これはrst2hooktailの記事ソース保存・変換用です(詳細).
============================================================ 線形演算子 ============================================================ ケットと線形演算子 =================== 前の記事では,ブラはケットと組み合わさることでスカラー値を生成する線形関数のことでした. 今度考える線形演算子は,ケットと組み合わさることで,ケットを生成する線形関数です. あるケット $|A \rangle $ の関数である $|F \rangle $ を考えます. この二つのベクトルは,成分が定数である定ベクトルではなく, 成分に変数を含みます. $|A \rangle $ に対応するケットを $|F_A \rangle $ と書くことにすると, 線形関数が線形であるための条件を表すことができます. $|A \rangle + |A^\prime \rangle $ は $|F_A \rangle + |F_A^\prime \rangle $ に 対応し, $c$ を定数とすると $c|A \rangle $ は $c|F_A \rangle $ に対応するという条件です.この条件の 下で $|F \rangle $ は $|A \rangle $ に線形演算子 $\alpha$ を施したものとして, <tex> |F \rangle = \alpha |A \rangle </tex> と表します.演算子が線形であるための条件をあらためて書くと <tex> \alpha \{ |A \rangle + |A^\prime \rangle \} = \alpha |A \rangle + \alpha |A^\prime \rangle \tag{1} </tex> <tex> \alpha \{ c | A \rangle \} = c \alpha | A \rangle \tag{2} </tex> となります. 線形演算子は,すべてのケットに対して値が与えられた時,完全に定義されます.そしてすべてのケットに対し,ゼロベクトルを生じる演算子はゼロとします.またすべてのベクトルに対し,二つの演算子が同じケットを生じる時,二つの演算子は等しいといいます. 次に線形演算子の和を次のように定義します. <tex> \{ \alpha + \beta \}|A \rangle = \alpha |A \rangle + \beta | A \rangle \tag{3} </tex> 式 (1) と (3) から線形演算子とケットは分配法則を満たします. そしてまた二つの演算子は掛け合わせることができます. <tex> \{ \alpha \beta \}| A \rangle = \alpha \{ \beta | A \rangle \} </tex> よって結合法則が成り立ち,これはかっこを省略して $\alpha \beta | A \rangle $ と書きます. 一般的には交換法則は成り立たず, <tex> \alpha \beta | A \rangle \neq \beta \alpha | A \rangle \tag{4} </tex> となってしまいます.これの特別な場合で式 (4) が等号になるとき二つの演算子は交換可能であるといいます. もしケットを定数 $k$ 倍する操作を考えると, $k$ は線形演算子の特殊な場合となります. $k$ 倍は ケットをケットに移し,式 (1) と式 (2) の $\alpha$ を $k$ で置き換えると満たすからです. このとき,この定数はすべての線形演算子と交換可能です. ブラと線形演算子 ================ ここまでは,ケットに演算子を作用させることを考えてきましたが, 今度はブラに作用させてみます.任意のブラ $\langle B | $ と $\alpha | A \rangle $ のスカラー積を作ります. このスカラー積はケット $| A \rangle$ に線形に依存します. よってブラはケットと組み合わさって線形なスカラー積を作るものという定義から, このスカラー積はケット $| A \rangle$ にあるブラが作用したものと考えられます. そのブラはやはり $ \langle B|\alpha|A \rangle $ が $\langle B |$ にも線形に依存することから , $\langle B | $ にある線形演算子 $\beta$ が作用したものと考えられます. この $ \beta $ は $ \alpha $ に対し一意的に決定されるので, この演算子 $\beta$ をケットに対する演算子と同じ $\alpha$ という文字で表すと合理的です. 式で表すと <tex> \{ \langle B | \beta \} |A \rangle = \{ \langle B | \alpha \}| A \rangle \equiv \langle B | \{ \alpha | A \rangle \} </tex> これが $\langle B | \alpha $ の定義式です. ブラとケットのダイアド積 ======================== 今度は, $|A \rangle \langle B |$ という積を考えてみます. 任意のケット $|P \rangle $ を右から掛けてみます. すると, $|A \rangle \langle B | P \rangle $ となり $|A \rangle $ の スカラー $\langle B | P \rangle $ 倍のケットベクトルになります. しかも, $| P \rangle$ に対し線形性を持っています.また, $\langle Q |$ を左から掛ける操作に対しても, 同様に線形性を持ったブラになります. このことから, $|A \rangle \langle B |$ は線形演算子だと分かります. 後ほど別の記事で行列表示について書きますが、その行列表示をすると,この積はダイアド積であることも 分かります. ダイアド積のことは、 続ベクトルの回転_ の中ほどに書いてあります。 物理的意味 =========== これまでベクトルや演算子について考えてきました. 結合法則と分配法則は成り立ちましたが,交換法則だけは成り立ちませんでした. それらのベクトルや演算子と現実の物理系との関係に対して, 量子力学ではどう解釈しているのかについて書きます. ベクトルはある時間の系の状態に対応しています. ただしその大きさや位相因子 $e^{i \gamma}$ (ただし $\gamma$ は実数)は意味を持ちません, 方向なのは重要です.そして線形演算子は, その時間の物理的変数に対応します. 物理的変数とは古典力学もこれらが組み上げていますが, 位置,一部分の速度,粒子の運動量や角運動量, またハミルトニアンなどそれらでできる関数です. この概念が量子力学でも出てくるのです. ただし決定的な違いとして,古典力学では交換法則は成り立ちましたが, 量子力学では交換法則は成り立ちません. それでも古典力学に対応した概念が多くあり, 古典力学に類似した理論が組み上げられていきます. @@reference: P.A.M.Dirac, The Principles of Quantum Mechanics (fourth edition), Oxford University Press(みすず書房), 1958, 23-26, 4622025124@@ .. _ブラベクトルとケットベクトル: http://www12.plala.or.jp/ksp/quantum/braKetVector/ .. _続ベクトルの回転: http://www12.plala.or.jp/ksp/vectoranalysis/vectorRot2/ @@author:クロメル@@ @@accept:2007-04-05@@ @@category:量子力学@@ @@id:linearOperator@@