物理のかぎしっぽ 記事ソース/X線散乱における構造因子はなぜ複素数なのか? のバックアップ差分(No.2)

#rst2hooktail_source
 ============================================================
 X線散乱における構造因子はなぜ複素数なのか?
 ============================================================
 
 X線散乱において、構造因子 $S_k$ という概念があります。
 
 <tex>
 S_k = \sum_{j=1}^n e^{i\bm{K} \cdot \bm{d_j}} \tag{##}
 </tex>
 
 というものです。
 はずかしながら、物理系の専攻で修士号を取った後である、今やっと理解できました。
 この複素数がどんな意味を持つのか書いて行こうと思います。
 すこし長くなるかもしれません。どうぞ、よろしければお付き合いください。
 
 ラウエの条件
 =========================
 
 .. image :: chromel-kouzouInshi-01.png
 
 
 上の図をご覧ください。波数 $\bm{k}$ を持った光が二つの黒丸で表される散乱体で散乱され波数 $\bm{k}^\prime$ となって、
 出ていく様子を表しています。この時、二つの点から出る光の行路差は
 
 <tex>
 d \cos \theta + d \cos \theta^\prime = \bm{d} \cdot (\bm{e}_k + \bm{e}_{k^\prime}) \tag{##}
 </tex>
 
 となりますね?ここで、光路差(行路差を移動した際に進む位相の大きさ)は行路差の $|\bm{k}|,|\bm{k}^\prime|$ 倍
 ですから、 $\bm{e}_k , \bm{e}_{k^\prime}$ にそれぞれ掛けると、 $\bm{k},\bm{k}^\prime$ となります。
 これが強め合う条件は、整数mとして、(光路差)=2mπですから、
 
 <tex>
 \bm{d} \cdot (\bm{k}+\bm{k}^\prime) = 2m \pi \tag{##}
 </tex>
 
 となります。もし、今この結晶の基本単位格子がただ一つの原子からなり、ブラベー格子ベクトル $R$ を持っていたとすると、
 これは、
 
 <tex>
 \bm{R} \cdot (\bm{k}+\bm{k}^\prime) = 2m \pi \tag{##}
 </tex>
 
 となります。これは、逆格子ベクトル $\bm{K}$ の定義、
 
 <tex>
 \bm{R} \cdot \bm{K} = 2m \pi \tag{##}
 </tex>
 
 と比較すれば、
 
 <tex>
 \bm{k}+\bm{k}^\prime = \bm{K} \tag{##}
 </tex>
 
 の時、光は強め合うことが分かります。これをラウエの条件と言います。
 
 構造因子(体心立方格子の場合)
 ================================
 
 今度は、基本単位格子が単純立方晶であり、その単位格子内にいくつかの原子が入っている時を考えます。
 つまり、体心立方格子なら格子の長さ $a$ (格子定数と言います)として、 $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d} = (a/2,a/2,a/2)$ の
 二原子、面心立方格子なら $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d} = (0,a/2,a/2),\bm{d} = (a/2,0,a/2),\bm{d} = (a/2,a/2,0)$ の四原子、
 ダイヤモンド格子なら、同様に八原子があると考えるのです。この基本単位格子に光が当たる時を考えます。
 その時の干渉強度は、前節の二原子の時と同様に考え、冒頭で言ったように、
 
 <tex>
 S_k = \sum_{j=1}^n e^{i\bm{K} \cdot \bm{d_j}} \tag{##}
 </tex>
 
 となります。具体的に体心立方格子の時を考えると、 $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d} = (a/2,a/2,a/2)$ の
 二原子について、 $S_k$ は、 $x,y,z$ 方向の単位ベクトルを $\hat{\bm{x}},\hat{\bm{y}},\hat{\bm{z}}$ として、
 
 <tex>
 S_k &= e^{i \bm{K} \cdot \bm{0}} + e^{i \bm{K} \cdot \dfrac{a}{2} (\hat{\bm{x}}+\hat{\bm{y}}+\hat{\bm{z}})} \\
 &= 1 + e^{i \bm{K} \cdot \dfrac{a}{2} (\hat{\bm{x}}+\hat{\bm{y}}+\hat{\bm{z}})} \tag{##}
 </tex>
 
 となり、基本単位格子は立方晶でしたから、 $n_1,n_2,n_3$ を任意の整数として、
 逆格子ベクトル $\bm{K}=\dfrac{2\pi}{a}(\hat{\bm{x}}+\hat{\bm{y}}+\hat{\bm{z}})$ と書けます。
 よって、構造因子は、
 
 <tex>
 S_k &= 1 + e^{i \pi (n_1 \hat{\bm{x}}+n_2 \hat{\bm{y}}+n_3 \hat{\bm{z}})} \\
 &= 1 + (-1)^{n_1+n_2+n_3} \\
 &= 2 \ \  or \ \  0 \tag{##}
 </tex>
 
 となり、 $n_1+n_2+n_3$ が偶数なら強め合い、奇数なら打ち消しあいます。
 これは逆格子ベクトル $\bm{K}$ が面心立方格子の時に相当します。
 X線回折とは、結晶の逆格子を見ることに相当します。
 そう、体心立方格子の逆格子は面心立方格子なのです。
 
 構造因子(低対称な格子の場合)
 =======================================
 
 構造因子が複素数となるのは、構造の対称性がある程度崩れていなければ出てきません。
 例えば、 $\bm{d} = (0,0,0),\bm{d} = (a/4,0,0)$ が基本構造の単純立方格子だったら複素数になります。
 計算してみると、この単純立方格子の逆格子ベクトルは $\bm{K}=\dfrac{2 \pi}{a}(n_1 \hat{\bm{x}}+n_2 \hat{\bm{y}}+n_3 \hat{\bm{z}})$ ですから、構造因子は、
 
 <tex>
 S_k &= 1 + e^{i \pi/2 n_1} \\
 &= 1 + i^{n_1} \tag{##}
 </tex>
 
 となります。これはつまり、逆格子ベクトル $\bm{K}$ (もっと正確に言えば $\bm{k}+\bm{k}^\prime$ )を $\bm{K}=\dfrac{2 \pi}{a}(\hat{\bm{x}})$ に
 選ぶと、 $(100)$ 反射となり出てくる光は、
 
 <tex>
 e^{i \bm{K} \cdot \bm{0} } &= e^{i 2 \pi/a \times 0} \\
 &= 1 \tag{##}
 </tex>
 
 のものと
 
 <tex>
 e^{i \bm{K} \cdot (a/4)\hat{\bm{x}} } &= e^{i (\pi/2)} \\
 &= i \tag{##}
 </tex>
 
 つまり、出射光は位相が変わらないもの(式 $()$ )
 つまり、出射光は位相が変わらないもの(式 $(11)$ )、 $\pi/2$ だけずれるもの(式 $(12)$ )の二つがあるということです。例えば、原点の散乱体について出射光が $ \cos(\omega t) $で原点に出射するとすると、
 もう一つの散乱体の出射光は $ \cos ( \omega t + \pi/2) = \sin (\omega t) $ で出射するということです。
 つまり、散乱強度 $I$ は
 <tex>
 I &= \left( \cos ( \omega t) + \sin (\omega t) \right)^2 \\
 &= (\sqrt{1^2+1^2} \cos (\omega t + \pi/4))^2 \\
 &= 2 \cos^2 (\omega t +\pi/4) \tag{##}
 </tex>
 
 となり、相対強度 $I = |S_k|^2$ = (1+i)(1-i) =2$ で出てくることが分かります。
 
 複素関数で書くなら、
 
 <tex>
 I &= |(1+i)\exp (i \omega t )|^2 \\
 &= (1+i)(1-i) = 2 \tag{##}
 </tex>
 
 と分かります。ちなみに、今回は $1+i$ でしたが、 $1-i$ も同じことです。
 だって、注目点を原点からもう一つに移せば、今度は、 $\bm{d}=(0,0,0),\bm{d}= (-a/4,0,0)$ となるでしょう?
 
 最後に構造因子が一般形の時の散乱強度を書いて終わりましょう。
 
 <tex>
 I &= |S_k|^2 \\
 &= |(a+bi)\exp(i \omega t)|^2 \\
 &= a^2+b^2 \tag{##}
 </tex>
 
 今日はこの辺で、お疲れ様でした。
 
 @@author:クロメル@@
 @@accept:2013-12-24@@
 @@category:固体物理学
 @@category:固体物理学@@
 @@id:kouzouInshi@@
トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Modified by 物理のかぎプロジェクト PukiWiki 1.4.6 Copyright © 2001-2005 PukiWiki Developers Team. License is GPL.
Based on "PukiWiki" 1.3 by yu-ji Powered by PHP 5.3.29 HTML convert time to 0.006 sec.