物理のかぎしっぽ 査読/ε-δ論法/ソース のバックアップ(No.1)

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====================================== ε-δ論法 ====================================== ここでは、解析学などでよく目にする $\varepsilon - \delta$ 論法という

ものについて紹介します。この $\varepsilon - \delta$ 論法は関数の連続

性や収束などを示すためによく使われる論法です。紹介記事や練習問題から

、ここで何を議論したいのかや特徴などを確認して下さい。

ε-δ論法とは?


まずは、定義を確認します。 $\varepsilon - \delta$ 論法とは距離が定義

されている空間(距離空間)において、関数の連続性や点列の収束を定義する

論法のことです。具体的には、以下のように表記されることが多いです。

tex> \forall \varepsilon >0,\exists \delta>0;|x-a|<\delta \Rightarrow |f

(x)-f(a)|<\varepsilon

/tex> この式の意味はこうです。「任意の有限の正数 $\varepsilon>0$ に対して、

適当な正数 $\delta>0$ が存在していて、この $\delta$ が $|x-a|<\delta$

ならば $|f(x)-f(a)|<\varepsilon$ となる。」なお、ここでは $|x-a|$ は

$x$ と $a$ の距離のことです。 [*]_

また、上の式はそのまま $x$ に対する関数 $f(x)$ の連続性を定義したもの

となっています。これが点列 $a_n(n \in \mathbb{N})$ の収束の定義では、

tex> \forall \varepsilon >0,\exists N>0;\forall n,n \ge N \Rightarrow

|a_n-\alpha|<\varepsilon

/tex> といった形式になります。今度は $\delta$ の代わりに $N$ が登場しました

。このような形式の論法のときは $\varepsilon - N$ 論法といいます [*]_

。しかし、これはあくまで形式のお話です。この論法の心は上に書いてある

日本語の意味なのです。

.. [*] 距離という言葉を簡単に使っていますが、実は距離というものは数学

の世界では当たり前のものではありません。ここでは、距離がすでに導入さ

れている空間の中で議論をしているので、ヒョイヒョイと話を進めていって

います。ここではそれでいいのです。でも、厳密には距離や順序を導入する

際、ノルムや順序構造なるもののことを考えてあげなければいけません(普通

は自然と順序や距離というものに慣れてしまっているので、それについてい

ちいち考えたりしません)。ノルムや順序構造といった概念の存在は、位相

(topology)を勉強していく上では、心に留めておくべき存在です。なぜなら

、位相の勉強をするときには、私たちが当たり前だと思っている距離や順序

といった概念が存在しない空間で近似に関する議論をしていくからです。「

距離や順序の概念が存在している空間」と「存在していない空間」。このこ

とに気をつけながら、位相構造がいかなる構造を基礎として成立しているか

に迫っていってください。

.. [*] これに似た形でコーシー列の定義もあります。コーシー列の定義では

、「 $\forall \varepsilon >0,\exists N>0;\forall m,\forall n,\ m,n

\ge N \Rightarrow |a_m-a_n|<\varepsilon$ 」となっています。違いが分か

りますか?詳しくは コーシー列と完備の概念_ をご覧下さい。

.. _コーシー列と完備の概念: http://www12.plala.or.jp/ksp/

ε-δ論法の特徴


ここまで、定義の形式を見て、「関数の収束を示すだけならば、もっと他の

論法もあるんじゃないのか??」と思われた方、その通りです。関数に限ら

ず写像の収束等を大学で習う場合に、多くの教科書にまず書いてあるのは極

限を使ったものです。 $a_n$ に対して $f(a_n)$ が収束しそうだということ

を言う場合には、「 $n$ を無限大にどんどん大きくすれば、 $f(a_n)$ は定

数 $b$ にどんどん近づく」という意味で、

tex> \lim_{n \to \inf} f(a_n) = b

/tex> という具合に表現します。いったい、これらの違いは何なのでしょうか?

まずは極限を使っているかいないかという点です。 $\varepsilon - \delta$

論法では極限ではなく有限の値( $varepsilon,\delta$ )を使い、その有限の

値中の近傍に変数や関数値が含まれているかどうかが問題になります。つま

り、 $\varepsilon - \delta$ 論法は近傍の極限を考える過程の段階なので

す。

また、今の議論から $\varepsilon - \delta$ 論法は集合を使って定式化す

ることも可能だと分かります。ここで、 $\mathbb{R}$ における中心 $a$ 、

半径 $r$ の開球 [*]_ を $B_{r}(a)=\{ x \in \mathbb{R}^n | d(x,a) <

r\}$ とすると、

tex> \forall \varepsilon >0, \exists \delta>0 ; f(B_{\delta}(a)) \subset

B_{\varepsilon}(f(a))

/tex>

と定式化できます。

.. [*] 開球とは、 $n$ 次元空間における境界線のない球のことを言います

。1次元なら開区間 $(a-r,a+r)$ 、2次元なら淵のない円盤、3次元なら表面(

境界)のない中身がつまった球のことです。

練習問題


写像 $(f+g)(x)=f(x)+g(x)$ が点 $a\in \mathbb{R}$ で連続であることを示

せ。ただし、写像 $f:\mathbb{R} \to \mathbb{R},g:\mathbb{R} \to

\mathbb{R}$ は点 $a\in \mathbb{R}$ で連続であるとする。

.. admonition:: proof

	$f,g$ がそれぞれ連続であるから $\forall \varepsilon 

0,\exists \delta_1>0;|x-a|<\delta \Rightarrow |f(x)-f(a)|<\frac

{\varepsilon}{2}$ 、 $\forall \varepsilon >0,\exists \delta_2>0;|x-

a|<\delta \Rightarrow |g(x)-g(a)|<\frac{\varepsilon}{2}$ が成り立って

いる。ここで、 $|(f+g)(x)-(f+g)(a)|=|(f(x)-f(a))+(g(x)-g(a))| \le |f

(x)-f(a)| + |g(x)-g(a)| < \varepsilon$ となるから、 $\delta =

\min\{\delta_1 , delta_2\}$ とすると、以下のことが成り立つ。 $\forall

\varepsilon >0,\exists \delta>0;|x-a|<\delta \Rightarrow |(f+g)(x)-

(f+g)(a)|<\varepsilon$ 。したがって、 $(f+g)(x)=f(x)+g(x)$ は連続であ

る。

.. [*] ここで、 $\varepsilon$ は任意に選んでいいので、ここでは最後に

きれいな形になるように、 $f,g$ の連続の定義となる $\varepsilon$ を

$\frac{\varepsilon}{2}$ として用いました。

@@author: 黒子@@ @@accept: @@ @@id: Epsilon-Delta@@ @@category:@@ @@reference: 一樂重雄, 集合と位相 そのまま使える答えの書き方, 講談社

サイエンティフィク, 2001, 41-120, 4061539647@@

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