物理のかぎしっぽ :記事ソース/交流電流の輸送1 のバックアップソース(No.1)
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交流電流の輸送1
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交流電流のいいところは、変圧が可能で長い送電線の大きな抵抗内を
輸送するとき、昇圧してやればジュール熱の損失を減らす事ができる
って聞いたことありませんか?私は、抵抗にかかる電
圧を上げるって言う事は、オームの法則から電流の増加を引き起こし、結局電力損失を
増大させてしまうのではないかということが疑問でした。
この記事では、簡単な回路方程式を解いてみてどんな仕組みで、
電力損失が減るのか考える事にします。
必要な知識は、複素電流を知っていることと、相互インダクタンスを知っている
ことです。

一つの変圧器をもつ回路とその回路方程式
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.. image:: chromel-alterCurrentTrans1-01-t.png

上図のような回路を考えます。変圧器と言うのは、巻き数の違う二つのコイルに
共通の鉄芯を挿入して、相互インダクタンスを持つようにしたものです。
自己インダクタンス $L_1$ を持つコイルの巻き数を $N_1$ とし、 
同じく $L_2$ を持つコイルの巻き数を $N_2$ とします。
また、二つのコイルを貫く磁束に漏れは無いものとし、相互インダクタンスは、  
$M$ とします。このとき、 $L_1=L_0 N_1^2$ 、 $L_2=L_0 N_2^2$ 、 $M=L_0 N_1N_2$ と
なります。 $L_0$ は、単位巻き数の二乗あたりのインダクタンスですが、
ただの比例係数として考えてしまってもかまいません。
特に有用な式として、 $M^2 = L_1 L_2$ があります。


キルヒホッフの法則より、それぞれの回路を一周したときの電圧降下はゼロだから、
<tex>
E(t)=L_1 \frac{dI_1}{dt}-M\frac{dI_2}{dt} \tag{##}
</tex>
<tex>
0=-M\frac{dI_1}{dt}+L_2\frac{dI_2}{dt}+RI_2 \tag{##}
</tex>
となります。

ここで $E(t)$ は電源電圧です。

今何がしたいかというと、 $E(t)$ を正弦波として与えた時の電流 $I_1 , I_2$ を求めて、
抵抗 $R$ での消費電力やそれぞれの回路での電力などを調べたいわけです。

回路方程式の特解
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交流電流は複素表現をすると、 $E=E(t)= E_0 e^{i \omega t}$ と書けます。
すると微分方程式の特解は、 $I_1=I_{10}e^{i \omega t}$ 、 
$I_2=I_{20}e^{i \omega t}$ と表現できます [*]_ 。ここで注意してほしいのは、 
$I_{10},I_{20}$ は複素数であって、波の位相がずれることを表現可能なことです。
つまり、 $A,\phi$ を実数として、
<tex>
I_1 &= Ae^{i (\omega t +\phi)} \\
&= (Ae^{i \phi})e^{i \omega t} \\
&= I_{10} e^{i \omega t} 
</tex>
のように、任意の正弦波応答を表せるということです。

.. [*] 真面目に微分方程式を解くと大抵の初期条件では減衰項(一般解)というものがでてきます。これは解が初期条件を満たすためのつじつま合わせのようなもので十分時間がたつと消えてしまいます。本質的で重要なのは $E$ に対する応答の定常解(特解)です。定常解とは、十分時間が経ったときの回路の応答になります。このような解の形を仮定することで特解のみを簡単に求めることができます。


式 $(1)$ 、式 $(2)$ は、微分演算を $i\omega$ に変えることができ、代数的操作で
解くことが可能になります。
こうして、式 $(1)$ 、式 $(2)$ を書き換えると、
<tex>
E=i \omega L_1 I_1 - i \omega M I_2 
</tex>
<tex>
0=-i \omega M I_1 + i \omega L_2 I_2 +R I_2 
</tex>
となります。

整理するために行列で書くと、
<tex>
\begin{pmatrix}
i \omega L_1 & -i \omega M \\
-i \omega M & i \omega L_2 +R 
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
I_1 \\
I_2
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
E \\
0
\end{pmatrix} \tag{##}
</tex>

こうしてこれは連立方程式となって、 $I$ を求めるわけです。
逆行列を求めてもいいのですが、計算が煩雑になるのでガウスの消去法を
用いることにします。

まず、第一行に $\frac{M}{L_1}$ を掛けて第二行に足します。
すると、
<tex>
\begin{pmatrix}
i \omega L_1 & -i \omega M \\
0 & i \omega (L_2-\frac{M^2}{L_1}) +R 
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
I_1 \\
I_2
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
i \omega L_1 & -i \omega M \\
0 &  R 
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
I_1 \\
I_2
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
E \\
\frac{M}{L_1}E
\end{pmatrix} \tag{##}
</tex>

よって、第二行から
<tex>
I_2=\frac{M}{R L_1}E
</tex>
が得られました。

これを使って、第一行から $L_2$ を消去して、
<tex>E &=i \omega L_1 I_1 -i \omega M L_2 \\
 &= i \omega L_1 I_1 -i \omega\frac{M^2}{R L_1}E \\
 &= i \omega L_1 I_1 -i \omega L_2 E
</tex>

<tex>
\frac{R+i \omega L_2}{R}E =i \omega L_1 I_1
</tex>

<tex>
I_1 = \frac{R+i \omega L_2}{i \omega L_1 R}E
</tex>

これで必要な情報(この方程式の特解)が求められました。

<tex>
I_1 = \frac{R+i \omega L_2}{i \omega L_1 R}E \tag{##}
</tex>
<tex>
I_2=\frac{M}{R L_1}E \tag{##}
</tex>
です。

現象の言葉での説明
=====================


電流 $I_2$ に注目してみましょう。
巻き数を用いて表示すると、
<tex>
I_2 &= \frac{M}{R L_1}E \\
&= \frac{L_0 N_1 N_2}{R L_0 N_1^2}E \\
&= (\frac{N_2}{N_1})\frac{E}{R}
</tex>
よって、コイル $L_2$ の巻き数 $N_2$ の方を大きくしてやると、回路2の電流は
増加することがわかります。 $I_2$ に $R$ を掛けてやると電圧 $V_2$ ですから、
<tex>
V_2 &= (\frac{N_2}{N_1})E
</tex>
これもやはり巻き数 $N_2$ の増加に対して、増加することがわかります。

抵抗 $R$ での消費電力 $P_2$ は、
<tex>
P_2 &= RI_2^2 &= R \frac{M^2}{R^2L_1^2}E^2 \\
&= \frac{L_0^2 N_1^2 N_2^2}{RL_0^2 N_1^4}E^2
&= (\frac{N_2^2}{N_1^2})\frac{E^2}{R}
</tex>
となり、やはり増加します。

一方、電流 $I_1$ はどうなるでしょうか?簡単のため、交流の特徴である $\omega$ が十分大きい時を考えます。
<tex>
I_1 = \frac{R+i \omega L_2}{i \omega L_1 R}E \simeq \frac{N_2^2}{N_1^2 R}
</tex>
なんと、 $I_2$ や $V_2$ の増加よりも大きく、 $\frac{N_2}{N_1}$ の二乗で大きくなります。


よって、一段の変圧器では、
コイル $L_1$ に対するコイル $L_2$ の巻き数の比の増加は、私の疑問どうり、
電圧と電流を増加させ、抵抗での消費電力も大きくなってしまうという結果になりました。

しかし、この話にはまだ続きがあります。
変圧器を二段にした時、面白いことが起こるのです。
ぜひ続きをご覧ください。

続きは こちら_ 。

.. _こちら : http://www12.plala.or.jp/ksp/elemag/alterCurrentTrans2/


@@author: クロメル@@
@@accept: 2007-05-30@@
@@category: 電磁気学@@
@@id:alterCurrentTrans1@@
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