物理のかぎしっぽ 記事ソース/続・フェルミオンの化学ポテンシャル の変更点

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 続・フェルミオンの化学ポテンシャル
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 グランドカノニカル分布、つまり、大正準分布について、
 僕はずっと疑問に感じていたことがあります。
 化学ポテンシャル(別名逃散能)は高いと粒子は逃げていくはずなのに、
 粒子の存在確率 $e^{-\beta(E - \mu N)}$ は化学ポテンシャルが上がると、
 増えているように感じたのです。つまり、存在確率は減るべきだと思っていました。
 また、指数の中の $E$ と $N$ の符号は同じはずだとも思っていました。
 今回はこんな思い違いをしている人の為に、一筆啓上いたします。
 
 フェルミ分布
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 系のエネルギー $E$ 、粒子数 $N$ 、温度 $T$ 、逆温度 $\beta=\dfrac{1}{k_BT}$ 、化学ポテンシャル $\mu$ として、
 一状態辺りの粒子の存在確率は、
 
 <tex>
  e^{-\beta(E- \mu N)} \tag{##} 
 </tex>
 
 となります。状態密度 $W(E,N)$ とすると、系の中に $N$ 粒子を見出す確率 $P(N)$ は、
 
 <tex>
 P(N) \propto \int dE W(E,N) e^{-\beta(E- \mu N)} \tag{##} 
 </tex>
 
 となります。ここで、この系を構成するエネルギー準位の一つ $\epsilon_i$ に着目します。
 この一準位に粒子が入る確率 $P(\epsilon_i)$ は、 $P(\epsilon_i) \propto e^{-\beta(\epsilon_i-\mu)}$ となりますから、
 フェルミオンは一準位に0か1個入るだけなことと合わせて規格化定数は、
 
 <tex>
 z(\epsilon_i) = 1+e^{-\beta(\epsilon_i-\mu)} \tag{##}
 </tex>
 
 となります。この準位の粒子数 $n \ (=0 \ or \ 1)$ の期待値 $\langle n \rangle$ は、
 
 <tex>
 \langle n \rangle = \sum_{n} n P(\epsilon_i) = &= \dfrac{e^{-\beta(\epsilon_i-\mu)}}{1+e^{-\beta(\epsilon_i-\mu)}} \\
 \langle n \rangle = \sum_{n} n P(\epsilon_i) &= 0 \times \dfrac{1}{1+e^{-\beta(\epsilon_i-\mu)}}+1 \times \dfrac{e^{-\beta(\epsilon_i-\mu)}}{1+e^{-\beta(\epsilon_i-\mu)}} \\
  &= \dfrac{1}{1+e^{\beta(\epsilon_i-\mu)}} \tag{##} 
 </tex>
 
 となります。ここから化学ポテンシャルはその準位の一つの状態の粒子数の期待値が1/2個になるエネルギー $\epsilon_i = \mu$ です。
 ここで明らかに化学ポテンシャルが増大すると、 $\langle n \rangle$ は増大します。いいのでしょうか?
 
 これでいいのです!これは粒子数の増加と化学ポテンシャルの増加の同値性を示しています。
 化学ポテンシャルが増大すれば、粒子数(密度)も増大する。
 粒子数(密度)が増大すれば、化学ポテンシャルも増大することを表しています。
 つまり、ドーピングにより化学ポテンシャルは増大するというようなことと関係しています。
 この考えを持って、式(2)と(4)を眺めてみてください。見方が変わるでしょう。
 
 化学ポテンシャルの増大の確認
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 では、式(2)を改造して、化学ポテンシャルの増大を表現してみましょう。
 化学ポテンシャルは、一粒子が加わることで増加する系のエネルギー差です。よって、
 系が受ける粒子数の増加を $\Delta N$ とすれば、
 
 <tex>
 \mu &\propto \dfrac{E( N + \Delta N )-E(N)}{\Delta N} \\
     &= \dfrac{\int dE \left( E W(E, N + \Delta N ) e^{-\beta(E- \mu  (N + \Delta N) )}- E W(E,N) e^{-\beta(E- \mu N)} \right)}{\Delta N} \tag{##}
 </tex>
 
 ここで、 $N$ はアボガドロ数のオーダーですから、普通は $1$ を微小量とできますから、もっとシンプルに、
 
 <tex>
 \mu &\propto E( N + 1 )-E(N) \\
     &= \int dE \left( E W(E, (N + 1) ) e^{-\beta(E- \mu  (N + 1) )} - E W(E,N) e^{-\beta(E- \mu N)} \right) tag{##}
 </tex>
 
 として良いでしょう。これを解釈すると、系に粒子をドーピングしていくと、フェルミ分布はどんどん粒子が増えるごとに、高い方へスライドしていきます。その極限的一例として、絶対零度の時が分かりやすいです。つまり、そこでは粒子期待値は0か1であり、どんどん高い準位に粒子が入っていくのです。よってその準位のエネルギーに等しい化学ポテンシャルは確実に増大します。そのエネルギーはフェルミエネルギーと呼ばれます。つまり、絶対零度における化学ポテンシャルは、フェルミエネルギーと等しいです。化学ポテンシャルは温度変化し、フェルミエネルギーは温度依存性がありません。また、粒子数の増加と温度の増加は混同しないでください。自由電子ガスの化学ポテンシャルのゾンマーフェルト展開では"温度上昇"が、化学ポテンシャルの減少を引き起こしますが、"粒子密度上昇"によって、化学ポテンシャルは増加するのみです。
 
 それでは、今日はこの辺で。お疲れ様でした。
 
 @@author:クロメル@@
 @@accept:2019-01-05@@
 @@category:統計力学@@
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