物理のかぎしっぽ 記事ソース/二階のテンソルの回転変換 のバックアップの現在との差分(No.1)

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 二階のテンソルの回転変換
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 この記事では、座標系を角 $\theta$ だけ回転させたとき、二階のテンソルの表現がどう変わるかを考察します。簡単のため二次元で考えることにし、座標系 $x,y$ を角 $\theta$ だけ回転させたものを座標系 $x',y'$ とします。
 
 
 .. image:: Joh-XYRot1.gif 
 
 このとき、座標成分の変換は次式に従います。
 
 <tex>
 \Big( \begin{array}{c}
 x' \\
 y' \\
 \end{array}
 \Big) =
 \Big( \begin{array}{cc}
 \cos \theta & \sin \theta \\
 -\sin \theta & \cos \theta \\
 \end{array}
 \Big) 
 \Big( \begin{array}{c}
 x \\
 y \\
 \end{array}
 \Big) \tag{1}
 </tex>
 
 
 最初の予告しておきますが、一階のテンソルであるベクトルは式 $(1)$ のような単純な変換式に従いましたが、二階のテンソルの変換式はもっとずっと複雑になります。(式 $(1)$ を、一階のテンソルを二階のテンソルによって座標変換していると見ることができます。二階のテンソルを同様に変換するには、四階のテンソルが必要です。)行列や $\sin ,\cos$ を大量に使うのは骨が折れるので、式 $(1)$ の代わりに複素数を使った回転変換を利用することにします。
 
 
 .. [*] 物理学で応用上、座標を回転変換させる場合に、二階のテンソルの成分の変換式を求めるのは重要です。慣性モーメントや応力-ひずみテンソルの計算に習熟する必要がある人にとって、この記事の内容は大事だと思います。このような計算が応用上あまり必要ではない人にも『二階のテンソルの座標変換って、ベクトルの座標変換より大変なんだなぁ。』ということだけでも感じて頂けたらと思います。
 
 
 
 複素数を使った回転の表現
 -----------------------------------------------------------
 複素数を使って、式 $(1)$ と同じ変換を次のように表わすことにします。
 
 <tex>
 x'+iy' = e^{-i\theta}(x+iy)	\tag{2}
 </tex>
 
 
 見ただけでピンと来ない人は、まず、式 $(2)$ を実部と虚部に分ければ式 $(1)$ と同じ変換式になることを確認して下さい。式 $(2)$ の複素共役を取れば次式となります。
 
 <tex>
 x'-iy' = e^{i\theta}(x-iy)	\tag{3}
 </tex>
 
 
 
 式 $(3)$ と式 $(2)$ は、どちらも式 $(1)$ と同じ変換式を表わしています。この後、ベクトル成分 $(A_{x},A_{y})$ の回転変換を考えますが、式 $(2)(3)$ を利用したいので、計算中は常に $A_{x}+iA_{y}$ か $A_{x}-iA_{y}$ の形を使うことにします。これを簡単に次のように表記することにします。
 
 
 <tex>
 A_{x+y} = A_{x}+iA_{y}
 </tex>
 
 <tex>
 A_{x-y} = A_{x}-iA_{y}
 </tex>
 
 この表記を用いると、式 $(2)(3)$ は次のように簡単にまとめられます。 $\pm$ の符号に注意してください。
 
 <tex>
 A'_{x\pm y} = e^{\mp \theta}A_{x\pm y}	\tag{4}
 A'_{x\pm y} = e^{\mp i\theta}A_{x\pm y}	\tag{4}
 </tex>
 
 
 さて、式 $(4)$ と同じ変換に従うベクトル $B'_{x\pm y} = e^{\mp \theta}B_{x\pm y}$ をもう一つ考え、 $A$ と $B$ の積を考えます。ただし、 $A$ と $B$ で $x \pm y$ の符号が別々になる可能性があるので、 $A$ の符号を $\alpha$ ( $+$ か $-$ )、 $B$ の符号を $\beta$ ( $+$ か $-$ )として、次のように書きましょう。
 
 
 <tex>
 A'_{\alpha} B'_{\beta}= e^{-(\alpha + \beta)\theta}A_{\alpha}B_{\beta}	 \tag{5}
 A'_{\alpha} B'_{\beta}= e^{-i(\alpha + \beta)\theta}A_{\alpha}B_{\beta}	 \tag{5}
 </tex>
 
 ここまではベクトルの回転変換の話でした。式 $(5)$ から、幾つかの事柄を整理できます。 $\alpha$ と $\beta$ の組み合わせが $(+,-)$ もしくは $(-,+)$ の場合、 $e^{-(\alpha + \beta)\theta}$ の部分が消えますから、 式 $(5)$ はある種の不変量を表わす式になります。
 
 <tex>
 A'_{\pm} B'_{\mp}= A_{\pm}B_{\mp}	\tag{6-1}
 </tex>
 
 
 実際に、式 $(6-1)$ を実部と虚部に分けると次式を得ます。(符号の組み合わせとして $(+,-)$ でも $(-,+)$ でも同じ式が得られます。)最初の式は内積が不変であること、二番目の式は外積の $z$ 成分が不変であること( $xy$ 平面内の回転を考えているので当然ですね)を表わしています。
 
 
 <tex>
 A'_{x} B'_{x}+A'_{y} B'_{y}= A_{x}B_{x}+A_{y}B_{y}	\tag{6-2}
 </tex>
 
 <tex>
 A'_{x} B'_{y}-A'_{y} B'_{x}= A_{x}B_{y}-A_{y}B_{x}	\tag{6-2}
 </tex>
 
 
 さて、テンソルの議論に使うため、式 $(5)(6)$ の符号について、全ての場合を場合分けしておくことにします。ここまで複素ベクトルの添字を ${x+y}$ のように書いていましたが、面倒なので次のように真ん中の符号だけで略記することにします。また、 $xy$ 平面内の回転とは関係のない $z$ 成分を、 $A_{0}$ として仲間に加えることにします。
 
 <tex>
 A_{+} = A_{x}+iA_{y}
 </tex>
 
 <tex>
 A_{-} = A_{x}-iA_{y}
 </tex>
 
 <tex>
 A_{0} = A_{z}
 </tex>
 
 
 この略記法を使って、積 $A_{\alpha}B_{\alpha}$ を場合分けすると、次のようになります。
 
 
 <tex>
 A_{0} B_{0}= A_{0}B_{0}	\tag{7-1}
 A_{0} B_{0}= A_{z}B_{z}	\tag{7-1}
 </tex>
 
 <tex>
 A_{+} B_{+}= (A_{x}B_{x}-A_{y}B_{y})+i(A_{x}B_{y}+A_{y}B_{x})	\tag{7-2}
 </tex>
 
 <tex>
 A_{-} B_{-}= (A_{x}B_{x}-A_{y}B_{y})-i(A_{x}B_{y}+A_{y}B_{x})	\tag{7-3}
 </tex>
 
 <tex>
 A_{0} B_{+}= A_{z}B_{x}+iA_{z}B_{y}	\tag{7-4}
 </tex>
 
 
 <tex>
 A_{0} B_{-}= A_{z}B_{x}-iA_{z}B_{y}	\tag{7-5}
 </tex>
 
 
 <tex>
 A_{+} B_{0}= A_{x}B_{z}+iA_{y}B_{z}	\tag{7-6}
 </tex>
 
 
 <tex>
 A_{-} B_{0}= A_{x}B_{z}-iA_{y}B_{z}	\tag{7-7}
 </tex>
 
 
 <tex>
 A_{+} B_{-}= (A_{x}B_{x}+A_{y}B_{y})-i(A_{x}B_{y}-A_{y}B_{x})	\tag{7-8}
 </tex>
 
 <tex>
 A_{-} B_{+}= (A_{x}B_{x}+A_{y}B_{y})+i(A_{x}B_{y}-A_{y}B_{x})	\tag{7-9}
 </tex>
 
 
 
 
 二階のテンソルの変換式
 ------------------------------------------------------------------------
 さきほど複素ベクトルの積の変換式を場合分けしましたが、 $P_{\alpha \beta}=A_{\alpha}B_{\beta}$ と置くことで、これをそのまま二階のテンソルの変換式に置き換えることができます。( ベクトルからテンソルを作る_ 参照。)式 $(7)$ をそのまま $P$ に置き換えて、次式を得ます。
 
 <tex>
 P_{00}= P_{zz}	\tag{8-1}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{++}= (P_{xx}-P_{yy})+i(P_{xy}+P_{yx}) \tag{8-2}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{--}= (P_{xx}-P_{yy})-i(P_{xy}+P_{yx}) \tag{8-3}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{0+}= P_{zx}+iP_{zy} \tag{8-4}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{0-}= P_{zx}-iP_{zy} \tag{8-5}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{+0}= P_{xz}+iP_{yz} \tag{8-6}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{-0}= P_{xz}-iP_{yz} \tag{8-7}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{+-}= (P_{xx}+P_{yy})-i(P_{xy}-P_{yx}) \tag{8-8}
 </tex>
 
 <tex>
 P_{-+}= (P_{xx}+P_{yy})+i(P_{xy}-P_{yx}) \tag{8-9}
 </tex>
 
 
 さらに、個々の成分( $P_{xx}$ , $P_{yz}$ 等々)は、座標の変換式 $P'_{\alpha \beta}=e^{-(\alpha +\beta )\theta }P_{\alpha \beta }=[\cos (\alpha +\beta )\theta -i\sin (\alpha +\beta )]P_{\alpha \beta }$ に従いますので、これを左辺に代入し、実部と虚部をそれぞれ比較することで以下の式 $(10)$ を得ます。( $\alpha, \beta$ は $-1,0,1$ のどれかとします。) $9$ 本の式から実部と虚部で $2$ 本ずつ式が出てくるので、合計 $18$ 本の式になりそうですが、同じものが $2$ 本ずつ出てくるので、実際は次の $9$ 本の式になることに注意して下さい。
 
 <tex>
 P'_{zz}= P_{zz}		\tag{9-1}
 </tex>
 
 <tex>
 P'_{xx}-P'_{yy}= (P_{xx}-P_{yy})\cos 2\theta + (P_{xy}+P_{yx}) \sin 2 \theta \tag{9-2}
 </tex>
 
 <tex>
 P'_{xy}+P'_{yx}=-(P_{xx}-P_{yy})\sin 2\theta + (P_{xy}+P_{yx}) \cos 2 \theta \tag{9-3}
 </tex>
 
 <tex>
 P'_{zx}=  P_{zx}\cos \theta + P_{zy} \sin \theta	\tag{9-4}
 </tex> 
 
 
 <tex>
 P'_{zy}=  -P_{zx}\sin \theta + P_{zy} \cos \theta	\tag{9-5}
 </tex> 
 
 
 <tex>
 P'_{xz}=  P_{xz}\cos \theta + P_{yz} \sin \theta	\tag{9-6}
 </tex> 
 
 
 <tex>
 P'_{yz}=  -P_{xz}\sin \theta + P_{yz} \cos \theta	\tag{9-7}
 </tex> 
 
 
 <tex>
 P'_{xx}+P'_{yy} = P_{xx}+P_{yy}		\tag{9-8}
 </tex>
 
 <tex>
 P'_{xy}-P'_{yx} = P_{xy}-P_{yx}		\tag{9-9}
 </tex>
 
 
 これらを連立して、 $P_{xx},P_{yy},P_{xy},P_{yx}$ の変換式は次のように求まります。
 
 
 <tex>
 P'_{xx}= \frac{1}{2}(P_{xx}-P_{yy})\cos 2\theta + \frac{1}{2}(P_{xx}+P_{yy})+\frac{1}{2} (P_{xy}+P_{yx}) \sin 2 \theta 	\tag{10-1}
 </tex>
 
 
 <tex>
 P'_{yy}= -\frac{1}{2}(P_{xx}-P_{yy})\cos 2\theta +\frac{1}{2}(P_{xx}+P_{yy}) -\frac{1}{2} (P_{xy}+P_{yx}) \sin 2 \theta 	\tag{10-2}
 </tex>
 
 <tex>
 P'_{xy}=-\frac{1}{2}(P_{xx}-P_{yy})\sin 2\theta +\frac{1}{2}(P_{xy}-P_{yx})+\frac{1}{2} (P_{xy}+P_{yx}) \cos 2 \theta 	\tag{10-3}
 </tex>
 
 
 <tex>
 P'_{yx}=\frac{1}{2}(P_{xx}-P_{yy})\sin 2\theta +\frac{1}{2}(P_{xy}-P_{yx})-\frac{1}{2} (P_{xy}+P_{yx}) \cos 2 \theta 	\tag{10-4}
 </tex>
 
 
 
 対称テンソルの場合
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 特に対称テンソルの場合、 $P_{xy}=P_{yx},P_{xz}=P_{zx},P_{yz}=P_{zy}$ がなりたちます。剛体の力学や連続体力学で対称テンソルは特に重要だと思いますが、式 $(10-1)$ 〜 $(10-4)$ に、 $P_{xy}=P_{yx},P_{xz}=P_{zx},P_{yz}=P_{zy}$ を代入すると次式を得ます。
 
 
 
 <tex>
 P'_{xx}= \frac{(P_{xx}-P_{yy})}{2}\cos 2\theta + \frac{P_{xx}+P_{yy}}{2} + P_{xy} \sin 2 \theta 
 </tex>
 
 
 <tex>
 P'_{yy}= -\frac{(P_{xx}-P_{yy})}{2}\cos 2\theta +\frac{P_{xx}+P_{yy}}{2} - P_{xy}\sin 2 \theta 
 </tex>
 
 
 <tex>
 P'_{xy}=-\frac{(P_{xx}-P_{yy})}{2}\sin 2\theta + P_{xy} \cos 2 \theta 
 </tex>
 
 
 材料力学の 応力2_ に、この変換式を導く別の方法を紹介しています。もっと簡単で直観的です。時間のある人は参照してみて下さい。一階のテンソルであるベクトルが、式 $(1)$ のような簡単な座標変換の式に従ったのに比べ、式 $(10)$ の複雑さをもう一度眺めてみて下さい。より高階のテンソルの座標変換式も、基本的にはここで行ったのと同様、ベクトルの積から構成することが出来ますが、計算はかなり大変そうです。
 
 
 
 .. _応力2: 
 .. _ ベクトルからテンソルを作る: http://www12.plala.or.jp/ksp/vectoranalysis/TensorFromVector/
 
 @@author:Joh@@
 @@accept: 2006-05-11@@
 @@accept: 2006-08-25@@
 @@category: ベクトル解析@@
 @@id: TensorTrans@@
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