物理のかぎしっぽ 記事ソース/導体・絶縁体・半導体 の変更点

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 導体・絶縁体・半導体
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 私たちは日常的に金属はよく電気を通すし、ガラスなどは電気をほとんど通さない、と言うことを知っています.
 
 これらは抵抗率の違いで、金属など電気を通しやすいものは導体、逆にガラスなどの電気を通しにくいものを絶縁体と呼び、その中間の抵抗率のものを半導体と呼んでいます。
 例えば、アルミニウム、金、銀、銅などの金属は $10^{-6}\unit{\Omega cm}$ 程度で、ガラスなどの絶縁体は $10^{14}\unit{\Omega cm}$ 以上の抵抗率を示し、非常に大きな差があります。
 
 ものの本には金属と半導体の境目は $10^{-3}\unit{\Omega cm}$ 、半導体と絶縁体の境目は $10^6\unit{\Omega cm}$ 程度と書かれていますが、では、この大きな抵抗率の違いはどこから来るものなのでしょうか?また、導体と半導体、半導体と絶縁体はどこが違うのか、考えてみたいと思います。
 
 
 エネルギー帯
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 抵抗率のことを考えるためには、やはり電荷を運ぶ担い手である電子のことについて理解しなければなりません。
 
 そのために、まず原子核の周りに存在する電子のことから考えてみましょう。
 
 原子1個の場合
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 量子力学によると、原子の周りにはいくつかの軌道があり、それぞれの軌道についてエネルギーが決まっています。1つの電子はどれかの軌道に属するため、電子が取れるエネルギーはとびとびな値になります。図では軌道を円形に書いていますが、実際には円形の軌道になるとは限りません。 [*]_ 
 
 .. image:: shino-differenceOfResistance-fig7.png
 
 原子1個の場合について、電子のエネルギーに着目し、概念的に表すと下の図のようになります。
 
 .. image:: shino-differenceOfResistance-fig1.png
 
 これは、縦軸がエネルギーのグラフだと思って下さい。横軸に意味はありません。(線を太く描いていますが、実際には1本の線です。) [*]_ 
 
 この図で示してあるように、電子が取ることのできるエネルギーを、「エネルギー準位」(または単に「準位」)と呼びます。エネルギー準位は言わば電子が座ることの出来る「座席」だと思ってもらえば、イメージしやすいでしょう。電子はエネルギー準位、つまり「座席」があるところには座れますが、座席のないところに座ることは出来ません。
 
 .. [*] 「円形」と書きましたが、実際には3次元で、「球形」に電子が分布していることになります。また、球形の軌道以外にも、方位性を持った軌道もあります。詳しくは、量子力学を勉強してください。
 
 .. [*] 異なった軌道でも、エネルギーが一致することがあります。つまり、図では1本の線で表されていても、そこに3本や5本の線が重なっていることもあります。
 
 
 原子が多数の場合
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 では、原子が1個ではなく、多数(N個とします)の原子が集まった場合はどうなるのでしょうか。原子1個の場合と同じことが言えるのでしょうか?
 
 実は、原子1個の場合と違う構造になります。
 
 2個の原子を近づけていくと、それら原子間の相互作用により、準位が2つに分かれます。同様にしてN個の原子を集めて固体を作ると、もともと1本だったエネルギー準位はN本に分かれることになります。 [*]_ 原子1個の場合と同じように、概念的に表すと、下の図のようになります。
 
 .. image:: shino-differenceOfResistance-fig2.png
 
 ここで、Nはとても大きな数です。例えば、角砂糖程度の大きさの固体には $10^{23}$ 個程度の原子があります。Nがこれだけ大きいと、N本の準位のエネルギー差を測定することは不可能で、見た目上ほとんどエネルギー準位が連続的に分布していて、バンド(帯)状の準位を作ります。これが、「エネルギー帯(エネルギーバンド)」と呼ばれるものです。
 
 .. [*] 1本の軌道はN本の軌道に分かれます。つまり、3本の軌道のエネルギーが重なっていると、3N本に分かれることになります。
 
 
 抵抗率の違い
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 エネルギー帯が理解できたところで、次はいよいよ物質中での電気伝導、即ち電子の移動について考えてみたいと思います。
 
 一般に自然界では、エネルギーが低い状態で安定となります。すなわち、物質中での電子は、エネルギーが低いエネルギー帯から順番に埋まっていくことになります。このとき、エネルギー帯の埋まり方は、次の2種類に分けることが出来ます。
 
 .. image:: shino-differenceOfResistance-fig3.png
 
 この図で、エネルギー帯は3つしか書いていませんが、実際にはこの上と下にもっとたくさんのエネルギー帯があります。
 
 (1)の図では、電子はあるエネルギー帯の半分くらいまで詰まっていて、残りの半分は空になった状態です。(2)の図では、あるエネルギー帯まで電子がいっぱい詰まっていて、それより上のエネルギー帯では空になった状態です。
 
 実は、(1)が導体の場合のエネルギー帯を示していて、(2)が絶縁体や半導体の場合のエネルギー帯を示しているのです!いよいよ、先が見えてきましたね!では、それぞれの場合について、どのように電気が伝わるのか、詳しく見ていくことにしましょう。
 
 
 導体
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 上に示した図の(1)において、電気伝導に関与する電子は、どのエネルギー帯に属している電子だと思いますか?下側のエネルギー帯では、電子はいっぱいに詰まっていて身動きが取れない状態です。電子が動けないので、電気伝導には関与しません。上側のエネルギー帯では、電子が居ません。電気を運んでくれる電子が居ないので、電気伝導には関与しません。すると、真ん中のエネルギー帯に属している電子が電気伝導に関与することになります。
 
 そこで、真ん中のエネルギー帯に注目しましょう。
 
 .. image:: shino-differenceOfResistance-fig4.png
 
 この図は、真ん中のエネルギー帯のみを拡大しました。縦軸をエネルギー、横軸を距離のグラフと思ってください。
 
 この図で、今左向きに電界がかかっているとします。このエネルギー帯のいくらかの電子は、熱エネルギーなどで周りの電子より少しエネルギーの高い状態になっています。少しエネルギーの高い電子は、周りに空席が多いため、自由に動き回ることができ、電界に引っ張られて電界と逆方向へ移動するため、電流が流れることになります。
 
 
 絶縁体・半導体
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 勘のいい人なら、もうお分かりでしょう。
 
 (2)の図の場合、電子がいっぱい詰まっているエネルギー帯と、電子が空のエネルギー帯しかありませんよね。だから電子が動きにくいのです。
 
 .. image:: shino-differenceOfResistance-fig5.png
 
 導体の場合と同じように、今度は電子が詰まっている一番上のエネルギー帯と、電子が空のエネルギー帯の部分を拡大して書いてみました。
 
 電子が動くためには、電子が詰まっているエネルギー帯では身動きが取れないので、一つ上のエネルギー帯に飛び移らなければなりません。この飛び移らなければならないエネルギーの差を「禁制帯幅(バンドギャップ)」と呼んでいます。熱エネルギーによって禁制帯幅を飛び越えたほんのわずかな電子のみが電界により移動するため、同じ電圧をかけても少しの電流しか流れないことになります。このようにして、導体と絶縁体・半導体の抵抗率の違いが生まれます。
 
 
 絶縁体と半導体の違い
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 ここまで読んだ方の中には、「あれ?じゃぁ、絶縁体と半導体の違いは何??」と思った方もおられるでしょう。その違いはなんだと思いますか?
 
 実は、絶縁体と半導体の明確な違いはありません。(2)の図のようなエネルギー帯をした物質にわずかに不純物を加えると、電子や電子の抜け殻である正孔が出来ることがあります。このような不純物を加えたことにより出来る電子や正孔の量を変えることが可能な物質を半導体と呼び、そうでない物質を絶縁体と呼んでいるのです。
 
 また、禁制帯幅は半導体材料を特徴付ける最も重要なパラメータでもあるのです。
 
 
 おまけ
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 ここまで論じてきた「エネルギー帯構造」の話は、一般に「バンド理論」と呼ばれるものです。この、バンド理論を使うと、物質の抵抗率だけではなく、他の色々な物理現象も説明できるのです!その一例として、金属光沢の話をしましょう。
 
 
 金属光沢
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 量子力学によれば、光は波であると同時に、 $h\nu $ のエネルギーを持った粒子でもあります。この光の粒子が金属表面に当たると、光のエネルギーはすべて電子に奪われ、(1)のエネルギー帯において、電子は元のエネルギーより少し高いエネルギーへと飛び移ります。一度飛び上がった電子は、低いエネルギー状態へ移ろうとするため、光からもらったエネルギーをもう一度光として放出し、元のエネルギーの状態へ戻ります。このとき放出された光を、私たちは「金属光沢」として目にしているのです。
 
 また、当たった光のエネルギーがとても大きかった場合、光からエネルギーを得た電子はその原子核の周りを回っていることが出来なくなり、外に飛び出してきます。これを、 光電効果_ といいます。
 
 .. _光電効果: http://www12.plala.or.jp/ksp/quantum/photoelectric1/index.html
 .. image:: shino-differenceOfResistance-fig6.png
 
 また、半導体や絶縁体では、禁制帯幅が光のエネルギーよりも大きい場合、導体の場合と同じように、光は電子にエネルギーを与えることは出来ません。このため、光は物体で吸収されずにそのまま透過してしまうことになります。ガラスなどの絶縁体が光を透過するのはこのためなのです。
 
 
 金属光沢と電気伝導
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 導体のエネルギー帯構造をもつ物質が金属光沢を持つということを説明しましたが、これは「抵抗率が低い物質は金属光沢を持つかもしれない」または逆に、「金属光沢を持つ物質は抵抗率が低いかもしれない」ということです。
 
 2000年に白川英樹博士は「導電性ポリマー」の研究でノーベル賞を受賞されましたが、白川先生が作ったプラスチック(ポリアセチレン)の薄膜も、金属光沢を持っていました。
 
 以前からポリアセチレンが導電性を持ち得ることは知られていました。ポリアセチレンは高分子化が難しかったのですが、白川先生は学生の偶然のミスによりその薄膜の生成方法を発見しました。また、その薄膜は金属光沢を持っていました。そのときは抵抗率を測定してもそれほど小さな値は得られませんでしたが、後に半導体のように不純物を加えながら抵抗率を測定すると、抵抗率がはじめに比べて12桁も低くなったそうです。この発見がノーベル賞受賞につながりました。
 
 @@author:篠原@@
 @@accept:2005-09-22@@
 @@category:固体物理学@@
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