物理のかぎしっぽ 記事ソース/ブラベクトルとケットベクトル のバックアップ差分(No.3)

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 ブラベクトルとケットベクトル
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 量子力学によくでてくるブラケット記法について説明します.
 
 次の記事は、 線形演算子_ です。
 
 量子力学とベクトル
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 ものの状態を数式で表すことを考えましょう.量子力学では,状態の重ね合わせが重要です.例えば,z軸方向にすすむ
 直線偏光された光が偏光子を通過する時を考えて見ましょう.光は光子と言う粒子です.この光子の偏光の方向は,xy
 平面内にあります.そして偏光子は光軸というものをもっていて,光軸に垂直な偏光方向をもつ光は通しますが,平行
 な光は通しません.ここに光軸と $\alpha$ の角をなす偏光方向を持つ光子を通すとどうなるでしょうか.
 答えは $\sin^2 \alpha$ の確率で通
 過します.(ちなみに通過した後の光子は,光軸に垂直な方向に偏光された光子となります)これは光子の偏光方向が
 光軸に垂直な状態と,平行な状態の重ね合わせであることを意味します.このようにある状態は,二つの状態の和で表
 されることになります.それには,個々の状態も,その和も同じ性質のもので表されなければなりません.そこでベク
 トルの出番となるわけです.
 
 ケットベクトル
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 いま記述したい状態を $A$ と名づけるとすると $|A \rangle$ がその状態を表すことになります.
 これをケットまたはケットベクトルと呼びます.このベクトルには,スカラー倍とベクトル同士の和が定義されます.
 ある複素数 $c$ に対して, $c|A \rangle$ は $|A \rangle$ と同じ状態 $A$ を表しま
 す. $c_1$ と $c_2$ を複素数とします.
 状態 $P$ が $A$ と $B$ の重ねあわせの時,これを $|P \rangle = c_1|A \rangle + c_2|B \rangle $ と表します.
 ここで大切なのは, $c_1$ と $c_2$ の比です.後で詳しく書きますが、状態 $A$ をとる確率と状態 $B$ を
 とる確率の比は、 $ |c_1|^2 \langle A | A \rangle $ 対 $ |c_2|^2 \langle B | B \rangle $ となります。
 
 ブラベクトル
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 ベクトルには,詳しくは 双対空間_ を見てもらえば分かりますが,双対ベクトルまたは一形式,
 線形汎関数などと呼ばれる対になるベクトルが存在します.これからケットベクトルの線形汎関数
 をブラベクトルと呼ぶことにします.それがどんなものなのか見ていきましょう.
 
 ケットベクトルの関数である,複素関数 $\phi$ を考えます.それに線形性を要求します.
 <tex>
 \phi(|A \rangle + |A^\prime \rangle) = \phi( |A \rangle ) + \phi( |A^\prime \rangle )
 </tex>
 <tex>
 \phi(c|A \rangle) = c \phi(|A \rangle)
 </tex>
 この性質は,新たな種類のベクトルを導入すれば、そのベクトルとのスカラー積とみなすことができます.
 その新たな種類のベクトルというのがブラ(ベクトル)で, $\langle B |$ と表します.
 スカラー積は, $ \langle B | A \rangle \equiv \phi( |A \rangle )$ と表します [*]_ .
 
 .. [*] ブラとケットというのはディラックの冗談で括弧 $\langle \  \rangle$ を英語でbracketということからから $\langle \  |$ は括弧の前半だからブラ(bra), $| \  \rangle $ は括弧の後半だからケット(ket)といいます.こういうユーモアのある人がいたら,強い相互作用や弱い相互作用なんて命名はなかったろうにと思うと残念です。…なんてどこかの偉い人が本の中でいっていましたが,私もそう思います.せめて核力(nuclearity)とか崩壊力(corruptic)とかあったでしょうに…あっ、こんな言葉ないから使っちゃだめですよ(笑) 
  
 $\phi$ は線形な関数だったので次の式が成り立ちます.
 <tex>
 \langle B | \{ |A \rangle + |A^\prime \rangle \} = \langle B | A \rangle + \langle B | A^\prime \rangle
 </tex>
 <tex>
 \langle B | \{ c|A \rangle \} = c \langle B | A \rangle
 </tex>
 すべての $|A \rangle $ に対し, $\langle P | A \rangle = 0 $ となる $P$ をゼロベクトルとします.
 そして,ブラ同士の演算(和とスカラー倍)を次のように定義します.
 <tex>
 \{ \langle B | + \langle B^\prime | \} | A \rangle = \langle B  | A \rangle + \langle B^\prime  | A \rangle
 </tex>
 <tex>
 \{c \langle B | \} |A \rangle = c \langle B  | A \rangle
 </tex>
 ブラとケットに対する仮定
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 いまのところブラはケットとスカラー積を作ることしか関係がありませんが,これからいくつかの関係を満たすよう
 にブラに仮定してブラの自由度を制限していきます.(今のブラには議論するのに自由度がありすぎるのです.りん
 ご一個をパラメータで表すのに,パラメータを1とすればいいのにiやπとして表すようなものです.これからとる制
 限とは別の制限をしても量子力学は議論できますが,むだな計算の手間をこの定義で省くことができます.具体的に
 は量子力学の話に線形代数などで扱うのノルムの理論をもちこんでいるということのようです.)まずブラとケット
 に一対一対応があることを仮定します. $| A \rangle $ に対し, $ \langle A |$ を対応させるのです
 . $| A \rangle + | A^\prime \rangle $ には $ \langle A | +  \langle A^\prime |$ を
 , $c| A \rangle $ には $ \bar{c} \langle A |$ を対応させること
 にします.ただし $\bar{c}$ は $c$ の複素共役です。これからバーをつけることで複素共役を表すものとします.
 
 そして, $ \langle B | A \rangle = \overline{ \langle A | B \rangle }  $ と仮定します.
 これから $B$ に $A$ を代入すれば, $ \langle A | A \rangle $ は実数となりますが,
 さらにこれが正の値をもつようにブラベクトルを仮定します.
 ただし, $|A \rangle = 0 $ のときのみ, $ \langle A | A \rangle = 0 $ とします.
 この仮定から $ \langle A | $ は $ | A \rangle $ の複素共役の実数倍となります.
 ただし,共役といっても $ \langle A | $ と $ | A \rangle $ は足し合わせられないことに注意してください.
 この共役は足すことができないので,元のベクトルと共役なベクトルの相加平均をとって
 実数部を取り出すことができません.そうやって実数部と虚部に分けることができないので,
 英語では通常使う"conjugate complex"ではなく "conjugate imaginary"という言葉を用い区別します.
 さらにディラックはもう一歩進んでこの実数倍の自由度を取り除き
 「 $ \langle A | $ を $ | A \rangle $ の複素共役とすると合理的だ」と言っています.
 私が量子力学を学んだ時には最初から「 $ \langle A | $ は $ | A \rangle $ の複素共役」だと教わりました.
 この「合理性」は一般的に受け入れられているようです.
 よって以降では、 $ \langle A | $ は $ | A \rangle $ の複素共役ということにします。
 
 
 種々の言い回し
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 $\langle A|A \rangle$ はベクトルの長さの二乗をあらわします
 . $\frac{|A \rangle}{\sqrt{\langle A|A \rangle}}$ とし,
 長さを1としたものを正規化されているといいます.状態 $A$ を表すベクトルには,
 長さを規格化して固定してもまだひとつ自由度が残っています.
 つまり,実数 $\gamma$ 虚数単位 $i$ としたとき, $e^{i \gamma}$ 倍できます.
 このような数を,位相因子と呼びます.この長さと位相因子の二つの自由度は
 他のベクトルと和をとらない限り、物理的意味を持ちません.
 最後に, $|A \rangle$ と $|B \rangle $ が $\langle B | A \rangle = 0$ となるとき,
 ふたつのベクトルは直交するといいます.
 
 
 
 @@reference: P.A.M.Dirac, The Principles of Quantum Mechanics (fourth edition), Oxford University Press(みすず書房), 1958, 10-22, 4622025124@@
 
 .. _双対空間: http://www12.plala.or.jp/ksp/vectoranalysis/DualSpace/
 .. _双対空間: http://hooktail.sub.jp/vectoranalysis/DualSpace/
 .. _線形演算子: http://hooktail.sub.jp/quantum/linearOperator/
 
 
 @@author:クロメル@@
 @@accept:2007-04-05@@
 @@accept:2007-01-20@@
 @@category:量子力学@@
 @@id:braKetVector@@
 
 
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