物理のかぎしっぽ 記事ソース/組みひも群

記事ソース/組みひも群

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記事ソースの内容

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組みひも群
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無限巡回群の例として、組み紐の群を紹介します。組み糸とも呼びます。英語では $braid \ group$ です。 $braid$ というのは、編んだ紐や、三つ編みのことです。 


絡まった紐
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図のように、 $P_{1},P_{2}$ と $Q_{1},Q_{2}$ とを、二本の紐で結ぶことを考えます。 $P$ 側を出発して紐をたどって $Q$ 側に至るとすれば、紐のねじれ方は互換 $(1 \ 2)$ に対応していることが分かるでしょう。ただし、ただの互換と違うのは、どちらの紐が上に来るかで、ニ種類のねじれ方が考えられることです。二本の紐の場合、一つの互換に、組み紐群の元二つが対応するわけです。(少し切れたように描いてあるのは,その場所での上下関係を表わすためで,切れたように見える紐は後にあるという意味です.)



.. image:: Joh-Braid2.gif 
  :align: center


紐を捩る操作について、紐の全てのねじり方の集合は群となります。


1. 紐を連続的にねじるねじり方も集合に入っているはずです。紐をねじるという操作に関して、集合は閉じています。
2. 結合則がなりたちます。
3. 単位元があります(まったくねじらないことです)。
4. 逆元があります(反対向きにねじることです)


どんどん同じ方向にねじり続けていくと、いつの間にか紐が真っ直ぐもとに戻ってた!・・・なーんてことはありませんから、この「ねじる」という操作の組み合わせは無限にあります。紐を一回ねじる操作を $a$ と置くと、全ての元は $a^{m}(m=\pm 1,\pm 2,...)$ と表わされますから、紐が二本の組ひも群は無限巡回群になります。


.. [*] 無限巡回群ということは、組みひも群は整数全体の加群と同型ということです。



3本以上の紐
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3本以上の紐をねじる場合、次の図のように、一本は変わらずに他の二本が入れ替わる操作と、3本が全て入れ替わるような操作とが出てきます。


これらには対称群の互換と巡回置換がそれぞれ対応しますが、さらに紐の交点における、紐の上下の位置関係による違いがありますから、実際は以下に示したように、互換が6種類、巡回置換が8種類あります。

.. image:: Joh-Braid8.gif 
  :align: center


もちろん、もっと絡んだ紐を考えることもできます。たとえば、隣のまっすぐな紐に何回か絡んで戻ってきても置換としては変わりません。こんな変換まで考えると、組み紐群の元には、一つの互換でさえ無限にあると言えるでしょう。


.. image:: Joh-Braid10.gif
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巡回置換は互換の積で表わせますので、対称群の元の中で、3本の組み紐の組み方に対応する置換は $(1 \ 2)$ , $(2 \ 3)$ と、単位元の3つだけです。このように、組み紐群と対称群の元は一対一には対応していませんので、組み紐群と対称群は同型ではありません。


.. [*] 3本以上の組みひも群の操作が一般には非可換であることを確かめてみましょう。

.. [*] 紐の伸び具合や、角度などは気にせず、どっちが上でどっちが下か(曲げたり伸ばしたりしても、変えられない位置関係)だけを気にするのが、位相幾何学と呼ばれる分野です。


.. [*] 交点での、紐の重なり方を一切無視したときに組み紐群は対称群に退化するとも言えるでしょう。組み紐群から対称群への写像が全射になるとも言えます。全射については 準同型写像_ を参照してください。


話が少し位相幾何学の方へ逸れますが、下の図のように、上から下に流れて落ちてくる紐を考えてやると、どんなにこんがらがって見えても、それを詳しくほぐして見ると、組みひも群の元の積として表現できます。


.. image:: Joh-BraidSak.gif 
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例えば、4本の組みひもについて、 $i$ 番目と $i+1$ 番目の紐を右にねじる操作を $\sigma_{i}$ 、左に捩る操作を ${\sigma_{i}}^{-1}$ とすると、上図の組み紐の状態を ${\sigma_{1}}{\sigma_{3}}{\sigma_{1}}{\sigma_{4}}^{-1}{\sigma_{2}}^{-1}{\sigma_{4}}^{-1}{\sigma_{2}}^{-1}{\sigma_{4}}^{-1}{\sigma_{2}}^{-1}{\sigma_{1}}^{-1}{\sigma_{3}}{\sigma_{2}}{\sigma_{4}}{\sigma_{3}}^{-1}$ と表現できます(上の方から順番に操作していきました。番号は紐に固有の名前ではなく、そのときどきに何番目の紐と何番目の紐を入れ替えるかだけを意味することに注意してください。)


このような、紐のねじれ方を表現する、置換操作の積を *組み紐語* といいます。これで、こんがらがった紐を式で表わすことができるわけです。


.. [*] 組み紐群の研究を最初に行ったのは、オーストリアの数学者アルチン( $\text{Emil Artin (1898-1962)}$ )です。音楽の都ウィーン生まれのアルチンの母はオペラ歌手で、アルチンも、生涯に渡って数学と同じくらい音楽を愛したということです。組み紐の研究から発展した結び目理論は、現在では位相幾何学の重要なトピックですが、アルチンが研究を発表した当時は、このような分野はとても斬新なでした。


組み紐群の話は、このあと勉強していく群論の話とはあまり関係ありません。群論が応用されている一つの例として、そんな話題をあったという程度に覚えておいて頂ければ良いと思います。


.. _準同型写像: http://www12.plala.or.jp/ksp/algebra/Homomorphic/


@@author:Joh・丹下@@
@@accept: 2006-04-23@@
@@category: 代数学@@
@@id: BraidGroup@@
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