================================ 和と積分との関係(リーマン積分) ================================ リーマン積分とはリーマンの考えた定積分の定義のことです。リーマンはセクション1.で定義するように 関数の積分をリーマン和の分割 $\Delta$ の大きさ ${|\Delta| \to 0 }$ の極限として考えます。積分される物理量が発散しないかぎり、 その積分によって特徴付けられる物理量は本質的にはリーマン和で定義できます。 この場合、思考的にはいつも和でその物理量を考え、その極限として積分が存在するのだと認識することをお勧めします。 もちろん計算の上では色々な計算のテクニックを使いながら、積分値を求めていきます。 ここではなめらかな関数の和と積分との関係について考えるに留めて、数学的な厳密さや、計算のテクニックについては別の記事に任せる事にします。 1.リーマン積分の定義 ----------------------- ここではまず、1変数関数の積分を説明していきます。ここで説明する事が全ての基礎になります。 和について ^^^^^^^^^^^ まず1変数関数 $f(x)$ の離散的な和をとったものは次のように書けます。 &\sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) \tag{1} \\ &x_{0} = a これは丁度、実験などでデータを取ったものを足し合わせたものと対応しています。 そうすると閉区間 ${[a,b]}$ の間で有限な十分に細かい分割でデータをとると \int_{a}^{b} f(x) dx \sim \sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) \tag{5} になるはずです。しかしながらこの和を分割の大きさ ${|\Delta | \to 0}$ の極限は存在しません。 つまりそのまま積分になるわけではない事に注意してください。 このことは最後の方で具体的に計算をして説明します。 1変数関数の積分 ^^^^^^^^^^^^^^^^^ 1変数関数 $f(x)$ の閉区間 ${[a,b]}$ の積分に対応するリーマン和 $R$ の定義は次の通りです。 &R \equiv \sum_{i=1}^{n} f(\xi_{i}) \Delta_{i} \tag{6} \\ &x_{0} = a 補足しておきますと ${\xi_{i}}$ は ${x_{i}}$ と ${x_{i-1}}$ の中間値を意味します( ${x_{i-1} \le \xi_{i} \le x_{i}}$ )。また ${\Delta_{max}}$ とは $\tag{3}$ で 定義した ${\Delta_{i} [i=1,2,3,\cdot\cdot\cdot,n]}$ の最大値のことです。 ここで定義されたリーマン和 $R$ の ${|\Delta| \to 0 }$ の極限はリーマン積分として定義されます。数式で書くと \lim_{|\Delta| \to 0 } R = \lim_{|\Delta| \to 0 } \sum_{i=1}^{n} f(\xi_{i}) \Delta_{i} \equiv \int_{a}^{b} f(x) dx \tag{8} です。少し分かりにくいと思いますので、ここで一度あたえられた式を整理していきます。まず $\tag{2}$ と $\tag{3}$ から \sum_{i=1}^{n} \Delta_{i} &=\sum_{i=1}^{n} (x_{i} - x_{i-1}) \\ &= (x_{n} - x_{n-1}) + (x_{n-1} - x_{n-2}) + \cdot\cdot\cdot + (x_{i} - x_{i-1}) + (x_{i-1} - x_{i-2}) +\cdot\cdot\cdot + (x_{2} - x_{1}) + (x_{1} - x_{0}) \\ &= x_{n} - x_{0}\\ &= b-a \tag{9} が言えることに気付きます。 $\tag{9}$ の左辺は $\tag{3}$ と ${\tag{4}}$ から分割の大きさ ${|\Delta|}$ と関係付けることができます。 \sum_{i=1}^{n} \Delta_{i} \le \sum_{i-1}^{n} |\Delta| = n|\Delta| \tag{10} 以上 $\tag{9}$ , ${\tag{10}}$ をまとめるとある有限な値の定数 $C$ を用いて次のような不等式が書けます。 &n |\Delta| \ge b-a = C \\ &\therefore n \ge \frac{C}{|\Delta|}\tag{11} この式より ${|\Delta| \to 0}$ は ${n \to \infty}$ とも書けることに気付きます。またこのとき中間値 ${\xi_{i}}$ についても $\tag{3}$ と $\tag{4}$ から &\xi_{i} = x_{i-1} + \theta \Delta_{i} \le x_{i-1} + \theta |\Delta| \\ &\lim_{|\Delta| \to 0} \xi_{i} \le \lim_{|\Delta| \to 0} \left( x_{i-1} + \theta |\Delta| \right) = x_{i-1}\\ &\therefore \lim_{|\Delta| \to 0} \xi_{i} = x_{i-1} [\because x_{i-1} \le \xi_{i} \le x_{i}] \tag{12} が言えます。以上の結果から結局リーマン積分は次のようにまとめることができます。 \lim_{n \to \infty} \left[ \sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) \Delta_{i} \right] = \lim_{n \to \infty} \left[ h(n) \sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) \right] = \int_{a}^{b} f(x) dx \tag{13} ここで $h(n)$ という量は $\tag{13}$ の左と中央の式を比較する事で h(n) = \frac{ \sum_{i=1}^{n}f(x_{i-1}) \Delta_{i} }{ \sum_{i=1}^{n}f(x_{i-1})} \tag{14} を満たす量だと言う事が分かります。この量は $\tag{5}$ と $\tag{13}$ を比較することで規格化因子という意味合いを持たせる事ができます。 これを求める事はリーマン積分を理解する上で重要です。このことについて簡単な例を使ってセクション3.で説明します。先に簡単なところから 整理していきます。 微分と積分の関係 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ よく「微分と積分は逆演算だよ」と高校生の頃から教えられてきていると思います。それについても説明を加えておきます。 原始関数が $F(x)$ の関数 $f(x)$ の閉区間 ${[x_{i-1},x_{i}]}$ までの積分は $\tag{13}$ から次のように書けます。 &\int_{x_{i-1}}^{x_{i}} f(x) dx = \lim_{|\Delta| \to 0} f(x_{i-1})\Delta_{i} \\ &F(x_{i}) - F(x_{i-1}) = \lim_{\Delta_{i} \to 0} f(x_{i-1}) \Delta_{i} \\ &\therefore f(x_{i-1}) = \lim_{\Delta_{i} \to 0}\frac{F(x_{i}) - F(x_{i-1})}{x_{i} - x_{i-1}} \tag{15} これは関数 $F(x)$ の ${x=x_{i}}$ における微分の定義式に等しい事が分かります。このことから微分と積分は逆の操作だということが分かります。 2.リーマン積分の拡張 ------------------------ ここでは、リーマン積分からの拡張として、「不定積分」、「多重積分」について簡単に説明します。 不定積分への拡張 ^^^^^^^^^^^^^^^^^ 上で定義した定積分から不定積分を定義することができます。1変数関数 $f(t)$ が閉区間 $[a,b]$ で積分可能だとします。すると変数 ${x[a \le x \le b]}$ が含まれる閉区間 ${[a,x]}$ においても 積分可能と言う事になります。すると不定積分 $I(x)$ は次のように書けます。 I(x) = \int_{a}^{x} f(t) dt \tag{16} ここで ${a,b}$ は任意である事に注意して、 $f(t)$ の原始関数を ${F(t)}$ とした場合 ${\tag{16}}$ は次のように書けます。 I(x) = \left[F(t) \right]^{x}_{a} = F(x) - F(a) = F(x) + C \tag{17} ここで書いた $C$ は任意定数です。更に ${\int_{a}^{b} f(t) dt = \int_{a}^{b} f(x) dx}$ が成立するので、 $\tag{17}$ の左辺に $\tag{16}$ を代入して不定積分の式 \int f(x) dx = F(x) + C \tag{18} が得られます。 多重積分への拡張 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^ 多重積分はリーマン和から考えると、次のようになります。関数 $f$ は独立な変数の関数 f = f(q^{1} , q^{2} ,\cdot\cdot\cdot , q^{s}) \tag{19} だとします。すると自然な拡張としてリーマン和は次のように書けます。 &R = \sum_{a_{1}=1}^{n}\Delta_{a_{1}}^{1}\sum_{a_{2} = 1}^{n}\Delta_{a_{2}}^{2}\cdot\cdot\cdot\sum_{a_{s}=1}^{n}\Delta_{a_{s}}^{s} f(\xi_{a_{1}}^{1} , \xi_{a_{2}}^{2} ,\cdot\cdot\cdot , \xi_{a_{s}}^{s}) \tag{20}\\ &\Delta_{a_{i}}^{i} = q_{a_{i}}^{i} - q_{(a_{i}-1)}^{i} [i=1,2,3,\cdot\cdot\cdot ,s] \tag{21}\\ &\xi_{a_{i}}^{i} = q_{(a_{i}-1)}^{i} + \theta \Delta_{a_{i}}^{i} [0 < \theta < 1] \tag{22} 1変数関数のときと同じで、 $\tag{20}$ の ${\xi_{ai}^{i} \to q_{(a-1)i}^{i}}$ , ${n \to \infty}$ の極限がリーマン積分になります。 \lim_{n \to \infty} \left[ \sum_{a_{1}=1}^{n}\Delta_{a_{1}}^{1}\sum_{a_{2} = 1}^{n}\Delta_{a_{2}}^{2}\cdot\cdot\cdot\sum_{a_{s}=1}^{n}\Delta_{a_{s}}^{s} f(q_{(a_{1}-1)}^{1} , q_{(a_{2}-1)}^{2} ,\cdot\cdot\cdot , q_{(a_{s}-1)}^{s}) \right] = \int dq^{1} \int dq^{2} \cdot\cdot\cdot \int dq^{s} f(q^{1},q^{2},q^{3},\cdot\cdot\cdot ,q^{s}) 3.規格化因子について --------------------------- 予告したとおり、ここでは規格化因子について説明します。規格化因子とは、和と積分の間の差を埋めるための因子のことです。 例)三角形の面積 ^^^^^^^^^^^^^^^^^ まず、今回は一方の角の大きさが $\phi$ で底辺の長さが $C$ の直角三角形の面積を例に規格化因子が正しい結果を導く事を確認します。 このとき関数 ${f(x)= x\tan \phi }$ を閉区間 $[0,C]$ の場合で考えれば良いです。簡単のために $x_{i}$ は等差数列と考えると x_{i} = |\Delta|(i-1) = \frac{C(i-1)}{n} \tag{23} になります。ここで分割の数が変わるのに対して、区間の方は決まっていることで分割の大きさ ${|\Delta|}$ が ${\frac{C}{n}}$ になるという事を補足しておきます。 $\tag{14}$ に $\tag{15}$ 式を代入すると規格化因子は h(n) &= \frac{\sum_{i=1}^{n} x_{i-1}(x_{i} - x_{i-1})}{\sum_{i=1}^{n} x_{i}}\\ &= \frac{C}{n}\frac{\sum_{i=1}^{n} x_{i-1}}{\sum_{i=1}^{n} x_{i-1}}\\ &= \frac{C}{n} \tag{24} になります。そして次に $x_{i}$ の和を計算すると \sum_{i=1}^{n}x_{i-1} = \frac{(n-1)(x_{n} + x_{0})}{2} = (n-1)\frac{C}{2}\tag{25} になります。すると $\tag{13}$ より三角形の面積 $S$ は次のようになるはずです。 S = \lim_{n \to \infty} \left[ h(n) \sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) \right] &= \lim_{n \to \infty} \left[ \frac{C}{n} \tan \phi (n-1)\frac{C}{2} \right]\\ &= \frac{C^{2}\tan \phi}{2} \lim_{n \to \infty} \left( 1 - \frac{1}{n} \right)\\ &= \frac{CH}{2} [\because H = C \tan \phi] \tag{26} これは確かに三角形の面積の定義に一致します( $H$ : 高さ)。ためしに積分でも求めてみても \int_{0}^{C} x\tan \phi dx &= \tan \phi \left[ \frac{x^{2}}{2}\right]_{0}^{C} \\ &= \frac{C^{2}\tan \phi}{2} = \frac{CH}{2} \\ &= S \tag{27} であり、結果は一致します。 ここまでのまとめ ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ 少し話が長くなってきたので、ここで物理に応用するときに重要な結果を手短にまとめておきます。 三角形の面積を求める途中で分割の大きさを等しいと仮定しましたが、これはなめらかな関数ではこの定義で十分に積分を定義することができます。そのときの積分の区間を閉区間 $[a,b]$ とすると規格化因子は $\tag{14}$ と $\tag{23}$ より h = |\Delta| =\frac{b-a}{n} \tag{28} と書くことができます。このときリーマン積分は定義式 $\tag{8}$ から \lim_{|\Delta| \to 0} \left[ |\Delta| \sum_{n=1}^{n}f(x_{i-1}) \right] = \int_{a}^{b} f(x) dx \tag{29} と書く方が離散的な分布の和との比較を容易にします。多重積分も同様にして \lim_{|\Delta| \to \infty} \left[ |\Delta|^{s} \sum_{a_{1}=1}^{n}\sum_{a_{2} = 1}^{n}\cdot\cdot\cdot\sum_{a_{s}=1}^{n} f(q_{(a_{1}-1)}^{1} , q_{(a_{2}-1)}^{2} ,\cdot\cdot\cdot , q_{(a_{s}-1)}^{s}) \right] = \int dq^{1} \int dq^{2} \cdot\cdot\cdot \int dq^{s} f(q^{1},q^{2},q^{3},\cdot\cdot\cdot ,q^{s}) \tag{30} と書けます。 リーマン和とは普通の和に極限を持たせるための因子 ${|\Delta|}$ をかけたものです。リーマン和の極限 ${|\Delta | \to 0}$ としてリーマン積分が存在するのです。 この事をしっかりと抑えて最後の節に書かれた説明を読んでください。 極値を持つための因子 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ ここでは和が極値をもつためだけを考慮して因子の形を求めていきます。 まず関数の和の性質を知るために、和 ${\tag{1}}$ 中の $f(x_{i-1})$ を ${x_{i-1} = x_{0} + |\Delta|(i-1)}$ から ${|\Delta|(i-1)}$ で原点を中心に冪級数展開します。 関数 $f(x)$ が $l$ 回まで微分可能とすると \sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) &= \sum_{i-1}^{n} \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} |\Delta|^{k}(i-1)^{k}\\ &= \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} |\Delta|^{k} \sum_{i=1}^{n} (i-1)^{k} \tag{31} と書けます。 ${\sum_{i=1}^{n}(i-1)^{k}}$ の最大の $n$ の冪数は $(k+1)$ なので、 $\tag{28}$ から $|\Delta|$ の冪数としては ${-(k+1)}$ になります。 ${|\Delta| \to 0}$ の極限では 消えてしまう ${|\Delta|^{m} [m \ge 1]}$ 以上の項を切り捨てて、冪数 ${-1}$ の項の係数を ${C_{k}^{1}(b-a)^{k+1}}$ 、冪数 ${0}$ の項を ${C_{k}^{2}(b-a)^{k}}$ として $\tag{31}$ に代入すると \sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) \simeq \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} ( C_{k}^{1}|\Delta|^{-1}(b-a)^{k+1} +C_{k}^{2}(b-a)^{k} ) \tag{32} になります。するとこの式から ${|\Delta| \to 0}$ の極限は存在しない事が分かります(発散してしまいます)。 ここで主要項である ${|\Delta|^{-1}}$ の係数を出すにはどうしたら良いのか考えるとすぐに $\tag{30}$ の両辺に ${|\Delta|}$ を かければ良いことに気付きます。これが規格化因子の意味です。最後に ${\tag{30}}$ の両辺に規格化因子をかけて極限をとって おくと次のような格好になります。 \lim_{|\Delta| \to 0} \left[ |\Delta| \sum_{i=1}^{n} f(x_{i-1}) \right] &= \lim_{|\Delta| \to 0} \sum_{k=0}^{l} \frac{1}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=x_{0}} ( C_{k}^{1}(b-a)^{k+1} + C_{k}^{2}(b-a)^{k} |\Delta| ) \\ \therefore \int_{a}^{b}f(x)dx &= \sum_{k=0}^{l} \frac{C_{k}^{1}}{k!} \left. \frac{d^{k}f(x)}{dx^{k}} \right|_{x=a} (b-a)^{k+1} [\because (29), x_{0} = a] \tag{33} これで和に因子 ${|\Delta|}$ をかけた後の極値は、ある値に収束することが示されました。 収束値について ^^^^^^^^^^^^^^^^^ 上の説明で和にある規格化因子をかけた和の極値がある値に収束するためには、 ${|\Delta|}$ が因子として妥当だと言う事は分かりました。 しかしその値が積分値になるかどうかは良く分からなかったと思います。ここで積分とは微分の逆演算だった事を思い出してみます。 すると $\tag{15}$ よりただちに F(x_{i}) - F(x_{i-1}) = \lim_{|\Delta| \to 0} |\Delta| f(x_{i-1}) が言えるので、これを ${i=1}$ から ${i=n}$ までの和をとってみます。すると次のようになります。 &\sum_{i=1}^{n} \left[ F(x_{i}) -F(x_{i-1}) \right] = \sum_{i=1}^{n} \lim_{|\Delta| \to 0} |\Delta| f(x_{i-1}) \\ &F(x_{n}) -F(x_{0}) = \lim_{|\Delta| \to 0} \sum_{i=1}^{n} \left[ |\Delta| f(x_{i-1}) \right] \\ &\therefore \int_{a}^{b}f(x)dx = \lim_{|\Delta| \to 0} \sum_{i=1}^{n} \left[ |\Delta| f(x_{i-1}) \right] \tag{34} これで確かに因子 ${|\Delta|}$ をかけた和(リーマン和)の極値は微分の逆演算をした値(積分値)に収束することが示されました。