物理のかぎしっぽ 記事ソース/X線散乱における構造因子はなぜ複素数なのか? の変更点

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 X線散乱における構造因子はなぜ複素数なのか?
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 X線散乱において、構造因子 $S_k$ という概念があります。
 
 <tex>
 S_k = \sum_{j=1}^n e^{i\bm{K} \cdot \bm{d_j}} \tag{##}
 </tex>
 
 というものです。
 はずかしながら、物理系の専攻で修士号を取った後である、今やっと理解できました。
 この複素数がどんな意味を持つのか書いて行こうと思います。
 すこし長くなるかもしれません。どうぞ、よろしければお付き合いください。
 
 なお、慶應大学の伊藤公平という先生がすぐれた講義のネット配信をしていらっしゃいます。
 そちらも、のぞいてみるといいかもしれません。リンク: 慶應物性物理2013_ 。
 
 ラウエの条件
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 .. image :: chromel-kouzouInshi-01.png
 
 
 上の図をご覧ください。波数 $\bm{k}$ を持った光が二つの黒丸で表される散乱体で散乱され波数 $\bm{k}^\prime$ となって、
 出ていく様子を表しています。この時、二つの点から出る光の行路差は
 
 <tex>
 d \cos \theta + d \cos \theta^\prime = \bm{d} \cdot (\bm{e}_k + \bm{e}_{k^\prime}) \tag{##}
 d \cos \theta + d \cos \theta^\prime = \bm{d} \cdot (\bm{e}_k - \bm{e}_{k^\prime}) \tag{##}
 </tex>
 
 となりますね?ここで、単位行路差あたりの光路差(単位の実距離(行路差)を移動した際に進む位相の大きさ)は行路差の $|\bm{k}|,|\bm{k}^\prime|$ 倍
 ですから、 $\bm{e}_k , \bm{e}_{k^\prime}$ にそれぞれ掛けると、 $\bm{k},\bm{k}^\prime$ となります。
 これが強め合う条件は、整数mとして、(光路差)=2mπですから、
 
 <tex>
 \bm{d} \cdot (\bm{k}+\bm{k}^\prime) = 2m \pi \tag{##}
 \bm{d} \cdot (\bm{k}-\bm{k}^\prime) = 2m \pi \tag{##}
 </tex>
 
 となります。もし、今この結晶の基本単位格子がただ一つの原子からなり、ブラベー格子ベクトル $R$ を持っていたとすると、
 これは、
 
 <tex>
 \bm{R} \cdot (\bm{k}+\bm{k}^\prime) = 2m \pi \tag{##}
 \bm{R} \cdot (\bm{k}-\bm{k}^\prime) = 2m \pi \tag{##}
 </tex>
 
 となります。これは、逆格子ベクトル $\bm{K}$ の定義、
 
 <tex>
 \bm{R} \cdot \bm{K} = 2m \pi \tag{##}
 </tex>
 
 と比較すれば、
 
 <tex>
 \bm{k}+\bm{k}^\prime = \bm{K} \tag{##}
 \bm{k}-\bm{k}^\prime = \bm{K} \tag{##}
 </tex>
 
 の時、光は強め合うことが分かります。これをラウエの条件と言います。
 今後の議論に続ける為、式 $(5)$ を少し変形しておくことにします。
 
 <tex>
 e^{i\bm{K}\cdot\bm{R}}=e^{i 2 \pi m} = 1
 </tex>
 
 ここの $ \bm{K}\cdot\bm{R} $ は原点にある散乱体の位相から $ \bm{R} $ だけ離れた散乱体から出る光の位相の差 $\bm{R}\cdot (\bm{k}+\bm{k}^\prime)$ を表し、
 ここの $ \bm{K}\cdot\bm{R} $ は原点にある散乱体の位相から $ \bm{R} $ だけ離れた散乱体から出る光の位相の差 $\bm{R}\cdot (\bm{k}-\bm{k}^\prime)$ を表し、
 強め合う条件は、それが $ 2\pi m $ に等しいことを表しています。
 
 構造因子(体心立方格子の場合)
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 今度は、基本単位格子が単純立方晶であり、その単位格子内にいくつかの原子が入っている時を考えます。
 つまり、体心立方格子なら格子の長さ $a$ (格子定数と言います)として、 $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d} = (a/2,a/2,a/2)$ の
 二原子、面心立方格子なら $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d} = (0,a/2,a/2),\bm{d} = (a/2,0,a/2),\bm{d} = (a/2,a/2,0)$ の四原子、
 ダイヤモンド格子なら、同様に八原子があると考えるのです。この基本単位格子に光が当たる時を考えます。
 その時の干渉強度は、前節の二原子の時と同様に考え、冒頭で言ったように、
 
 <tex>
 S_k = \sum_{j=1}^n e^{i\bm{K} \cdot \bm{d_j}} \tag{##}
 </tex>
 
 となります。具体的に体心立方格子の時を考えると、 $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d} = (a/2,a/2,a/2)$ の
 二原子について、 $S_k$ は、 $x,y,z$ 方向の単位ベクトルを $\hat{\bm{x}},\hat{\bm{y}},\hat{\bm{z}}$ として、
 
 <tex>
 S_k &= e^{i \bm{K} \cdot \bm{0}} + e^{i \bm{K} \cdot \dfrac{a}{2} (\hat{\bm{x}}+\hat{\bm{y}}+\hat{\bm{z}})} \\
 &= 1 + e^{i \bm{K} \cdot \dfrac{a}{2} (\hat{\bm{x}}+\hat{\bm{y}}+\hat{\bm{z}})} \tag{##}
 </tex>
 
 となり、基本単位格子は立方晶でしたから、 $n_1,n_2,n_3$ を任意の整数として、
 逆格子ベクトル $\bm{K}=\dfrac{2\pi}{a}(n_1\hat{\bm{x}}+n_2\hat{\bm{y}}+n_3\hat{\bm{z}})$ と書けます。
 よって、構造因子は、
 
 <tex>
 S_k &= 1 + e^{i \pi (n_1 \hat{\bm{x}}+n_2 \hat{\bm{y}}+n_3 \hat{\bm{z}})} \\
 &= 1 + (-1)^{n_1+n_2+n_3} \\
 &= 2 \ \  or \ \  0 \tag{##}
 </tex>
 
 となり、 $n_1+n_2+n_3$ が偶数なら強め合い、奇数なら打ち消しあいます。
 これは逆格子ベクトル $\bm{K}$ が面心立方格子の時に相当します。
 X線回折とは、結晶の逆格子を見ることに相当します。
 そう、体心立方格子の逆格子は面心立方格子なのです。
 
 構造因子(低対称な格子の場合)
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 構造因子が複素数となるのは、構造の対称性がある程度崩れていなければ出てきません。
 例えば、 $\bm{d} = (0,0,0),\bm{d} = (a/4,0,0)$ が基本構造の単純立方格子だったら複素数になります。
 計算してみると、この単純立方格子の逆格子ベクトルは $\bm{K}=\dfrac{2 \pi}{a}(n_1 \hat{\bm{x}}+n_2 \hat{\bm{y}}+n_3 \hat{\bm{z}})$ ですから、構造因子は、
 
 <tex>
 S_k &= 1 + e^{i \pi/2 n_1} \\
 &= 1 + i^{n_1} \tag{##}
 </tex>
 
 となります。これはつまり、逆格子ベクトル $\bm{K}$ (もっと正確に言えば $\bm{k}+\bm{k}^\prime$ )を $\bm{K}=\dfrac{2 \pi}{a}(\hat{\bm{x}})$ に
 選ぶと、 $(100)$ 反射となり出てくる光は、
 
 <tex>
 e^{i \bm{K} \cdot \bm{0} } &= e^{i 2 \pi/a \times 0} \\
 &= 1 \tag{##}
 </tex>
 
 のものと
 
 <tex>
 e^{i \bm{K} \cdot (a/4)\hat{\bm{x}} } &= e^{i (\pi/2)} \\
 &= i \tag{##}
 </tex>
 
 つまり、出射光は位相が変わらないもの(式 $(11)$ )、 $\pi/2$ だけずれるもの(式 $(12)$ )の二つがあるということです。例えば、原点の散乱体について出射光が $ \cos(\omega t) = \dfrac{e^{i \omega t}+e^{-i \omega t}}{2}$ で原点に出射するとすると、
 もう一つの散乱体の出射光は $ \dfrac{i e^{i \omega t} - i e^{-i \omega t}}{2} = -\sin (\omega t) $ で出射するということです。ここで、位相の進み方が $e^{ i\omega t }$ と $e^{ -i\omega t }$ では逆なので、前者が $i$ (つまり $ \pi / 2 $ )だけ進むとき、後者は $-i$ (つまり $ - \pi / 2 $ )進みます。
 つまり、散乱強度 $I$ は
 <tex>
 I &= \left| \dfrac{(1+i)e^{ i \omega t }+(1-i)e^{ -i \omega t }}{2} \right|^2
 &= \left( \cos ( \omega t) - \sin (\omega t) \right)^2 \\
 &= (\sqrt{1^2+1^2} \cos (\omega t + \pi/4))^2 \\
 &= 2 \cos^2 (\omega t +\pi/4) \tag{##}
 </tex>
 
 となり、相対強度 $I = |S_k|^2 = (1+i)(1-i) =2$ で出てくることが分かります。
 
 複素関数で書くなら、
 
 <tex>
 I &= |(1+i)\exp (i \omega t )|^2 \\
 &= (1+i)(1-i) = 2 \tag{##}
 </tex>
 
 と分かります。ちなみに、今回は $1+i$ でしたが、 $1-i$ も基準となる点が違うだけで、同じことです。
 だって、注目点を原点からもう一つに移せば、今度は、 $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d}= (-a/4,0,0)$ となるでしょう?
 
 最後に構造因子が一般形の時の散乱強度を書いて終わりましょう。
 
 <tex>
 I &= |S_k|^2 \\
 &= |(a+bi)\exp(i \omega t)|^2 \\
 &= a^2+b^2 \tag{##}
 </tex>
 
 今日はこの辺で、お疲れ様でした。
 
 .. _慶應物性物理2013: http://www.youtube.com/watch?v=0II4iQEf9A8
 
 @@author:クロメル@@
 @@accept:2013-12-24@@
 @@category:固体物理学@@
 @@id:kouzouInshi@@
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