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 ベクトルポテンシャルは接続であるとはどういうことか
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 この記事では、電磁気学のベクトルポテンシャル $A_i(x)$ は、
 なぜ接続(ゲージ場)と呼ばれるのか、それを説明します。
 
 接続とは
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 「接続」とは、物理でいう「ゲージ場」の数学での名称です。
 接続は多様体上の平行移動に関係します。
 そこでは、基底が空間の曲がりの為一定ではなく、変化します。
 接続の定義を確認しましょう。
 
 <tex>
  \partial_i e_j = \Gamma^k_{ij} e_k \tag{##}
 </tex>
 
 なんと、接続 $ \Gamma^k_{ij} $ には添え字が三つもあるではないですか。
 一方で、ベクトルポテンシャル $A_i$ に添え字は一つです。
 よって、これらを比較するには少し工夫が必要です。
 
 ベクトルポテンシャルの正体
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 ゲージ場としてベクトルポテンシャルは $U(1)$ ゲージと呼ばれます。
 基底を $e^{i \theta}$ とすればよいのです。
 
 試しに、下のように位相因子 $\theta(x)$ を定義します。
 
 <tex>
 \partial_i e^{i \theta(x)} = \dfrac{iq}{\hbar} A_i(x) e^{i \theta(x)}  \tag{##}
 </tex>
 
 ただし、 $q(>0)$ は粒子の電荷です。
 また、 $i \theta $ の $i$ は虚数単位です。
 すると、 $\theta$ を $A$ で表すことができます。
 
 <tex>
 \theta(x) = \dfrac{iq}{\hbar}\int^{x} A_j dx^j \equiv \Gamma \tag{##}
 </tex>
 
 上で接続 $\Gamma$ を定義しました。
 つまり、接続とは(局所位相変換の)位相因子と同じものであると言うことで良いと思います。
 
 波動関数は、 $x_0$ から $x$ に移動すると、
 
 <tex>
 \psi(x) = e^{i \theta(x)} \psi(x_0)
 </tex>
 
 で結ばれます。
 
 波動関数の平行移動をしてみる
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 波動関数 $\psi(x)$ の有限距離の平行移動を試みます。 $x_0 \to x$ だけ移動するとします。
 
 平行移動の作用素を $M$ とすると、微小距離の平行移動 $1+ i \Gamma dx = 1 + \dfrac{iq}{\hbar} A_j(x) dx^j$ を用いて
 
 <tex>
 M 
 &= \lim_{dx^j \to 0} (1 + \dfrac{iq}{\hbar} A_j(x) dx^j)^{x^j/dx^j} \\
 &= \lim_{dx \to 0} (1 + i \Gamma(x) dx)^{x/dx} \\
 &= \lim_{dx \to 0} \prod_{k=0}^{n} \left( 1 + i \Gamma \left( x_0 + (x-x_0)\dfrac{k}{n} \right) \right) \dfrac{1}{n} \tag{##}
 </tex>
 
 ここで $x_0$ に相当する点を $k=0$ 、 $x$ に相当する点を $k=n$ とし、 $dx = 1/n$ としました。
 すると、対数を取って、
 
 <tex>
 \ln M &= \sum_{k=0}^n \ln \left( 1 + i \Gamma \left( x_0 + (x-x_0)\dfrac{k}{n} \right) \right) \dfrac{1}{n} \\
 &\simeq \sum_{k=0}^n i \Gamma \left( x_0 + (x-x_0)\dfrac{k}{n} \right)  \dfrac{1}{n} \\
 &\simeq i \int_{x_0}^x \Gamma(x) dx \\
 &= \dfrac{iq}{\hbar} \int_{x_0}^{x} A_j(x) dx^j \tag{##}
 </tex>
 
 ここで、 $\ln(1+z) \simeq z $ と言う対数関数の解析接続と区分求積法を用いました。
 よって、
 
 <tex>
 M = \exp \left( \dfrac{iq}{\hbar} \int_{x_0}^{x} A_j(x) dx^j \right)  \tag{##}
 </tex>
 
 となります。つまり、平行移動すると、
 
 <tex>
 \psi(x) = M \psi(x_0) = \exp \left( \dfrac{iq}{\hbar} \int_{x_0}^{x} A_j(x) dx^j \right) \psi(x_0) \tag{##}
 </tex>
 
 ゲージ理論より
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 ここで $U(1)$ ゲージ変換を思い出しましょう。それは
 
 <tex>
 \psi^\prime(x) &= \exp(i \theta) \psi(x) \tag{##} \\ 
 A_i^\prime(x) &= A_i(x) + \dfrac{\hbar}{q} \dfrac{\partial \theta}{\partial x^i} = A_i(x) + \dfrac{\hbar}{q}\dfrac{q}{\hbar}(A_i^\prime(x)-A_i(x))\tag{##}
 </tex>
 
 という局所位相変換で方程式が変わらないというものでした。
 式 $(7)$ では点 $x_0$ では、左辺と右辺は同じになります。
 また、 $x+dx$ で式 $(7)$ の平行移動を象徴的に表すと、 $\psi^\prime(x) = \psi(x+dx)$ と考え、式 $(8)$ の移動前の点で $\theta(x)=0$ とすれば、
 式 $(7)$ と式 $(8)$ はつじつまが合います。 $\theta = \dfrac{q}{\hbar} \int_{x_0}^{x} A_j(x) dx^j$ となります。
 また、式 $(9)$ は両端点を微分の変数として考えてあり、これももっともな結果です。
 
 よって、ベクトルポテンシャル $A_i(x)$ は位置の移動と共に、
 ゲージ $e^{i \theta}$ の変化を基底にした基底の曲がり具合を反映していることが分かります。
 この位相因子 $\exp \left( \dfrac{iq}{\hbar} \int_{x_0}^{x} A_j(x) dx^j \right)$ はアハラノフ・ボーム効果に関係しています。
 これは、下に参考文献として挙げた『トポロジカル絶縁体・超伝導』の第二章にこの式に相当する式があります。
 ただ、この記事では正電荷でSI単位系としましたが、この本では電子の負電荷でどうやらCGS-Gauss単位系を使っているようです。
 
 アハラノフ・ボーム効果
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 また、ベクトルポテンシャルには $\mathrm{rot} A^\prime_i = 0$ を
 満たす不定性 $A_i+A^\prime_i$ がありますが、
 ストークスの定理より、閉曲線一周の線積分には影響を与えません。(逆に閉じていない経路の位相は不定性をもつようです。)
 つまり、一周積分の経路 $\Gamma_1 - \Gamma_2$ を縁とする開曲面を通過する磁束密度 $\bm{B}$ の総量を磁束 $\Phi$ とすると、
 
 <tex>
 \dfrac{q}{\hbar} \int_{\Gamma_1 - \Gamma_2} A_i(x) dx &= \dfrac{q}{\hbar} \iint_{\Sigma} \bm{B}(x) \cdot \bm{n} dS \\
 &= \dfrac{q}{\hbar} \Phi \tag{##}
 </tex>
 
 よって、荷電粒子を通過させる二経路 $\Gamma_1 , \Gamma_2$ にはその経路が囲む磁束の量によって、
 位相差 
 <tex>
 \dfrac{q}{\hbar} \int_{\Gamma_1} A_i(x) dx &= \dfrac{q}{\hbar} \int_{\Gamma_2} A_i(x) dx + \Delta \phi \tag{##} \\
 \Delta \phi &= \dfrac{q}{\hbar} \Phi
 \tag{##}
 </tex>
 が生じます。つまり、干渉が起こるのです。
 これをアハラノフ・ボーム効果と言います。
 
 ここで、興味深いのは荷電粒子の出発点と合流地点の位相差( $\dfrac{q}{\hbar} \int_{\Gamma_1} A_i(x) dx$ 等)はベクトルポテンシャルの不定性の為「分からなくて」(ということだと思います。)、 $\Gamma_1 , \Gamma_2$ に分岐して合流した地点での相対的な経路間の位相差 $\Delta \phi$ のみが分かるということです。
 
 共変微分
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 平行移動ができたので、 $U(1)$ ゲージでの共変微分についても触れておきましょう。
 点 $x_0$ での波動関数 $\psi(x_0)$ を平行移動し $x_0+dx$ に持ってきたものを $\psi_\parallel(x_0+dx)$ とすると、
 それには $1+\dfrac{iq}{\hbar}A_i$ を掛ければよいので、
 
 <tex>
 \psi_\parallel(x_0+dx) = (1+\dfrac{iq}{\hbar}A_j dx^j) \psi(x_0) \tag{##}
 </tex>
 
 この式ではアインシュタインの縮約記法を使っています。添え字は全ての $j$ にわたって足したものです。
 すると、共変微分 $D_i$ は $dx^i$ のみを変化させたときの量であることに注意して、
 
 <tex>
 D_i \psi(x) &= \lim_{dx^i \to 0} \dfrac{\psi(x+dx)-\psi_\parallel(x+dx)}{dx^i} \\
 &= \lim_{dx^i \to 0} \dfrac{\psi(x+dx)-\psi(x)}{dx^i} - \dfrac{iq}{\hbar}A_i \psi(x) \\
 &= \left( \partial_i - \dfrac{iq}{\hbar}A_i \right) \psi(x) \tag{##}
 </tex>
 
 相対論ではスカラー関数の共変微分はただの偏微分のはずなので、
 今回の共変微分は、スカラーの波動関数の $U(1)$ ゲージ理論の意味での共変微分として区別しなければならないものかと思います
 もし何か間違えていたり、お読みになって分かったことがあったら、yshimada@hotmail.comへメールで教えてくださると嬉しいです。
 今日はここまで、お疲れさまでした!
 
 @@reference: 野村健太郎,トポロジカル絶縁体・超伝導体,丸善出版,2016,第2章,4621301039@@
 @@reference: ファインマン他著;砂川重信訳,ファインマン物理学V,岩波書店,1979,p441,4000077155@@
 
 @@author:クロメル@@
 @@accept:2019-08-18@@
 @@category:量子力学@@
 @@id:connectionAndA@@
 
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