#rst2hooktail_source ================= divは完全情報か? ================= どうも、クロメルです。面白い話を見つけました。お付き合いくださるとうれしいです。普通、ベクトルで内積をとると情報が失われます。つまり、内積だけを与えられて元のベクトルを復元せよ。と言っても不可能なのです。では、ナブラを使ったダイバージェンス(発散)は、内積みたいだけど、情報は失われるのか?と言うのが今回のテーマです。 基本法則 ======== 静電気学を扱います。基本法則は次の二つです。 $\rho$ は電荷密度、 $\phi$ はポテンシャル、 $\bm{E}$ は電場、 $\varepsilon_0$ は真空の誘電率です。 <tex> \rm{div}\bm{E}=\dfrac{\rho}{\varepsilon_0} \tag{##} \\ \bm{E} = -\rm{grad} \phi \tag{##} </tex> 結論から言うと、ダイバージェンスは情報を失います。次の二つを見て下さい。同じ $\rm{div} \bm{E}$ を与えます。 <tex> \bm{E}_1 = (x/3,y/3,z/3) \tag{##} \\ \bm{E}_2 = (x,0,0) \tag{##} </tex> よって、ダイバージェンスの値(式(1))だけを与えられても、数学的には、場を復元できません。しかし、電磁気学ではある前提を課して、場を一意に復元できます。それは、ずばり式(2)です。ここで、 $\phi$ をデルタ関数とした時を考えると、電場は等方的に広がります。その重ね合わせで、一般の静電場は表現されます。つまり、電荷からでる電場は等方的であると言う前提があって初めて電場は決定されるのです。 式(1)に式(2)の $\bm{E}$ を代入すると、電荷とポテンシャルの関係が得られます。それは、 <tex> \triangle \phi = \left( \dfrac{\partial^2}{\partial x^2} + \dfrac{\partial^2}{\partial y^2} + \dfrac{\partial^2}{\partial z^2} \right) \phi = -\dfrac{\rho}{\varepsilon_0} \tag{##} </tex> と言う関係です。これを $\phi$ について解くと、グリーン関数(ここでは単位荷電粒子のポテンシャルと同義) $G(\bm{r}-\bm{r}^\prime)$ が次の様に求まります。少々面倒な計算ですが、よく議論されることなので、ここでは求め方は書きません。 <tex> \left( \dfrac{\partial^2}{\partial x^2} + \dfrac{\partial^2}{\partial y^2} + \dfrac{\partial^2}{\partial z^2} \right) G(\bm{r}-\bm{r}^\prime) = -\dfrac{\delta(\bm{r}-\bm{r}^\prime)}{\varepsilon_0} \tag{##} </tex> が $G(\bm{r}-\bm{r}^\prime)$ の定義で、 <tex> G(\bm{r}-\bm{r}^\prime) = \dfrac{1}{4 \pi \varepsilon_0 |\bm{r}-\bm{r}^\prime|} \tag{##} </tex> と計算され、 <tex> \phi = \dfrac{1}{\varepsilon_0} \int G(\bm{r}-\bm{r}^\prime) \rho(\bm{r}^\prime) dV^\prime \tag{##} </tex> とポテンシャルを求めるのに使えます。 $dV^\prime$ とプライムがつくのは、上の式で積分変数が $\bm{r}^\prime$ についてのものであるからです。 では、ここで非等方的な電場の出方をするように、式(2)を書き換えてみます。 例えば、 <tex> \dfrac{\partial^2}{\partial x^2} G(\bm{r}-\bm{r}^\prime) = -\dfrac{\delta(\bm{r}-\bm{r}^\prime)}{\varepsilon_0} \tag{##} </tex> これから、超関数の概念をかなり大ざっぱに使います。なお、この式は $y,z$ 方向には何も言及していません。簡単のため、 $y,z$ の電場成分をゼロとします。すると、これは一次元の問題となり、二回微分がデルタ関数、一階微分がシータ関数(階段関数)、つまり、 $G$ はランプ関数です。つまり、この世界では電気力線は源泉となる電荷からただ一方x軸の正の方向へ出ていきます。シータ関数 $\Theta$ やランプ関数 $R$ とはマイナーな概念化も知れないと思うので、一応書いておきましょう。 <tex> \Theta(x-x^\prime) = \begin{cases} 1 \ \ \ \ \ (x \geq x^\prime) \\ 0 \ \ \ \ \ (x < x^\prime) \\ \end{cases} \tag{##} </tex> <tex> R(x-x^\prime) = (x-x^\prime) \Theta(x-x^\prime) \tag{##} </tex> つまり、ランプ関数は式(9)の左辺のラプラシアンで曲率を調べていくと、 $x=x^\prime$ の点で曲率が発散する関数です。 よって、式(6)の代わりに式(9)を採用した世界では、グリーン関数(単位のポテンシャル)は、 <tex> G(x-x^\prime) = \dfrac{1}{\varepsilon_0}(x-x^\prime)\Theta(x-x^\prime) \tag{##} </tex> となります。 .. image:: chromel-implicitPremiseOfPotential-01.png これも確かにグリーン関数の資格がありますので、式(8)を適用してポテンシャルが求まります。やってみましょう。原点からx軸の正の方向に $L$ の長さに渡って、この非等方な電場を放射する電荷密度 $f(x)$ があるとします。つまり、 $f(x)$ を $0 \leq x \leq L$ だけ1、他はゼロを取る関数とします。式(8)より、 <tex> \phi &= \int_{-\infty}^{\infty}G(x-x^\prime) f(x^\prime)dx^\prime \\ &= \dfrac{1}{\varepsilon_0}\int_0^L ( x-x^\prime )\Theta( x-x^\prime ) dx^\prime \\ &= \dfrac{1}{\varepsilon_0} \begin{cases} \int_0^x (x-x^\prime) dx^\prime \ \ \ \ \ (x \leq L) \\ \int_0^L (x-x^\prime) dx^\prime \ \ \ \ \ (x > L) \end{cases} \\ &= \dfrac{1}{\varepsilon_0} \begin{cases} \left[ -\dfrac{(x-x^\prime)}{2} \right]_0^x \ \ \ \ \ (x \leq L) \\ \left[ -\dfrac{(x-x^\prime)}{2} \right]_0^L \ \ \ \ \ (x > L) \end{cases} \\ &= \dfrac{1}{\varepsilon_0} \begin{cases} \dfrac{x^2}{2} \ \ \ \ \ (x \leq L) \\ xL - \dfrac{L^2}{2} (x > L) \end{cases} \tag{##} </tex> .. image:: chromel-implicitPremiseOfPotential-02.png これが非等方な電場を放射する電荷密度を持つポテンシャルの例です。今回の教訓は、同じ $\rm{div}$ を持つ関数でも、数学的には異なるベクトル場を表すことがあると言うお話でした。 @@author:クロメル@@ @@accept:2015-06-01@@ @@category:電磁気学@@ @@id:implicitPremiseOfPotential@@