物理のかぎしっぽ 記事ソース/動きをイメージする

記事ソース/動きをイメージする

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動きをイメージする
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物理はイメージだ,とはよく言われる言葉です.ではイメージとはなんでしょう,イメージするとはなんでしょう.物理には数式がたくさん出てきます.でも物理は数学とは違います.物理を勉強する人は,数式の意味を読み取ってやって,イメージして現実世界に合わせてやらななければいけないと思うのです.

もちろん数学でも式の理解は必要です.しかし数学では,必ずしも自然現象に合っていなくても理論に矛盾がなければOKですが,物理はそうはいきません.理論に矛盾がなくても観測結果と合っていなければ困ります.

物理の数式は普通,質量だとか速さだとか長さといった現実に測定できる量を変数として持っています.この変数の意味を現実と照し合せ,数式が何を言っているのかを聞き取ってやらなければなりません.これがイメージするということではないでしょうか.


物を投げるイメージ
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イメージの一例として,物を投げた場合を考えましょう.力学で扱う場合,この「物」とは前節で言った質点のことです.しかし質点だとイメージしにくいのでボールを思い浮かべることにします.

第一段階
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あたなはボールを斜め上に向かって投げてみました.するとボールはどうなるでしょうか.斜め上に飛んでいきます.斜め上に飛ぶようにボールを投げたのだから当然ですね.そのボールはどうなりますか.ずっと真っすぐ飛んでいくでしょうか.そんなわけありませんね.ボールはやがて地面に落ちて来るでしょう.上に投げたものはやがて下に落ちてくる,当然です.この物を投げるイメージができれば第一段階は終了です.

第二段階
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僕たちの生きている世の中には空気がありますから,投げたボールは空気抵抗というものを受けます.風の強い日に自転車を漕ぐのはしんどいですね.あれも空気抵抗です.ボールは空気抵抗によって運動の反対方向に力を受けます.そしてやがて減速してしまいます.でも空気抵抗を数式で考えるのはなんだか複雑そうだし,影響が小さい場合は無視していいかもしれません.とりあえず,空気抵抗をイメージの中では取り去ってしまいます.要領よく「無視する」のです.

第三段階
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ボールの重さを変えてみましょう.いろいろなボールを思い浮かべます.投げるボールの重さによって,投げた後の状況も変わるはずです.重ければあまり遠くへ飛ばないでしょうし,軽ければ投げやすいでしょう.

さらに,投げる角度と速さも変えてみます.垂直に投げたら真っすぐ飛んでいって,真っすぐ落ちてくるでしょう.斜めに投げたら斜めに飛んでいって,遠くの方で落ちるでしょう.また,軽く投げたら,つまり投げる速さを小さくしたら,そんなに遠くへはいきません.投げる速さを大きくしたら遠くへ飛んでいくでしょう.

速さとか角度とかを抽象化します.変数に置き換えるのです.重さを m,速さを v,投げる角度を θ とします.さらに,投げてから経過した時間を t とします.

「m の重さのある物を角度 θ で速さ v で投げた」と聞いたとき,ああ,m が大きければ v を大きくするのに力がたくさんいるだろうし, θ が90度なら真っすぐ飛ぶだろうな. t が小さければ(投げてからすぐなら)投げた人の近くだろうし, t が大きければ(投げてから時間がたてば)物は遠くへ飛んでいるだろうな,とイメージできれば第三段階は終了です.

第四段階
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数式で考えやすいように,座標軸を設定します.座標というのはグラフを描いたとき出てくるあれです.中学の数学で関数のグラフを描いたことがあると思います. y = 2x とかいうやつです.

数学の場合,y や x に特に意味はありません.しかし物理は違います.物理ではいつも,変数に「物理的な意味」があります.ここでは垂直方向の距離を y,水平の距離を x とします.原点は,物を投げた人が立っている場所です.真横から見ているイメージですね.だから垂直距離と水平距離という2次元で見ています.

第五段階
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最後に,数式に置き換えます.第四段階のイメージを数式で表現するとつぎのようになります(重さ m は入っていませんが,それは v を決めるときに使われます).今は,数式の詳細はあまり気にせず,とりあえずこういうものかと思いながら眺めてみてください.
<tex>
y &= v\sin\theta -\frac{1}{2}gt^2\\
x &= v\cos\theta \cdot t
</tex>
こういう数式を書くには力学の知識が要りますが,今は数式の詳細はどうでもいいんです.数式を見たときに,ただ漠然と式があるなーと思うんではなく,第四段階から第一段階まで遡ってイメージを膨らませることが大事なのです(じゃあ数式の詳細はどうでもよくないじゃないかと突っ込まれそうですが).

物を投げるという行為が,抽象的な要素(v,θ,t)を保ちつつ,具体的にどういった動きをするのかを数式で表せたことが大事で,そして凄いことです.現実,といっても空気抵抗を無くしたりの単純化はしてありますが,現実に近いものに合わせるには変数を実際の値で置き換えてやれば瞬時にできます.

ある重さの物をある速さである角度で投げたとき,ある時刻ではどこどこにあるはずですよ,最終的にはどこどこに落ちますよ,ということがこの数式から完全に予測できます.まるで神さまのようです.そうするとこの数式がなにかとても大切な,宝物のように思えてきませんか?


イメージ + 基本法則 + 数式 = 物理
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どうでしょうか,物理の数式がイメージできれば,なんだか少し楽しくなりませんか.漠然と物を投げるイメージをするのは簡単ですが,ボールを時速30キロメートルで仰角30度で投げたとき,2秒後にはどこにあるのか,といったことをイメージだけで正確に予測するのは困難です.

物理はそれを基本法則と数式のサポートによって予測可能にします.イメージさえできれば,数式は現実世界を表現するとても素晴らしい道具です.これは簡単な例でしたが,実際にはイメージするのがもっと困難な運動でも,同様にイメージと数式で表現できます.

夜空に浮かぶ天体の動き,電球の放つ光の色,紙飛行機が空中を翔ける様子,車のエンジンの爆発とその運動,海面に起こる様々な形の波,さらには直接目でみることのできない電線を流れる電流の動き,結晶の微細構造などなど,みんな物理の対称範囲です.物理ってすごいですね.そう思ったなら,これからきっと物理の虜になっていくことでしょう. 


@@author: 崎間@@
@@accept: 2004-04-21@@
@@category:力学@@
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