]$ の場合で考えれば良いです。簡単のために ${\xi_{i}}$ は等差数列と考えると &\xi_{i-1} = |\Delta|(i-1) = \frac{C(i-1)}{n} \tag{14}\\ &\xi_{0} = a <\xi_{1}<\xi_{2}< \cdot\cdot\cdot <\xi_{n} = b になります。ここで分割の数が変わるのに対して、区間の方は決まっていることで分割の大きさ ${|\Delta|}$ が ${\frac{C}{n}}$ になるということ、 そして分割の仕方が以前と違うことを補足しておきます。 $\tag{14}$ に $\tag{15}$ 式を代入すると規格化因子は h(n) &= \frac{\sum_{i=1}^{n} \xi_{i}(x_{i} - x_{i-1})}{\sum_{i=1}^{n} \xi_{i}}\\ &= \frac{C}{n}\frac{\sum_{i=1}^{n} \xi_{i}}{\sum_{i=1}^{n} \xi_{i}}\\ &= \frac{C}{n} \tag{15} になります。そして次に $x_{i}$ の和を計算すると \sum_{i=1}^{n}x_{i-1} = \frac{(n-1)(x_{n} + x_{0})}{2} = (n-1)\frac{C}{2}\tag{16} になります。すると $\tag{12}$ より三角形の面積 $S$ は次のようになるはずです( $H$ : 高さ)。 S = \lim_{|\Delta| \to 0} \left[ h(n) \sum_{i=1}^{n+1} f(x_{i-1}) \right] &= \lim_{n \to \infty} \left[ \frac{C}{n} \tan \phi (n-1)\frac{C}{2} \right]\\ &= \frac{C^{2}\tan \phi}{2} \lim_{n \to \infty} \left( 1 - \frac{1}{n} \right) \\ &= \frac{CH}{2} [\because H = C \tan \phi] \tag{17} これは確かに三角形の面積の定義に一致します。ここで分割がずれているときは極限をとらなければ面積の ${\frac{1}{n}}$ 倍だけずれる ことも分かります。最後、確認のために積分でも求めてみると結果は一致している事がわかります。 \int_{0}^{C} x\tan \phi dx &= \tan \phi \left[ \frac{x^{2}}{2}\right]_{0}^{C} \\ &= \frac{C^{2}\tan \phi}{2} = \frac{CH}{2} \\ &= S \tag{18} 問題の簡単化(まとめ) ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ 規格化因子が正しい結果を出す事を確認したので、最後に物理に応用するときに扱う性質のよい関数についてリーマン積分を定義しなおします。 三角形の面積を求める途中で分割の大きさを等しいと仮定しましたが、これはなめらかな関数ではこの定義で十分に積分を定義することができます。 そのときの積分の区間を閉区間 $[a,b]$ とすると規格化因子は $\tag{12}$ と $\tag{14}$ より h = |\Delta| =\frac{b-a}{n} \tag{19} と書くことができます。このときリーマン積分の定義式 $\tag{9}$ は次のように簡単化されます。 \lim_{|\Delta| \to 0} \left[ |\Delta| \sum_{n=1}^{n+1}f(x_{i-1}) \right] = \int_{a}^{b} f(x) dx \tag{20} つまりこのときのリーマン和とは普通の和に極限を持たせるための因子 ${|\Delta|}$ をかけたものと言えます。 3.和が極値を持つための因子(おまけ) -------------------------------------- おまけとして別の角度から規格化因子について考えていきます。ここでは和が極値をもつ事だけを考慮して因子の形を求めていきます。 まず関数の和の性質を知るために、和 $\tag{10}$ の $f(x_{i-1})$ を ${x_{i-1} = x_{0} + |\Delta|(i-1)}$ から ${|\Delta|(i-1)}$ で原点を中心に冪級数展開します。 関数 $f(x)$ が $l$ 回まで微分可能とすると \sum_{i=1}^{n+1} f(x_{i-1}) &= \sum_{i-1}^{n+1} \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} |\Delta|^{k}(i-1)^{k}\\ &= \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} |\Delta|^{k} \sum_{i=1}^{n} (i-1)^{k} \tag{21} と書けます。 ${\sum_{i=1}^{n+1}(i-1)^{k}}$ の最大の $n$ の冪数は $(k+1)$ なので、 $\tag{19}$ から $|\Delta|$ の冪数としては ${-(k+1)}$ になります。 ${|\Delta| \to 0}$ の極限では 消えてしまう ${|\Delta|^{m} [m \ge 1]}$ 以上の項を切り捨てて、冪数 ${-1}$ の項の係数を ${C_{k}^{1}(b-a)^{k+1}}$ 、冪数 ${0}$ の項を ${C_{k}^{2}(b-a)^{k}}$ として $\tag{21}$ に代入すると \sum_{i=1}^{n+1} f(x_{i-1}) \simeq \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} ( C_{k}^{1}|\Delta|^{-1}(b-a)^{k+1} +C_{k}^{2}(b-a)^{k} ) \tag{22} になります。するとこの式から ${|\Delta| \to 0}$ の極限は存在しない事が分かります(発散してしまいます)。 ここで主要項である ${|\Delta|^{-1}}$ の係数を出すにはどうしたら良いのか考えるとすぐに $\tag{20}$ の両辺に ${|\Delta|}$ を かければ良いことに気付きます。これはちょうど積分と和の直接的な比較から得られた規格化因子の形と一致します。最後に ${\tag{20}}$ の両辺に規格化因子をかけて極限をとって おくと次のような格好になります。 \lim_{|\Delta| \to 0} \left[ |\Delta| \sum_{i=1}^{n+1} f(x_{i-1}) \right] &= \lim_{|\Delta| \to 0} \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} ( C_{k}^{1}(b-a)^{k+1} + C_{k}^{2}(b-a)^{k} |\Delta| ) \\ \therefore \int_{a}^{b}f(x)dx &= \sum_{k=0}^{l} \frac{C_{k}^{1}}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=a} (b-a)^{k+1} \qquad [\because (20), x_{0} = a] \tag{23}