==================================== ベクトルの回転 ==================================== ある軸の回りに、グルリとベクトルを回転させるとどうなるかを考えます。ベクトルの計算としては、内積、外積、ベクトルの射影が出てきます。忘れてしまった人は先に もう一度ベクトル_ を復習してみて下さい。最初に有限回転(回転の大きさが無視できない)の場合を考えます。次に、有限回転の式から微小回転(回転が十分小さい)の場合の式を導きます。この二つの式を導くのが本稿の目的です。 ベクトルの有限回転 ------------------------------------ ベクトル $\bm{r}$ を、 $\bm{r}$ と並行ではない単位ベクトル $\bm{n}$ の回りに、角度 $\phi$ だけ回転させたものを $\bm{r'}$ とします。回転の方向はネジを回すとベクトル $\bm{n}$ の方向にネジが進むような方向です。つまりは、次の図のような状況を考えているわけです。目標は、 $\bm{r'}$ を $\bm{r}$ , $\bm{n}$ , $\phi$ で表すことです。頑張りましょう。 .. image:: Joh-Rot2.gif この図さえ綺麗に書ければ、半ば勝負はあったようなものです。 $r'$ は次のように表すことが出来ます。図を見ながら、式を一行ずつ納得して読んで行って下さい。 \bm{r'}&=\overrightarrow {ON}+\overrightarrow {NV}+\overrightarrow {VQ} \\ &=\bm{n}(\bm{n}\cdot \bm{r})+[\bm{r} - \bm{n} (\bm{n}\cdot \bm{r})]\cos \phi -(\bm{r}\times \bm{n})\sin \phi \tag{1} 一気に最後まで書いてしまいましたが、ここでの計算は大丈夫でしょうか。途中で、ベクトルの射影と外積を使っています。一応、何がどうなっているのか、説明をしておきましょう。 [式の解説] 一行目はさすがに大丈夫だと思います。 二行目を一項ずつ見ていきましょう。まず $\overrightarrow {ON}$ ですが、これは $r$ を $n$ に射影したものですので $\bm{n}(\bm{n}\cdot \bm{r})$ となるわけです。 $n$ は単位ベクトルなので長さは $1$ だということに注意して下さい。(ベクトルの射影を忘れてしまった人は、 もう一度ベクトル_ を復習して下さい。) 次にベクトル $\overrightarrow {NV}$ ですが、これはベクトル $\overrightarrow {NP}$ と向きが同じで、長さは $\cos \phi$ 倍のものですので(上図の右側を見てください)、 $\overrightarrow {NP} \cos \phi = [\overrightarrow {OP}-\overrightarrow {ON}] \cos \phi = [\bm{r} - \bm{n} (\bm{n}\cdot \bm{r})]\cos \phi$ と書けるわけです。 最後にベクトル $\overrightarrow {VQ}$ ですが、これが $(\bm{r}\times \bm{n})\sin \phi$ だというのには、少し説明が要るかもしれません。まず外積の定義を思い出しましょう。外積 $\bm{r}\times \bm{n}$ の向きは、ねじ回しを、ベクトル $\bm{r}$ からベクトル $\bm{n}$ に向かって回したときに、ネジが進む方向でした。つまり、右の図に書いてあるような向きになります。また、その大きさは $\bm{r}$ と $\bm{n}$ のなす角を $\theta$ とすれば $\big\arrowvert r\big\arrowvert \big\arrowvert n\big\arrowvert \sin \theta = \big\arrowvert r\big\arrowvert \sin \theta$ でしたので、ちょうど図に描いてある円の半径と等しくなるわけです。 $\theta$ は左の図に書き込んでありますので、 $\big\arrowvert r\big\arrowvert \sin \theta$ が図の円の半径に等しくなることを確認して下さい。 $QP$ の長さは円の半径の $\sin \phi$ 倍ですから、 $\overrightarrow {VQ}=-(\bm{r}\times \bm{n})\sin \phi$ となるわけです。 [式の解説終わり] 式(1)は『ベクトル $\bm{r}$ を、ベクトル単位ベクトル $\bm{n}$ の回りに半時計回りに角 $\phi$ だけ回転させた』ベクトル $\bm{r'}$ を表す式だということです。これはロドリグの公式と呼ばれています。少しだけ項のまとめ方を変えて、次のような形で紹介されていることの方が多いかも知れません。 \bm{r'}=\bm{r}\cos \phi+ \bm{n} (\bm{n}\cdot \bm{r})[1-\cos \phi] -(\bm{r}\times \bm{n})\sin \phi \tag{2} 無限小回転 -------------------------------------------------------- さきほど求めたロドリグの公式で、回転が微小の場合を考えましょう。式(2)で、 $\phi$ の代わりに $d\phi$ とします。このとき $\cos d\phi =1$ , $\sin d\phi = d\phi$ とみなせますので、式(2)は次のような簡単な形に帰着してしまいます。 \bm{r'}=\bm{r}-(\bm{r}\times \bm{n})d\phi 回転が微小のときにはベクトル $\bm{r}$ の変化も微小だと考えて、 $\bm{dr}=\bm{r'}-\bm{r}$ と置くと、次のように書けることが分かると思います。 \bm{dr}=\bm{r'}-\bm{r}=-(\bm{r}\times \bm{n})d\phi \tag{3} これがベクトルを微小回転させたときの変位を表す式です。教科書によっては、この式がいきなりベクトルの微分というページに出てくることもあります。それはそれで一つの考え方です。本稿では、敢えて、図形的に有限回転の場合をまず求め、そこから無限小回転の場合を導くというアプローチを取りました。 回転する座標系から運動を見るときに、遠心力、コリオリ力などの見かけの力が働きますが、こうした見かけの力を求めるときに式(3)がとても大事です。この記事を読み終わった人は、 見かけの力_ に進んでみて下さい。 まとめ ------------------------------------------------------------ 公式としてベクトルの回転の式を再掲しておきます。ときには有限回転の式も重要です。 有限回転の式: \bm{r'}=\bm{r}\cos \phi+ \bm{n} (\bm{n}\cdot \bm{r})[1-\cos \phi] -(\bm{r}\times \bm{n})\sin \phi \tag{2} 微小回転の式: \bm{dr}=\bm{r'}-\bm{r}=-(\bm{r}\times \bm{n})d\phi =(\bm{n}\times \bm{r})d\phi\tag{3} 注)有限回転の式を、ロドリグの公式と呼びましたが、この式を導いたのはロドリグではないという説が有力です。この式自体は、実はもっと昔から知られていたようなのですが、ベクトルという概念がまだ無かったので、違った説明のされかたをされていました。ベクトルという概念を前面に押し出して、この公式を初めて導いたのはギブスのようです。こういった事情により、ロドリグの公式という言い方を避けて、ベクトルの回転公式などと呼ぶ人もいるようですが、未だに定着している名前はありません。本稿では、慣用に従ってロドリグの公式という名前を使いました。 .. _もう一度ベクトル: .. _見かけの力: @@author:Joh@@ @@accept: 2005-03-11@@